夕さり街16
アサギがマリとサクと共に街を歩いていると、周囲の風景が徐々に変わり始めた。賑やかだった街並みは次第に静寂に包まれ、いつの間にか人の姿も消えていた。
薄暗くなっていく通りを進むと、やがて目の前に一軒の古びた建物が姿を現す。それは、時の流れから取り残されたかのような古い映画館だった。
建物の外壁は色褪せ、ひび割れたコンクリートが過去の歳月を静かに物語っている。かつて人々の目を惹きつけた看板は今やその文字すら判別できず、ただそこに「かつて何かがあった」という痕跡だけが残っていた。
誰に思い出されることもなく、記憶からも街の風景からも忘れ去られたその建物は、まるで時間そのものに見捨てられたような、静かな威圧感を放っていた。
アサギは自然と足を止めた。風が一陣、通り過ぎていく。外壁に残された古いポスターの切れ端が、ぺらりと音を立てて揺れた。その音だけが、無音の世界に波紋を投げるようだった。
「……ここが、そうなの?」
誰にともなく、小さくつぶやいた。
誰も答えなかったが、それでいいとも思っていた。自分の中の疑問が声になっただけだった。
マリとサクは無言のまま、扉の前へ進んでいく。アサギも少し遅れてそのあとに続いた。
朽ちた扉に手をかけると、鈍い軋みが響く。
冷たい空気が顔にかかり、埃混じりのにおいが鼻の奥にまとわりついた。
中に入った瞬間、周囲の音がすっと消えた。まるで、世界が切り替わったみたいだった。
ロビーには誰の気配もなく、何も動いていなかった。
壁には剥がれかけたチラシが残り、ガラスに映る自分たちの姿はぼやけていて、どこか遠い場所のもののように見えた。
「なんか……変な感じ。ほんとに誰もいない……」
アサギの声は、まるで返事を求めるわけでもなく、ただ空間に向かって放たれた。
その言葉すら、深い静けさにすぐ吸い込まれていった。
奥のホールへと、無言のまま進んでいく。
足音だけが、遠く長く響いた。
重たいホールの扉を押すと、また軋む音がして、その先に暗く広がる空間が現れる。
──まるで、眠ってるみたいだ。
アサギはそう思った。
ホールの中は、長い時間をかけて朽ちていた。
崩れかけた座席、裂けた布、歪んだ床。
どこにも、誰の声もしない。
「……ここって、なんだったんだろ……」
そうつぶやく声には、不安と戸惑いがまじっていた。
知らない場所の中で、自分だけが迷子になったような、そんな感覚。
内部は荒れ果てており、長年放置された座席はボロボロで、カーペットは朽ち果て、ところどころに散らばったフィルムが床に絡みついていた。
かつての輝きはすっかり消え去り、ただ静寂と忘却の香りが漂っている。
視線を中央に向けると、長い間誰にも触れられずに積もった埃の中、散乱したフィルムが覆いかぶさったままの映写機が静かに佇んでいた。
その映写機は、長い年月が経ち、誰にも触れられないまま時が止まってしまったかのようだった。
機械の周囲には深い沈黙が満ちていた。
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