崩壊世界の反逆者 ~異世界から来た怪物どもを殺すために怪物の因子を取り込んだ俺、今は超能力者のクソガキどもを導くことになったんだが~
パンデュ郎
第1話:滅びた世界で
人生ってのはコイントスの連続だ。
表が出るか裏が出るか。それで大体の出来事は決まる。
「……こちら
『こちら
崩壊して久しいビルの残骸の群れ。
俺はそのうちのひと際高いところから、瓦礫の山と化した地上を見下ろしていた。
崩れたビルは壁がどこらかしらかなくなっていて、周辺の見通しが素晴らしく良い。その分、瓦礫に足を取られて動きづらいが。
足場が悪い分、蔓延っているやたらと太いツタを手すり代わりに持って態勢を保っている。
どれだけ環境変化が起きれば、こんなツタがビル群の残骸に巻き付くんだろうな。
「どうする? あと、行動中は
『もちろん助けます。名乗りはすみません、気を付けます。……あっ、オーバー』
無線装置を片手に、俺は向こう側にいる少女の事を考える。
まだ遊びたいざかりの子供。黒髪を伸ばして大人ぶっている少女。
迷うことなく助けると言い切ったこいつは、間違いなく人類の希望を担うだけの逸材なんだろう。
――滅びの淵にいる、な。
「目標近くにオオトカゲ一匹。こりゃ目標と接触するぞ。間に合うか? オーバー」
『間に合わせます。急ぎますので、通信を一時切断します』
「わかった、現地で落ち合おう。アウト」
見下ろしている先で、哀れな
あのまま行けば、捕まって食われるだろうな。
生き残れるかどうかは、コイントスの結果次第になるわけだ。
生存競争ってのは、コイントスの裏表だ。負けた奴は負け分を支払わないといけない。あいつらは負けた。だから、支払っている最中ってわけだ。
改めてそう思いながら、俺は地面を蹴って飛び降りた。
急いで現場に駆けつけるであろうヒロインを迎えるために。
◇ ◇ ◇
「おい、逃げろ!」
「走れ走れ走れ!」
「嘘だろぉ。はぁ、はぁ……」
スカベンジャーどもは必至こいて走り回っている。
だが、怪物から逃げ切るにはあまりにも進みが遅すぎる。
こいつらを追っている怪物は、成人男性を二人は同時に丸のみにできるであろう大きさのトカゲもどきだ。
コンクリートの瓦礫を踏み砕きながら、獲物を追い掛け回している。もう間もなく、連中に追いつくだろう。
「このままじゃあ、はぁ、捕まっちまう!」
「どうすんだよ! 死にたくねぇよ!」
「はあ、はぁ、はぁ……はぁ……」
バックパックいっぱいに物資を詰め込んだ連中の動きは遅い。
足場は瓦礫によって悪く、異様に成長した木々の根や太いツタでも移動を邪魔される。
所詮元々は訓練されていない一般人だ。荷物が山ほど入ったバックパックを担いで、そんな足場の悪いところを走り回る訓練なんざしたこともないだろう。
だから、安易な手段に頼る。
「……なぁ、元はと言えばお前が疲れただの何だの言って遅れさせたせいだよな?」
「はぁ、はぁ……え?」
スカベンジャー三人組のうち一人が疲れ果てている一人を蹴とばして、その場に転倒させた。
残りの二人は我先にと逃げ出している中、転倒した一人だけがその場に取り残される。
「お前が時間を稼げ、じゃあな!」
「いつか地獄で会おうぜ!」
「ま、待ってくれぇ。ぜぇ、ぜぇ」
残された一人は絶望しかない。後ろから迫ってくる足音はどんどん大きくなり、やがて止まる。
奴が恐る恐る振り向けば、そこには巨大なトカゲの顔がある。チロリと覗かせた舌に、生きた心地がしなかっただろう。
「ひ、ひぃ。嫌だ、死にたくない。死にたくないっ!」
――こうして、コイントスの結果がまた一つ出たわけだ。
「こちら黒姫。標的とエンゲージ。戦闘に入ります」
必死に逃げようと這っている男とトカゲとの間に、一人の少女が上空から降って現れた。
無線装置を片手に、腰には不釣り合いな刀が差されている。
トカゲの視線が目の前の獲物から、新しく現れた異物へと移る。
少女が刀を抜き放つ。黒光りするそれは、怪しく輝き視線を独り占めした。
「――救助活動、開始します」
トカゲは目をくるりと動かすと、目の前に新しく現れた獲物へ素早く舌を伸ばす。
その速度、常人の目には残像すら見えぬ速度。実際、這っている男には何が起きたのかわからなかっただろう。
――見えたはずなのは、ただ舌だった切れ端が宙を舞っている姿だけだ。
「グggyygygygygygyygyっ!」
キュルキュルと悲鳴にならない悲鳴がトカゲから上がる。
何が起こったのかわからない? 至極単純なことが起きただけだ。
舌の速度を上回る速度で少女が刀を振りぬき、迫りくる舌を叩き切った。それだけのこと。
少女は振りぬいた刀を返し、トカゲへと肉薄する。
その動きは図体のでかいトカゲより何倍も速く――必然的に、動く隙を与えず攻撃が成立する。
一閃。黒い線が空間を切り裂いた。
どすりと重い音が鳴り響く。トカゲの頭はもはやどこも見てやいない。先ほどより近くなった地面に唖然とし、間抜けに口を開いている様子だ。頭だけでな。
「……こちら黒姫。戦闘終了しました。オーバー」
「目の前にいるよ。お疲れ様」
律儀に無線装置に話しかける少女に苦笑いし、俺は直接話しかける。
「龍輪さん」
「残りの連中は見失った。悪いな」
「いえ、それは……私が間に合わなかったせいですから。龍輪さんのせいではありません」
要救助者は何が起きたのかわからない様子で目を白黒とさせている。
俺は思わず笑ってしまう。申し訳ないと思いながら手を掴んで立たせてやる。
「よう、よかったな。コイントスに勝てて」
「え? あ? はぁ……」
「また龍輪さんはわけのわからないことを言って……」
自分が助かったことに現実感がないのか、間抜け面を晒している。
まあ、こいつを救助してコロニーに連れて帰るまでが遠足だ。
少し遠くから、誰かの悲鳴が響いてきた。
先ほど逃げた残りのスカベンジャーか、それとも地上にいた別の生き残りか……。
どちらにしても、これが日常だ。
怪物どもに滅ぼされた東京……いや、この世界の、な。
俺たちはあの日、コイントスに負けたんだ。
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