九話 そうだ王都へ行こう 其の伍

「まぁ、人を見た目で判断するなって言うからな。さっきは悪かったよ。改めて、自己紹介させてもらうぜ、鍛治士のメタリカ、仕事名はヴォルガ、父は先代で、俺は二代目だ。よろしく頼むぜ」


 ヴォルガと言う言葉を聞き、バサラはここ一番の食いつきを見せた。


「ヴォルガの娘さんか! いやー、あいつに娘が出来たなんて驚いたよ! その赤い髪、相対的な青い瞳、うん、うん! お父さんそっくりだ!」


「なんだー? おっさん随分食いつきがいいな。ま、そりゃそうか、うちの父親はすげえ鍛治士だったからな!」


 二人が会話をする中、ムスッとした表情をジータが浮かべており、そんな彼女にグランが喋りかけた。


「どうした? 嫉妬してんのか?」


「してない」


「そうか、なら、その表情、やめた方がいいぜ。面だけは良いのにそれじゃ台無しだ」


「うっさい」


 そんな彼らを横目に会話を続けるバサラとメタリカ。父の知り合いということで話が合うのか、普段の彼女ではないほどに様々な弾ませる。


「がはは! そうか! そうか! なら、よし! バサラのおっさん、俺もあんたの実力見たくなった! 準備するからちょっと待っとけ!」


 メタリカはそう言うと仕事場に戻り、少しして、グランが被れるほどの兜を持って来た。


「おっさん! あんたの本気見せてくれ! これを縦に裂いたら俺が武具をなんでも作ってやる! だが、もし裂けなかったら今、ジータと取引してるもんを俺が貰い受ける」


「ちょっと! メタリカさん! 私が頼んだ仕事と御師様は関係ないでしょ!」


「んだ~? ジータ、四護聖の師匠ってならそれくらいやってのけれるだろ? もしかして、怖いのか? 年老いたおっさんが」


 メタリカの煽りに一番に反応したのはジータであった。


「御師様やってやろうじゃありませんか! この舐めてる鍛治士に実力を見せつけてやりましょう!」


「あはは! ジータの無茶振りが始まりやがった!」


 グランは笑い、ジータは目を輝かせる。

 そんな彼らに流されるがままに、バサラは兜を割ることになった。


(えっ?! 待って!? 本当にあれやんの!? 昔は催しのために年一でやってだけど、爺さん婆さんだけになって、村に子どもがいなくなった後から全然やってないのに?!)


 そんなことを考えている最中、いつのまにか兜の準備と鉄の剣が手に握られており、徐々に現実を帯びて来たことを受け入れられないままバサラはその兜の前に立った。


 兜は木に固定され、しっかりと真ん中を取られえる様になっており、それを前にして、バサラは兜を眺めた。


(いい兜、流石、ヴォルガの娘さん。素晴らしい仕上がりだ。剣もそこら辺から持ち出したって感じなのに洗練され切った氣を纏ってる。それでも、兜は本気で探っても壊れそうな部分が殆どない。縦に一発、か。ふー、よし、覚悟を決めろ。思い出せ、30年前を)


 兜を前に、剣を握る手に力が入る。

 呼吸をすると共に緊張からか顔から汗が垂れる。だが、そんなのを気にすることなく、集中力を高めると深呼吸をし、構えた。


 ジータとグランにはバサラが纏う静かながらも練り込まれた闘気が見えており、時間が経つに連れて、それが深く、濃くなって行くのを感じ取っていた。


 バサラには公にしていない特技がある。

 それは自分の目に映る他人の気配、氣が見えること。


 そして、それは無機物にすら機能する。

 作り手の氣、それが物に載るが故に、彼はその乱れ、その一瞬を突くことを得意としている。


 一瞬、風が吹いた途端、兜の氣が揺れた。

 周りからすればなんの変化がある訳でもない。だが、バサラには、彼にはほんの少しの変化、その穴を縫い、突くことで不可能を可能にした。


 いや、して来た。


 剣を振り翳し、一気に力を込めて、自身の氣すらも御し切り、完全な状態で振り下ろす。


 鉄と鉄が打つかり、甲高い音が鳴り響く。

 厚さ2ミリ程の兜の頂点に剣が打つかると、そこから固定していた木までを一気に縦に叩き斬った。


 ジータとグランは久々に見た、師匠の催しに嬉しそうにしており、彼らよりも驚きを隠せずにいたのは兜を割ることを強要したヴォルガであった。


 ヴォルガはバサラの一挙手一投足を見て、彼が本当に四護聖の師匠であったことを理解すると同時に、その計り知れない強さの底を識る。


(マジかよ、あの剣、殆ど研いでないなまくらだぞ? それであの兜どころか木まで縦に綺麗に切り落とすなんて)


 心の声とニヤつく顔ををなんとか抑えるとヴォルガは兜に手を取り、バサラに喋りかけた。


「合格だ、バサラの旦那。俺は今日からあんたをちゃんとしたビジネス相手として接する。最高の武具を揃えるぜ」

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