落ちこぼれスクロール作家は新人賞をとりたい!!
小林一咲
第1話 おちこぼれ
「こんな商品は売れないよ」
いつから錯覚していたのだろう。
自分には“才能”があると――
「すみません、父上……」
幼少期から言葉を操るのには自信があった。口喧嘩で父には負けたことがないし、唯一敵わない母にだって何かしら言い訳をして上手く誤魔化せてきた。
だから、きっと文章を書くことだって難しいことではないと考えてしまったのだ。
僕は今年で18歳になる。本来なら就職か、学校に入るべき年齢。でも、作家としての夢を諦められなかった僕は、そのどちらを選ぶことなく、実家に居座り続けている。
「そろそろお前も商売を学んで、父さんの商会を継ぐ準備を始めなさい」
「それか、うちの冒険者ギルドで働かない? 私の推薦があればいくらでも仕事はできるわよ」
ポンコツな僕とは違い、両親は実に優秀だ。父はゼロから商会を立ち上げ、この国で“アトラス商会”を知らない者はいないほどに成長させた。母は元冒険者で、閃光などと呼ばれていた実績もある。人柄が良く、人望に厚いこともあり、引退した今は冒険者ギルドのマスターをやっている。
そんな晴れやかな表舞台で活躍していた2人の間に一人息子として生まれた僕は、常に優秀な両親と比べられ、幼少期から負い目を感じてきた。
「商会はどうするんだ!」
「商いの勉強をさせるには3年遅いわよ」
「いいや、まだ間に合うさ」
最初は僕の夢を応援してくれていた両親も、そろそろ我慢の限界といったところだろう。最近ではこんな様子で喧嘩を始めてしまう始末。
父のような才能も、母のような力も無い自分には、この光景が情けなくて申し訳なくて堪らなかった。
「分かった、もう諦めるよ」
「エルサン……」
「それが賢明だよ」
次の日から冒険者ギルドの受付でバイトを始めることにした。ずっと引きこもっていた僕にとって、久しぶりに見る外の世界には恐怖しかない。皆、僕がギルドマスターの息子であることを知っているし、もし知らなかったとしても、特徴的な目の色と目の下の涙ぼくろですぐにバレてしまう。
そんな身内の人間が時期でもないのにいきなり採用となれば、他の職員からどんな嫌がらせを受けるか――考えたくもない。だからこそ、このバイト期間は皆に馴れてもらうために必要な時間なのだ。
「ねえねえ、そこの君」
「ぼ、僕ですか?」
「そうだよ。君ってギルマスの息子なんでしょ? やっぱり強かったりするのかな!?」
「マジで?! 本当だ、そっくりだぜ」
ある程度予想はしていたが、冒険者というものはデリカシーもナニもあったものではない。僕が座る受付にはいつの間にか人集りができてしまった。
「なんの騒ぎだ?」
僕を一眼見ようと集まった冒険者たちをかき分け、現れたのは幼馴染のヴァルターだった。彼の父は若き頃の母と同じパーティであったため、今でも家族ぐるみで仲が良く、僕と彼も幼い時はよく遊んでいた。唯一友達と呼べる彼とも、最近では引きこもっていたせいで、めっきり顔を合わせなくなっていたが。
「や、やあ、ヴァルター」
「あ? 誰だお前」
悲しいかな、友情なんてものは最初から無かったのかもしれない。
「ああ、そのマヌケな顔で思い出したぞ」
ヴァルターはわざとらしく声を荒げた。
「お前はギルマスと、あのアトラス商会の子でありながら、何の取り柄もない“ただの役立たず”のエルサンじゃねえか!」
僕は涙も出ず、ただただ哀れみの目を向けられるばかりだった。
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お読みいただき、ありがとうございます。
ファンタジーを中心に書いております、
以後、ご贔屓によろしくお願いします🥺
もしこの物語を楽しんでいただけたなら、他の作品もぜひチェックしてみてください。
『凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜』
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