第8話 倒れる乙女

リュカとエリナは

アステリア王国の深い森を歩いていた。




滅ぼされた王国の生贄として

捕らえられた人々を救い出すため

彼らは静かに進んでいたが

森の中に漂う異様な気配が

二人の緊張感をさらに高めていた。






「リュカ

ここから先にモンスターがいるはずよ


慎重に進みましょう」



とエリナが声を潜めた。






リュカは頷き

背中の剣『ソウルブレイド』に手を置いた。



剣に浮かぶ魔族の紋章『闇龍の刻印』が

薄く輝き

リュカの緊張した表情を照らしている。




「この気配、ただのモンスターじゃないな」





突然




森の奥から赤い瞳が

いくつも浮かび上がった。




彼らは腐った肉のような悪臭を漂わせ

ゆっくりと二人に近づいてくる。




『ネクロゴブリン』だ。




不死の力を得たゴブリンで

死霊の魔法によって魔王の配下に

加わった強力なモンスターたちだ。






「ネクロゴブリンか……厄介な相手だな」



リュカは剣を引き抜き

ゴブリンたちに向かって構えた。




エリナもまた

愛刀である『セレスティアルブレイド』を構え

冷静に対峙している。





「数が多いわね……だけど

引き下がるわけにはいかないわ!」



エリナの声に力がこもる。




エリナは聖剣士としての誇りを胸に

勇気を振り絞って前へ進む。






「突破するしかない!」



リュカは大きく息を吸い込み

ゴブリンたちの群れに飛び込んだ。






最初の一撃は素早かった。




リュカの剣がゴブリンの首を狙い

一瞬で一体を倒す。




しかし

次の瞬間にはさらに

多くのゴブリンが押し寄せてくる。




腐った爪を振り回し

異様な速さでリュカに襲いかかる。






「エリナ、こっちは任せた!」



リュカは一瞬振り返り

エリナに叫ぶ。




エリナの動きは素早く

『セレスティアルブレイド』から

放たれる神聖な光が

ゴブリンたちを次々と浄化していく。




エリナの一振り一振りが

敵を消し去るかのような正確さを持っていた。






「リュカ、まだ大丈夫?」



エリナは振り返ることなく

ゴブリンを斬り伏せながらリュカに呼びかける。






「もちろんだ! そっちはどうだ?」



リュカもまた

次々と襲いかかるゴブリンを斬り裂きながら答えるが

その声には少しの疲労がにじんでいた。






戦いは熾烈を極めた。




ゴブリンたちの数は減るどころか

森の奥からさらに増援が現れる。




二人は休む間もなく

絶え間なく襲い来る敵を相手に奮闘していた。






「このままじゃ、キリがないわ……」



エリナが焦りを感じながら呟く。




その瞬間だった!


エリナの背後から、ゴブリンが強烈な打撃を繰り出し、彼女に直撃した。


「ぐっ…!」


エリナの体は宙を舞い、勢いよく木に叩きつけられる。


顔を歪めながらも何とか顔を上げると

目の前には別のゴブリンが斧を高々と振りかざしていた。





エリナの危機に気づいたリュカは

瞬時にナイフを抜き

エリナにトドメを刺そうとしている

ゴブリンに向けて投げつけた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッズ!!!!!





ナイフは見事にゴブリンの腕を切り裂き

その腕を吹き飛ばした。






「ぐああああーーーーーーっ!」


ゴブリンの絶叫が森に響き渡る。



リュカは倒れたエリナの前に立ち

彼女を守るように堂々と仁王立ちした。







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