3-6:「追撃戦、苛烈」

 守屋等を乗せて発着場より飛び上がったOH-6に。他より飛来した軽攻撃機仕様のOH-6や、AH-64Dが数機合流。

 追撃隊を形成して追撃を開始。


「あれだ!まだ遠くないッ!」


 刹那。OH-6の上でその飛行進路方向に、目標の巨大飛竜を中心とする飛竜隊形を見つけて特戦の二尉が発する。

 その巨大飛竜を護衛する小型飛竜の騎竜達が、進路を反転してこちらに回頭する姿を見せたのはその直後であった。


「来るかッ」

「ッ、騎士道精神ってか!」


 それを見て零す守屋に、皮肉気な声を上げる特戦二尉。

 その直後に飛竜達がその顎を開いて火炎弾を吐き、あるいは操る騎手が弓を弾き。攻撃の手を見せて寄越した。


《小手で止められると思うなッ!》


 通信に上がり聞こえたのは、守屋等の乗るOH-6を操る機長の張り上げ声。

 そして追撃のヘリコプター隊は隊形を解いて散会。

 軽攻撃機のOH-6やAH-64Dが先行し、空中戦を――いや、一方的な殲滅戦を開始した。


 勇敢にもその身を挺して巨大飛竜を護ろうとした騎竜兵達は。

 しかし直後に撃ち放たれ叩き込まれた空対空ミサイルや、チェーンガンや機関銃の投射によって。次にはいとも容易く宙空で砕け散らされ、儚く潰え墜ちて行く末路を辿った。


「悪く思うな」


 その墜ち行く飛竜騎兵達を掻き分け潜り抜け、守屋等を乗せるOH-6はそれを突破。

 特戦二尉は、悲しいまでの姿で墜ちて行くそれを後方眼下に見て。静かに淡々とそんな一言だけを零す。


「見ろッ、地上の隊が逃げたのをとっ捕まえてるッ」


 そこへ、OH-6に同乗していた特戦の陸曹が声を発し寄越した。

 示されたのは機上より見える眼下地上、帝都の正面城門に近い場所で。先に通信にあった地上より逃走を図った馬車列を、地上部隊が阻害する戦いの様子が見えた――




 一度場面は地上へと移る。

 飛竜の群れとは別に地上より脱出を図ったと思しき、陸竜に引かれるいくつもの馬車からなる一隊。

 それは進路の全てを蹴飛ばす勢いで、まさに死に物狂いの様相で、脱出を目指し街路を駆けていた。

 前線で戦闘を行っていた自衛隊部隊は、唐突のそれに初動が追い付かずにいくつかのポイントをすり抜けられてしまい。馬車列はいよいよ、目指した帝都の正面城門に近づこうとしたが。

 しかし脱出を図る帝国の馬車列のその幸運も、長くは続かなかった。


 ――ゲシャッ、と。


 馬車列の中段を成す一台が。脇道より唐突に出現して突っ込んで来た物体の体当たりを受けて、面白いように吹っ飛んだ。

 それを成したのは――富士普通科戦闘団の24式装輪装甲戦闘車。

 馬車列の脱出を阻止するべく回り込んだそれが。今まさにその鋼鉄の体をもっての体当たりを、陸竜馬車のそのどてっ腹に叩き込んだのだ。


 隊列中段を襲ったそれに、後続は強制的に停止を余儀なくされる。

 そしてそれより前に位置していた数台の馬車も、別の巨大な存在にその針路を阻まれる事となる。

 街路の向こうより押し上げ現れた富士機甲戦闘団の10式戦車が、進路を馬車列の進行方向を塞いだのだ。

 さらに一拍遅れ、後方からは軽装甲機動車や小型トラックなどの軽車輛に乗って普通科の一個小隊が到着。降車から散会展開して馬車列の退路を断ち、戦闘行動を開始。


 自衛隊側の急襲に。

 帝国の馬車列の御者を務めていた兵や、乗り込んでいた兵達が降りて抵抗の気配を見せたが。

 それは形を成す前に、儚く潰える運命を辿った。


 初っ端。その咆哮で圧し牽制するように、24式装輪装甲戦闘車が砲塔旋回から備える30mm機関砲を投射。

 すぐ前にあった馬車を、それを引いていた陸竜や付近に居た兵達ごと、木っ端微塵に弾き砕いて飛ばした。


 さらに散って抵抗を、戦いの動きを見せようとした帝国兵達にしかし襲ったのは。10式戦車搭載の12.7mm機関銃、ないし同軸の7.62mm機関銃の掃射射撃。

 執拗な、舐め浚えるような苛烈な射撃が。帝国兵達を片端から襲い喰らい、人から獣人から亜人種までの兵を一切の差別なく撃ち砕き血肉へと変えた。


 さらにその間に、24式よりも搭載の普通科一個班が降車展開して戦闘行動を開始。

 後方に周り込んだ一個小隊と連携し。これによって戦車と装甲車の撃ち零しが念入りに潰されて行く。


 さらにその場には増援の戦車に装甲車、各部隊が駆け付け。苛烈さを増す自衛隊側の火力、銃火の咆哮。

 それに反比例して帝国兵の叫び声、悲鳴は潰え消え、動くものは居なくなっていく。


 その完全な制圧沈黙に、さほど時間は掛からなかった――




「――向こうは任せていいな」


 上空。OH-6上より眼下の馬車列の確保の様子を見て、特戦の二尉はそんな声を零す。


「アパッチが前に行くッ!」


 その最中、空の上でも状況は目まぐるしく動く。

 今先の護衛の飛竜騎兵を容易く屠った後。AH-64Dの一機が加速し先行。逃走を続ける巨大飛竜との距離を詰め――次にはその機に備える30mmチェーンガンを唸らせた。

 火線は恐るべき精度で巨大飛竜へと届き、その巨体を縫い付けるように喰らい貫いた。


 その巨体に、翼に大穴を開けられ。巨大飛竜から響き上がり聞こえるは痛ましい悲鳴。

 しかしさらに30mm機関砲の火線は再び容赦なく叩き込まれ、今度は巨大飛竜の翼の付け根を狙い撃った。

 それは巨大飛竜の翼をついには千切り落とし、その飛ぶ力を奪い去った。


「仕留めたッ――墜ちるぞッ!」


 OH-6上より様子を見止めた特戦の二尉が張り上げる。その言葉通り、直後には巨大飛竜は揚力を失い飛行進路をガクンと下げて変え――墜落を始める。

 みるみる内に高度を下げ、急な斜めの進入角度で地上へ近づき。

 ついに、地上地面にその巨体を接触。

 上空からでも分かるその荒々しい激突の様子を見せながら、地上を擦って引き擦り。帝都よりいくらか離れた地上のその一点にて、ようやく停止する様子を見せた。


《下げるぞ、降下急襲に備えろッ》


 OH-6の機長から促す言葉が寄越され。直後にはOH-6は墜落した巨大飛竜を追いかけて、その確保を目指してグォと降下を開始した。

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