第20話 推しへのプレゼント贈呈 後編
クマの人形を渡したのだが、今更ながらとても不安になったので、保険を掛けることにした。
「お気に召さなかったら捨ててくれ。」
「そんな酷いことしません!」
「お、おう。そうか。まあ、お前の性格的に心配はしていないが。」
思ったよりも強く否定されて狼狽えてしまった。
「はい。大切にしますから。」
俺は、直視してしまったことを後悔した。なぜなら彼女は、とても美しい微笑みを浮かべていたから。それは、母親が子を慈しむようにも、子がお気に入りのおもちゃを取られないようにする仕草にも見える。
とりあえず、現時点で分かることは、とても大切にしてくれるだろうということだ。
「たくさんのプレゼントありがとうございました。」
「いや、こちらこそ毎日家事させて悪いな。ありがとう。」
大分出会ったころと比べると葵の表情は柔らかくなった。俺との関係に慣れてきたということなのだろう。関係を進めたいと思ってしまうこともあるが、俺は神薙葵の1ファンとしてそのようなことはできないのだ。まあ、彼女に好かれるような要素もないのでそんなことを言っても仕方ないのだが。前、配信で聞いたときに好きな人がいると聞いて、ショックを受けてしまったことを思い出した。
「どうかしたのですか?」
「いや、なんでもない」
しまった。顔に出てしまっていた。葵はキョトンとした顔をしている。やっぱ顔立ち整ってんなー。
「あと1個サプライズがあるんだ。」
そういって俺はキッチンへと向かう。冷蔵庫から白い箱を取り出した。
「何ですか?それ。」
「ケーキだ。独断でショートケーキにしたんだが、よかったか?」
ダメと言われても困るな、とか考えていると、彼女の目から水が流れてきた。え?俺、何かした?
「ど、ど、どうした!?俺、何かしちゃったか?」
「したと言えばしました。」
「すまん。」
「そういうことではないんです。初めて人に誕生日を祝われたので。」
「親はしてくれなかったのか?」
「ええ。絶対にしてくれませんよ。」
彼女は冷たい目をしていた。彼女の家庭環境は相当よくないらしい。
「親に名前を呼ばれることもないですし。」
そんなに?やばいな。その親。まあ、その気持ちもわからなくはないのだが。
彼女の顔は無機質ともいえるほどに感情がこもっていなかった。顔立ちのせいか、人形と話しているような錯覚を覚えてしまうほどだ。
「すみません。暗い雰囲気にさせて。」
「いや、大丈夫だ。」
「詮索しないのですね。」
「ああ。だって、人には他人に話したくないことの1つや2つあるものだろ?」
「そうですね。あなたと一緒にいると余計なことを聞いてきませんし、勘違いもしないでいてくれるので気が楽です。」
「学校での常に気を張ってるんだから、ここでくらい息を抜けよ。」
「ありがとうございます。しかし、あなたは見ていていろいろとハラハラしちゃうので、あまり息を抜けそうにないですね。」
「そりゃすまんな。」
と大袈裟に肩をすかして見せると彼女は耐えきれなくなったらしく、笑っていた。
その笑顔がとても眩しいのは言うまでもないだろう。
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