三話 邂逅 其の参

「準備はいいかい?」


 バサラが問いかけるとジータははしゃぐように答えた。


「ええ、御師様が組手をしてくれるなんて、光栄です!」


 二人の会話に苛立ちを覚え、遮るようにユースが声を上げる。


「これより四護聖ジータ・グランデ対カツラギ・バサラの組み手を開始する。礼、始め!」


***


 ことの発端は神殺しをバサラに頭を下げ、頼むジータに対してのユースの反応からである。


「ジータ様! これ以上は時間の無駄です! あなたの言葉であるから信じてこの地までやって来たのに会ってみてはこの有様。覇気も、殺気もまるで感じない朽ち果ての男です。こんな者にあなたが頭を下げるべきではない!」


 ユースの言葉にバサラはぐうの音も無く、あははと笑っているとその場から先程までとは一線を画す殺気が漂った。


 その主は、自分の師であるバサラ、彼を侮辱されたことで自身の感情を抑えられなくなったジータであった。


 凄まじい殺意と怒り、ユースはかつてここまでの気迫を感じ取った事はなく、それ以上何も言えなくなってしまう。


「まぁ、まぁ、ジータ、そんなに怒らないでおくれ。僕が期待外れだったのが悪いんだし。彼の言ってることはあってる。僕なんかのためにミレニア王国最強の称号である四護聖の君が頭を下げないでおくれ」


「しかし! いや、なら、はい。そうですね。そうしましょう」


 いきなり独り言を呟くジータを見て、戸惑いながらバサラは喋りかけた。


「あ、あのー、ジータさん?」


「御師様、いきなりですが今から組手をしましょう」


「へ?」


***


 と言うことで急遽始まったジータ対バサラの組手。


 装備はお互いに道場に残っていた木剣同士。条件変わらぬ中、互いの間合いが変わらぬまま数分の時間が過ぎていた。


(うん、ジータ、物凄く強くなった。彼女の間合い、僕よりも長いし、踏み込めば確実に斬られる。だとしても、僕が動かなければ彼らはみとめてくれない。ジータの目的、なんとなくわかって来たな)


 相手の呼吸、剣の持ち方、そして、氣の変化。ジータの一挙手一投足を観察し、相手の動き、攻撃を予想する。


 そして、自分のタイミング、ジータの氣が一瞬だけ乱れた瞬間、彼は踏み込んだ。


 しかし、ジータの間合い、それに入った時、彼女は獲物を狙う狩人へと成る。


 バサラへと放つ剣撃、それは想像を超える程の一撃であり、彼の刃に当たると同時に吹き飛ばした。ただの防御でありながら、バサラを壊しかねない一撃に彼は驚くと両手の痺れを確認し、彼女の本気を理解することになる。


(力、つっよ! この感覚、この殺気、ヤバい。僕が思っていたよりも本気だな!? これ!)


 バサラが考えている間に、ジータは彼との距離を詰めていた。


 一瞬にして距離が縮み、自身の間合いでもあるはずなのにそこからはジータ一方的な連撃が放たれる。


 右、左、両肩、両腿。

 確実に潰そうと放たれる攻撃に冷や汗をかきながら、バサラはギリギリのところで防ぐ。


「御師様! もっと本気で来ないと死にますよ!」


 ギリギリのバサラを煽るジータの動きは体が温まって来たのか更に早くなり、徐々に彼の予想を上回る。


(元々、速度のあるタイプは苦手なんだよな!? くっ! でも、ジータが、王国最強の称号を持つ彼女が、僕を、こんな僕を認めてくているのなら!)


 連撃を避けると一気に距離を詰め、彼女の体目掛けて体当たりを放つ。


 バサラは自身を信じてくれるジータのために、自身が持つ一番戦いやすい型へと変化させた。


 片手で剣を持ち、もう片方の腕を前にする。


 その型を見て、ジータは嬉しそうに笑うと自身の力、そう、運命を解放しようと声を上げた。


「御師様、ここからは全力で参ります! ですから、あなたの本気、是非、この私に見せてください! 我、運命は狩人、獲物を屠る矢であり、それを番う弓! お見せします! 私の極地!」

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