1-4:「軌道(みち)をすすむ Midnight force(真夜中の力)――」
「――ふざけんなよ、どうなってやがんだよ……ッ!?」
戦闘――いや一方的な虐殺なまでのそれが広がり巻き起こる片隅で。グェルドはまた、いやこれまで以上の狼狽の声を漏らした。
突然出現した鋼鉄の怪物を前に一度は困惑したグェルドだったが、己の背後より追いかけ控える本隊軍勢の前には。それもコケ脅しで、すぐにまた己達の蹂躙が始まるだろうとの希望が在ったのだが。
その希望は、易々と挫かれた。
鋼鉄の怪物は破壊の火を噴き、その希望であった軍勢を塵屑の如く散らかし。そしてその長大な身から、また異なる武力を持つ者等を、そして異質な巨獣のようなものを吐き出し放ち。
軍勢を押し返し退け。果てに今に在っては、踏み込み蹂躙する光景を繰り広げグェルド達に見せつけていた。
「た、隊長ぉ……!?」
「アレはなんです!?どうすれば助かるんです……!?」
幸いかどうかは怪しいが、グェルドと生き残っていた少数の彼の配下達は。一帯の端に離れ逃れていた位置関係から、その凶悪な力の注意が向く先からは反れ、辛うじて生きながらえていた。
しかし状況が絶望のそれである事に変わりはない。グェルドの周りに縋るように集まっていた配下達は、恐怖と狼狽の滲み出る声で、助けを求めるようにグェルドに鳴き声に近いそれを掛ける。
「うるせぇっ!黙れぇっ!!」
しかしグェルドはそれに苛立ち、恫喝の勢いで怒鳴り声を発する。グェルドにもその答えなど分かる訳は無かった。
「クソがッ!こんなん聞いて無ぇ……こんなはずじゃ……――!?」
そして一人焦れ困惑するような色で、声を漏らすグェルドだったが。その彼が、異様な気配を感じ取ったのはその時だった。
寒気のようなそれ。それは危機感、己が身に危険の迫る直感。
獣のような機敏な感覚でそれを感じ取ったグェルドは、その顔を、視線を跳ねるように上げてその向こうを見る。
薄暗い世闇の中に、しかしその堂々たるシルエットは見えた。
それはまぎれもなく、
装甲列車編制より外れ離れる方向へ、会生は悠々たる歩みでズンズンと進んでいる。
その進行方向の先に見えるは、陸竜に騎乗する男――グェルドと、それを取り巻く数人の追っ手の荒くれ達。そしてグェルドの腕中には捕まえられていると見て正解だろう、青い肌を持つ少女の姿も見える。
今も上空には追加で撃ち上げられた照明弾が地上を照ら、その様子は明確に視認できた。
「――……!?」
一方のそのグェルドは、それまで以上の焦燥狼狽の色をその目に浮かべている。それは会生の姿を見止めた事が理由原因であった。
堂々と悠々としたまでの歩み動きで近づく会生。その身姿からグェルドが感じ取ったのは、異様なオーラ。その存在が只ならぬ脅威である事を嫌が応にも察しての危機感。
兵として、戦士として。素人ではない、むしろ玄人の域であるグェルドの経験と直感が、己に警笛を発していたのだ。
「ッぅ……――テメェ、動くんじゃねぇーっ!これが見えねぇのかぁっ!?」
焦り狼狽えたグェルドが次に取ったのは、その腕中にあるミューヘルマを翳し見せ主張する動きであった。
「っぁぅ……!」
その首を絞め上げられ、苦し気な声を漏らして苦悶の色を浮かべるミューヘルマ。
グェルドは咄嗟の思い付きでミューヘルマの身を人質として、盾として利用したのだ。
「っ!やめろ……!ぐぁ……っ!?」
それを見て声を発し荒げたのは、近くで同様に兵達に捕らわれていたクユリフ。しかし次には彼もまた、その体を乱暴に晒しだされて同様に人質の盾とされてしまう。
「そ、そうだ!見ろや止まれやぁ!」
「小娘がどうなってもいいのかぁ!?」
そして兵達も、最早助かるために何にでも縋る思いなのだろう。グェルドに縋る様に賛同の声を上げながら、臆しおぼつかない様子で剣や弓の類を掲げあるいは向ける。
「オラァ!分かったら大人しく――」
そして下卑た笑みをその顔の造り、一層の圧を込めた通告の言葉を発し上げようとしたグェルド。
――ザン――と。
しかし何かの鈍く、そして嫌な音。そして何らかが己の頬を掠め飛び抜けた気配。何より、歪な嫌な感触が、グェルドの身に走り襲ったのはその瞬間。
「ぇ――きゃっ!」
そして次に響くは、ドサリという小さな落下音と。可愛らしくも驚きのそれの悲鳴。
見れば、ミューヘルマの身はそれを捕まえていたはずのグェルドの腕より解放され。その地面へと落下していた。
「――は?」
しかし、グェルド自身に彼女を解放した意識は無い。
数々の異質な、おかしな気配。
そして己の体が訴える違和感を辿り、己が体に視線を落とすグェルド。
――そこにはあるはずの物。彼の〝片腕〟が無かった。
肩の付け根より伸びて存在するはずのそれは、忽然と消え。グェルドからは見えないが、そこには赤黒くグロテスクながらも、綺麗な切断面が覗いている。
「――ぁ……ぎぁあああああッ!?」
絶叫。
己が体に起こった事態を理解して、グェルドが低くしかし只ならぬ悲鳴を上げると同時に。切断面からはブシュと彼の血液が盛大に噴出した。
グェルドを中心に、それを見た配下達の悲鳴も交じり場が大混乱に陥る中。その背後では、ザン――何かが宙空から飛来し落ちて、地面に突き刺さる。
その正体は――鉈。それも刃と柄を合わせて全長は50cmを越える特大丈のもの。そしてその飛来方向を戻り辿り、その延長線上の元を見れば。
「――」
そこに構えるは、片手を突き出す投擲の直後の姿勢を取った、他ならぬ会生。
ここまでで想像に易いか。グェルドの腕を切断せしめ落とし、そしてミューヘルマを人質の身より解いて見せたのは、会生の投げ放った鉈が成したものであった。
会生は危機的状況の原因たるグェルドの無力化と、人質であるミューヘルマの解放を同時に成功させるべく。一切合切の迷いも躊躇も無い判断からの行動で、それを実行しそして成功させて見せたのだ。
「……ぁぁぁ……がぁぁ……!?」
己が腕を断たれ奪われ、激痛に悲鳴に近い唸り声を漏らすグェルド。
「ぁぁ……野郎ぉぉ……!」
しかし彼は次にはその顔を上げ。そして憎しみの色で染め上げた、獣の如き険しい顔と、獰猛の最たる色の眼で。刺すまでそれで、その向こう構える会生の姿を見て捉える。
己が腕を落した者が、その存在である事は明らか。
グェルドのそれは、その相手に向ける怒りと憎しみの色。
「……ざっけんじゃ無ぇぁッ!!」
そして次に、グェルドは雄叫びの如きそれを上げと共に、跨る陸竜の腹を蹴って、陸竜と共に飛び出した。
今は片方となり残る腕で、両刃の巨大剣を構え突き出し。会生を目掛けて仕掛けられた猛突進のそれは、憤怒と憎しみからのそれ。一矢報いるためか、果ては自棄か、それすらも定かではない感情に任せたそれ。
そして陸竜を走らせ距離を詰め――直後瞬間に、グェルドは騎上より飛んだ。
その身を宙空に飛び出し、そして降下。その片手の巨大剣を降下の勢いの乗せ、振りかぶる。
グェルドは悪辣な男だが、その身に携える豪腕と技量は本物だ。
その愛用の巨大剣で断ち切り、刃の錆としてきた相手獲物は数知れない、歴戦の大剣使い。
「死ねやぁあああああッ!!」
そのそれを持って憎き存在を断ち討つべく、グェルドは宙を舞い降り降下肉薄。雄叫びを響き上げると共にその巨大剣を、その豪腕だからそこ成せる凄まじい勢いで。今、振るい降ろした――
「――?」
しかし。一瞬の後にグェルドは驚き、いや最早呆ける近い感覚感情で目を見開いた。
巨大剣は確かに振るい降ろされた。しかし得られるはずの肉を、人の体を断った時の手ごたえが無いのだ。
見れば。巨大剣の振るい降ろされた先に、あったはずの憎き存在の姿がしかし忽然と消えている。見えるは虚しく空を切った巨大剣。
憎き相手はどこに行った?
――その答えはグェルドの真横より、衝撃を伴い訪れた。
「――びぇ゛ェ゛ぁ゛っ!?」
響いたのは、悲鳴。いや最早人の口より発せられた声と言うより、〝鳴った音〟。
見ればグェルドの横面には、正確には米神近くから斜めに入る角度で。金属製の棒――バールが叩き込まれめり込んでいた。
その顔は拉げ凹み、割られ断たれる域で変形いや壊れ。目を剥き出し零し、舌を突き出し、鼻血を噴き出し。鼻面は折れ、歯も軒並み折れ抜けて飛び散りながら。
グェルドの身を仰け反りもんどりうち、面白いまでの姿で打たれ吹っ飛んでいる。
果てには図骨の割れ砕け、ほぐれた脳漿が飛び散っていた。
「――」
その真横に淡々とした正反対の様子で立つは――やはり会生。
半歩身を捻って引いて姿勢から、その手に持つバールを最低限の動作で繰り出す姿を見せている。
経緯は、ほぼ今見えるまま。
会生はグェルドの襲撃からの脅威的な一撃を。しかしスッと、手軽な物での退けるかのように易々と回避。そこから続く動作でバールを繰り出し叩き込み、グェルドに致命的な一撃を与えて見せたのだ。
「ぁ゛ぎゅ゛ぇぁッ」
その視線の少し先で。グェルドは当然受け身など叶わず、グシャリと放られた人形のように地面に落下、その際にもう人の声ではないそれが漏れ聞こえる。
そして地面に崩れ沈み、ビクビクリビクと歪に痙攣。口と言う口、穴と言う穴から血や排泄物を噴き出し漏らして己が体を汚し。
さほど掛からない時間の後に、その動きも鳴りを潜める。
――それがグェルドが。事切れた、絶命した証であった。
「――
その襲い来た敵性の、どうにも指揮官クラスのようである男の最期の姿を、足元の少し先に見降ろしながら。
会生は自身の応戦行動の命中成功を、そんな淡々とした言葉を呟くことで表す。
「……う、うわあああ!?」
「か、頭っ、隊長がやられたぁ……!?」
そんな所へ。側らの少し向こうより、何やらまた狼狽驚愕の声がいくつが上がり届く。
グェルドの配下取り巻きの兵達がその発生源。兵達は己達の長の、誰よりも屈強な兵であるはずの彼が残酷なまでにあっさりと退けられ、そしてあまりに無残で無様な最期を迎えた事実を見せつけられ。
いよいよもって希望を失い、絶望のそれからの混乱に陥ったのだ。
「ひぃ!」
「く、糞ぉぉ……っ!」
そして兵達は背を向け逃走する。自棄から得物を手に走り迫ろうとするなど。すでに統率も何もないてんでバラバラの行動を見せ始める。
「――ぁ゛っ」
しかし。パーンッ――という乾いた破裂音のような音が高く上がり聞こえ。自棄からの攻撃を見せようとした敵兵の一人が、もんどり打って吹っ飛び崩れたのはその直後であった。
「き゜ぇッ?」
「びゃッ!」
さらに続け、そして始まり響き出したのは。多種多数の破裂音の協奏。
その音色の上がりに合わせるように、兵達は次から次へと悲鳴を鳴らし。何かに撃ち貫かれるそれの姿で、もんどり打ち吹っ飛び、地面に崩れ沈んでいく。
そしてわずかなその出来事の後に。
その場周辺に、グェルドを長としてた兵部隊の人間の立つ姿は一人すら残らず無くなり。わずかに残った陸竜は、主を失い怯えるように散り逃げ去り消えていく。
在るは、続け堂々と構える会生と。その身を捉える人間が居なくなり、しかし理解の追い付かぬ事態を目の当たりに茫然と身を置く、ミューヘルマやクユリフ達。
「――」
「っ!ひぁ……っ」
そして一瞬沈黙が支配した中で。会生とダークエルフの少女、ミューヘルマの視線が合う。
はっきり言って印象の良くない人相目つきの会生。別に本人は威圧の意図があったわけでは微塵も無いが、その尖る目つきと異様なオーラを前に、ミューヘルマはびくりと小さく跳ねてまた小さな悲鳴を漏らしてしまう。
そんな所へ――ザカザカと。
会生の背後後方より、複数の荒々しい足音と気配が聞こえ届いたのはその直後であった。
そして気配はすぐに傍まで着、次にはいくつかの人影が、会生の両側を駆け抜け通り姿を現した。
その姿は、いずれも緑を基調とした迷彩服に戦闘装具。現れたその正体は、陸上自衛隊の隊員等だ。
その数は6名程、それはその隊員等で編成されたチームであった。
89式5.56mm小銃、ないし64式7.62mm小銃を装備する小銃手を主とし。M870MCSショットガン装備の斥候近接員や、5.56mm機関銃MINIMIを担当する分隊支援火器射手を組み込む戦闘チーム。
その隊員等は次々に会生の傍を駆け抜けて行く。
「征羅ッ、一人でドンドン行っちゃうなよッ」
そして最後に一人の男性隊員が、通り抜け様にそんな言葉を、会生の名と合わせて飛ばし寄こし。バシッ、と会生の背を冗談混じりに叩いて駆け抜けた。
6名1組のそのチームは四方へ駆け散開すると、会生やミューヘルマ達を中心にして囲うように展開。片膝を着く、ないし腹這になるなどの姿勢に移行して各火器装備を構え、警戒の態勢に入った。
「――クリアー」
「クリアッ」
そして各員からは周囲一帯に敵性存在が居ない事を見止めての、報告の声が上がる。
「了解」
その各報告を受け取り返すは、今しがた会生に声を掛けた隊員。その彼は展開した各員が作る隊形の真ん中付近に位置し、周囲に視線を流してまた警戒のためのそれを見せる。
明かしてしまえば、今に荒くれの兵達を屠り排除したのは、その隊員等の一チーム。隊員等はその各々が装備する火器による射撃投射で、それを成し遂げ周囲をクリアして見せたのだ。
「
その受け取った隊員は、続けての指示の言葉を隊形の各員に送る。その隊員はその一チームの指揮者であった。それを受け、指名を受けた二名の隊員が警戒隊形より抜け、動きを見せる。
それぞれが歩み近寄る先は、未だ状況の理解に追いつけておらずに茫然としているミューヘルマ達だ。
「君、怪我はないかい?もう大丈夫だよ」
内のミューヘルマへ歩み寄り声を掛けたのは、百甘という名の隊員。長身で、そしてまるで王子様のような端麗な顔立ちのその隊員は。ミューヘルマの目の前を膝を着くと、微笑みを作って手を取り、口説くまでの声色でそう促した。
「ぁ、ぇ……はい……?」
一方のミューヘルマは、それまでの過酷で危機的な状況から一転し。そして目の前に現れた芝居がかったムーブの女の登場に、しかしまた困惑して戸惑う声を返してしまう。
「お姉ちゃん、大丈夫か?――ん?あぁ失礼、お兄ちゃんか」
その一方、クユリフの元へも。舟海と呼ばれた男性隊員が、何か気だるげそうな色を隠そうともしない様子で、しかしクユリフに案じる声を掛ける。
合わせてその美麗な顔立ちに一見、彼を女と違えたものの。すぐにクユリフが男と判別できた船海はそんな詫びる言葉を紡ぎつつ、助けの手を貸した。
「ぁ……あぁ、すまない……?」
クユリフはと言えば、その様子から現れた隊員等が害成す存在では無い事を漠然と感じながらも。しかし依然として多々の困惑は解決せず、呆けた声を上げてしまいながら、任せるままに舟海に手を貸され支えられる。
さらにそこへ、彼の愛馬であるエンペラルが駆け寄ってくる。エンペラル自身も荒くれ達にその体を害された身であったが、しかし見るに大事に至る傷は無い様子であり。
エンペラル自身はと言えば「そんな事よりクユリフの身だ」とでも言うように、クユリフに近づきその頭鼻先を突き込む勢いで寄せ、クユリフの身の安否を確認しているのだろう仕草を見せた。
「――ヴァルブ2よりコマンド。確認していた保護の要対象は、今を持って確保。命に別状はない模様、合わせて周辺を脅威排除から確保安全化。送レ――」
そのそれぞれの様子光景を端に見ながら、先のチームの指揮を担う隊員は、ヘッドセットに発して報告の言葉を通信上に上げている。
陸上自衛隊側はこの場に装甲列車で進入しての戦闘行動を開始するその直前段階で。すでにグェルド達敵性存在を、そしてその中に、また毛色の違う捕らえられ危機的状況にあるミューヘルマ達の存在を確認把握していた。
ここまでの一連の戦闘行動は、第一にはそのミューヘルマ達の保護を必要と見て敢行されたものであった。
通信の言葉が紡がれる間にも。その場には増援として87式偵察警戒車が荒々しく走り込んできて、適当な位置に配置停車。チームに警戒支援の提供を始める。
《了解、ヴァルブ2。支援班を向ける、それまで維持せよ》
「了」
呼びかける相手は装甲列車の指揮所。指揮所よりは通信統制担当の女隊員の声で、その旨了解と支援の班を向かわせる旨の言葉が返される。
それを確認し、隊員は了解の意思を告げて通信を終えた。
「――ったく。隊長が単身突っ込んでってどうするよ?」
それを追えた直後、隊員はその背後に接近する一つの気配を感じ取り。そしてしかし振り向き見るよりも先に、そんな呆れ交じりの言葉を紡ぎ上げる。
それに遅れ振り向き、気配の主を。背後の先より歩んで来ている人影を見止める彼。
そこには、また堂々と優雅なまでに歩いてくる姿。他でもない会生の姿が在った。
「必要と見た、
隊員の傍まで歩み到着した会生は、反する淡々とした様子で言葉を返し。合わせてそんな名前で隊員を呼ぶ。
寺院と言うそれがチーム指揮者の隊員の名。その寺院は会生の友人であり、そして今は一応の部下でもあった。
装甲列車編制にはその運用のためにいくつもの担当部署部隊が設けられているが。その一つに〝観測遊撃隊〟という隊が編成されている。
これは名が示す通り、主として装甲列車が火力投射を行う際の観測と、戦闘時の遊撃行動を担う目的もの。
そして、会生は現在その観測遊撃隊の隊長の任を指定されていたのであった。
寺院の言葉は、その隊長たる会生がしかし単身敵中に乗り込み大立ち回りを繰り広げた事に対する、咎めそして呆れる色を含めてのものであった。
なお、寺院に在ってはその観測遊撃隊の内に編成される、遊撃班の長を務める者。いまこの場に展開したチームこそ、その遊撃班であった。
しかしそんな寺院の咎める言葉に対して、会生は端的な必要性を示す言葉を一言返すのみであった。
「増援展開してくれたのは助かった」
合わせて会生、遊撃班が自身の援護増援として適切に展開してくれた事に。その判断行動に向けての礼の言葉を紡ぐ。
「ハァ、お前さんは乳児より放っておけん」
そんな言葉に、寺院は「こっちの苦労も知らずに」と言うよう色を顔に浮かべて。そんな一言を返し零した。
「ぁ……あの……」
その会生等の元へ。
何か掻き消えそうなまでの声色で、おずおずと駆けられる声が届く。
それを辿り会生等が視線を足元の先へ降ろせば、そこにはこちらを見上げるミューヘルマの姿が在った。
女隊員の百甘に肩を抱かれる彼女は、己が危機を脱した事は漠然と理解している様子だが。同時にその色にはまだ少しの警戒と、多分な困惑のそれが手に取るように見えた。
「っと、失礼」
ミューヘルマの言葉を受け、その姿を見て。
寺院は「いかんこっちが優先だ」と、思い出したような色を作り。まずはミューヘルマに詫びる言葉を紡ぐ。
「安心してください、我々はあなた方に害成すものではありません。あなた方を助ける目的で、この場に介入致しました」
そして改めての言葉を紡ぎながら、寺院はミューヘルマの目の前で片膝を着いて屈み、その視線を合わせる。
「助けに……?あの、あなた方は……?」
それにまた驚きと大きな疑問の色を、その青い肌の美麗な顔に作り。続けミューヘルマは、そう恐る恐る尋ねる言葉を紡ぐ。
「我々は――
「りくじょう……?にほん……――?」
寺院の名乗りの言葉に。
しかしミューヘルマはその言葉を復唱しつつも、その困惑戸惑いの色をより一層濃くした。
そして、目の前の寺院を。横で己の身を保護する百甘を。
最後に。己が身を恐怖の最中、悪辣な荒くれより解き放ってくれた存在。今も目の前で堂々と構える、会生の姿を順に見上げる。
とにかく、不思議と不可解の中で少しでも回答を求めるかのように、走らされたその視線。
ミューヘルマのそれも無理は無かった。
――ジエイタイ。
――ニホン。
そのような組織の名も。国の名も。
ミューヘルマは一度も聞いたことが無かった。
当然であった。
そのニホンと言う国――日本国は、この世界に。
否。日本からすれば、この〝異世界〟の地には。この〝別の宇宙世界〟には、存在しない国であったからだ――
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