京乱記
あずち
プロローグ 灰と血の都
時は戦国。先の大乱より、はや八十年。
かつて栄えし天州の都、京は今や、瓦礫と灰と血のるつぼ。
藤の御所は焼け落ち、幕府の名も過去の遺物。
残るは流れ者、野武士、追われた浪人、飢えた百姓、盗賊。
京で生きる者は、皆、刀を帯びて彷徨う。
京を取り囲むは名だたる戦国大名たち。
西に楠原、東に斎川、南に葛葉、北に倉間。
四方を睨む群雄は、都を掌中にせんと軍を進めるが、
この荒れ果てた京を統べるには、剣でも軍でも足りぬ。
必要なのは、生き残る知恵と、他を食らう業の深さだ。
だが、誰ひとりとして、この地を真に手にした者はいない。
その京の片隅。
朽ちた茶屋に身を潜め、火を囲む一団があった。
数は十程。焔牙衆。旗も家も持たぬ野武士の寄り合い所帯だ、
ただ生きるために力を貸し合う。
そのうちのひとりが、主人公、弦八。二十四。
かつて百姓か、あるいは落人か、誰も問わぬ。
弦八の隣に座るのは、幼き頃からの相棒、虎之介。
顔には感情を隠すような面頬、寡黙ながら、背に大太刀を負う。
かつては名のある家に生まれながらも、いまは弦八と肩を並べて生きる。
「……明日、朽松の街道に出る。楠原の斥候が通るって話だ」
焔牙衆の中でも最年長の一人、仁兵衛が低く呟く。
「奴らの首がひとつあれば、暫くは喰える」
誰も返事をしなかった。ただ、火がぱちぱちと音を立てた。
灰と血の都。
いつか、誰かがこの地を手にするのだろうか
あるいは、すべてが灰に還るだけか。
夜は静かに、更けていった。
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