【南雲忠一】サイパン・グアムを手に入れろ①
「君、十二月のサイパン、グアムは乾季という認識で正しいか?」
「はっ、その通りであります。天気が安定しており、カラッとした暑さが特徴です」
「空気は乾燥している。それなら、火攻めが使えるな。いや、それでは、せっかく手に入れた土地を自軍の拠点として使えなくなるか」部下の返事を受けて、南雲はぶつぶつと言いながら、一人で状況を整理する。
「待てよ、乾季ならでの作戦があるじゃないか!」南雲が唐突に大声を出したので、周りにいた部下たちは驚きのあまり飛び上がる。
「どうやら、次の作戦が決まったらしいぞ」「他の部隊より戦果を上げられる作戦に違いない」
「君たち、よく聞きたまえ。今回の作戦では敵の港は攻めない」
「港を攻めない!? お言葉ですが、それではこちらが……その……負けてしまうのではないでしょうか。敵艦の攻撃をもろに受けてしまいます」部下が恐る恐る進言するが、南雲の考えは変わらなかった。
南雲は部下たちの前に地図を広げる。
「今回、攻めるのはここだ」南雲はサイパンのある一点を指すとそう言った。
「もしかして、今回の作戦は――」
「そうだ。君たちは賢いからすぐに理解できたはずだ。決行は明日の早朝。奴らの驚く顔が目に浮かぶよ」南雲は高笑いしながら作戦室をあとにした。
翌朝。空母では敵地を爆撃すべく準備が進められていた。南雲は今回の作戦に絶対の自信を持っていた。
「さて、準備は整った。優秀な君たちなら、必ずや作戦を成功に導くだろう。君たちの奮闘を祈る」
南雲がそう言い終えると、次々と零戦が目的地めがけて飛び立つ。零戦は敵の港を避けて、サイパンの奥深くに向けて飛行した。そして、目的地である水源めがけて爆撃を開始する。
「今のサイパンは乾季。水不足に困っているはずだ。さらに、水源を爆撃して追い打ちをかければ、奴らも悲鳴をあげるに違いない」
そう、今回の目的は戦わずして勝つことだった。アメリカ軍の防御は港周りに配置されている。南雲の作戦は敵の盲点を突くものだった。
数時間後、サイパンの奥地からは煙が立ちのぼっていた。それは、南雲の作戦が成功したことを意味していた。
「君たち、水源を徹底的に叩いてくれただろうな?」
「はい、水源付近及びそこへ続く道を爆撃いたしました」パイロットたちは敬礼をしながら、南雲の問いに答える。
「よろしい。高雄をはじめとした我が艦隊は、敵軍と一定の距離を保って待機。奴らは数日で音を上げるはずだ。さて、その間にグアム攻略の作戦会議をしようじゃないか。何事も効率が大事だからな」
南雲は思った。アメリカ軍も馬鹿じゃない。間違いなく同じ作戦は通用しない。しかし、南雲の頭の中では、すでにそれを考慮した作戦が組みあがっていた。グアムの乾季を利用した壮大な作戦が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。