収斂する魂

加賀倉 創作【書く精】

序『分断』

——自と他は所詮、他人同士である。


 ユーラシア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア……


 五つの大陸に蔓延はびこるヒトは、大小様々に、対立する。



△▽△▽△



——ユーラシアにて。


「リビングではスリッパいてって言ったでしょう!」

 女性が言った。


「でも、キッチンや洗面所では履かないときた。一体どういった基準で、スリッパを履く、履かないを判断しているのか、教えてほしいものだね」

 男が言った。


「うるさいわね! ここは私のウチなんだから、おとなしく家主の言うことを聞きなさいよ!!」

「はいはい、わかりましたよっと……」



△▽△▽△



——アフリカにて。


「おい、野蛮人よ、我が帝国に奴隷をよこさぬか!」

 白いヒトのおさが言った。


「どうかご慈悲を……私たち、お互いに同じ人間同士じゃありませんか……」

 黒いヒトが言った。


「人間同士? 我々には、お前らは、野蛮なに見えるが?」


——後日。


「白き者どもが、奴隷をご所望だ。よって全ての村は、一〇〇人ずつ差し出すのだ」

 黒いヒトの長が呼びかけた。


「しかし長よ、長たるもの、こんな時こそ民を守るべきではないでしょうか?」

 黒いヒトの長の家来が言った。


「仕方ないのだ。この国の存続のためには、犠牲が必要なのだ。白き者どもは、相応の対価も約束してくれた」

「奴らを信じるのです? 対価など、きっと嘘に決まっています!」

「黙れ! 部下の分際で……わきまえろ! そんなお前を、奴隷として差し出してやろうではないか!」

「そ、そんな! 長よ、どうか目を覚ましてください!」



△▽△▽△



——北アメリカにて。


「なぜ、食べ終わってすぐ食器を洗わない? すぐ洗えば、最も簡単に汚れが落ちると言うのに!」

 男性が言った。


「あんたバカァ? 満腹で気持ちが良くなってる時に、食器洗いなんて、正気の沙汰じゃないわ。つけ置きしとけばいいの、そんなのは!」

女性が言った。


「ケンカやめてよ。それなら食洗機を買えばいいのに」

 子が言った。


「「そんなの高くて、ウチでは買えない!!」」



△▽△▽△



——南アメリカにて。


「おい、山賊よ。きんをよこせ」

 白いヒトの長が言った。


「嫌だね!」

 山の民が言った。


「なら、力ずくだ」



△▽△▽△



——オーストラリアにて。


「ここには水がたんまりとあるようだな。分けてもらおうか」

 白いヒトが言った。


「すまないが、私たちもなんだ」

 狩猟民族の長が言った。


「そうかそうか、あるのか! なら、全部いただこうか。どうせまた湧いてくるだろう?」

「そ、そんな、ふざけないでくれ! そんなことされたら、死んでしまう!」

「なら、今死ね。水が余計に減らぬうちにな……」

「なんだと! ならこっちも、黙ってないぞ!」


〈破『統一』に続く〉

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