第10話

「いやー、エレンに関してはかれこれ50年くらいか?」

「いえ、ルクセンブルクとイタリアの統治の際に数度顔を見せたので実際の所は35年程度ではないでしょうか」

「ふむ...まぁ、どちらにせよ同じようなものではないか?」

...巻き込まれている一般人を除けば、なんだか国家権力者に囲まれている僕。なんだか肩身が狭いです。こういう時はステラでも...って、ステラがなんだかすごいまともな人に見える。僕、病気にでもなったのかな?

ここは国立ケーニヒスベルク孤児院の二階。特設されたこの地で、一部巻き込まれを含めた懐かしい人々の集いになっております。


エレン、なんて呼ばれた靜と話しているのはこのドイツ...正式名称、神聖ドイツ第三帝国の総統を務めているエル・アウグステさんだ。別に敬称はいらないって言われたからエルって呼ぶことにするんだけどね。神聖ドイツ第三帝国は、社会主義ドイツ国民労働者党と言う前世のアレに似たような組織が大本となってできた極右国家だ。と言っても、東にいる某大粛清の鋼鉄の人が死んでからは一般帝国主義系統の国家なんだけど。実際の所はSDWAP(社会主義ドイツ国民労働者党の略称)が1933年から1945年5月9日まで政権を握っていて、初代総統が内部離反の末に自殺したことで降伏になったんだけどそこをエルとソ連の対独戦線の責任者が率いる反動主義的勢力の義勇軍、その実初代総統陣営のエルとソ連の責任者の共謀によって成された復古運動であるというもので成立した国家だけど、SDWAPの治世、つまりは前世のちょび髭よろしく1933年3月23日からのドイツの政体を現在の神聖ドイツ第三帝国の治世とする...らしい。


一部人物の改変が行われているのとイオを筆頭としたありえない力を持っている人がいたりするけど、そんなところくらいしか前世と違いはない。だから、本来エルと似たような人が前世のドイツにもいたはずなんだけど...不思議なことに、そんな記憶はない。なんでなんだろうね。

エルになぜ今その立場にあるのかを尋ねてみると、「総統閣下の慈愛と国民精神によるものだよ」と少しだけ嬉しそうに返してきた。いや、その総統閣下が誰なのか聞きたいんだけどね?「えーと、優希が混乱している様なので言いますが、この国の初代元首、若しくは正式名称で総統とされているのはミヒャエル=エルンストと言う人物ですよ?ミュンヘン一揆でその名を広めた」というイオの補足を聞いて、前世の総統閣下と人が変わっただけなのかなっても思ったけどね。

一応アドルフな総統閣下の名前の人を知らないかと尋ねてみると、「ああ、総統閣下のご友人だな。総統閣下と同じ意志を持つ社会主義ドイツ国民労働者党の党員番号二番で、総統閣下と共に党を立ち上げた人物の一人だ。総統閣下の御友人と言うことで、私にも良くしてくれた覚えがある。世界大戦の戦傷による病が原因で4年前に天寿を全うされた際は、世界首都ゲルマニアの設計に関して尽力した国民的英雄として国葬を開いたよ。95年の人生を余すことのなく大ドイツの為に尽くした偉大なる英雄としてね」と懐かしそうにしていた。...ちゃんといたんだね、あの総統も。まぁ、総統にはならなかったようだけど。というか、あの人ってドイツ帝国じゃなくてオーハン出身だったような。...ドイツじゃなくてゲルマン民族ということにしておこうっと。


そんな会話をしていると、「イア、何か話してるのー?」と扉を開けてきた誰かがそんな声を上げる。...イア?知らない名前だけど、一体誰の名前なんd「イリェーニャ!?私は人の前ではエルと呼べと言ったはずだが!?」...あー、エルの本名ですか。納得。確かに、某赤い国の粛清の人も本名はヨシフ・ジュガシヴィリだって言うしね。名前を偽るくらいなら良くある事なんじゃないのかな。知らんけど。

「うぅ...私の今の名前は、総統閣下に戴いたものなのだぞ...?」

イリェーニャと呼ばれた人に呼ばれたイアと言う名前に、エルはしょげかえっていた。なんだか冷徹な人みたいだなーって思ってたけど、案外ポンコツなのかな?なんだか為政者らしい感じでは少なくともない。


「...はぁ。そんな風にしているから貴女はやらかしたのでは?」

僕と同じ事を思ったのか、イオが半眼でエルに尋ねる。総統殿は「う、うるさい!共産主義者など敵むぐっ」何か言おうとしたところを、無表情のイリェーニャさんに口を無理やりふさがれていた。と言うか、イリェーニャさんの目がガン開きしてるの怖いんだけど。...もしかして、そっち側の人むぐっ。

「...あー。そう言えば、イリェーナに会うものではないと思ったので言っていませんでしたね。イリェーナはそう見えて平和主義者から共産主義に傾倒したものですよ。まぁ、流れとしてはマルクス主義でも穏健な感じなので比較的害はないですよ。流石に直接反共むぐっ」

...成程。気を付けないとね。「イリェーナは変わんないねー。と言うか、君って共産主義者じゃなくて社会主義者じゃないの?」...あれー?なんでステラは口封じされないの?...もしかして、それが真理むぐっ。


「...えっと、イリェーニャさんって左派的な人ってことですよね?」

イリェーニャさんからの物理的粛清(弱)から解放されると、僕はイリェーニャさんに尋ねてみた。イリェーニャさんは「当たり前でしょ?」と答えられた。...あー、お姉さん味がある。可愛がられたーい...って、僕は何を!?気付かないうちに、イリェーニャさんに近づいていた、だって...!?まずい、これ以上一緒に居るとアイデンティティの喪失も危惧しなければ「優希ちゃん、おいでー」

「はーい!」

「...優希?何をしているんですか?」

―――ハッ!?...ちょっと、イリェーニャさんには近づかない方が良いかもね。そう思っていると、イリェーニャさんがおかしそうに笑った。

「いやー、可愛いね。こうやっておちょくってる分にはイアと同じくらいに思える」

「なっ!?」

イリェーニャさんの言葉に、エルが目を見開いてイリェーニャさんの方を見た。...あー、まぁてぇてぇってことで。地名的に山だからって塔は立てないけど。


...落ち着くと、僕たちは席に着いた。流石にはしゃぎすぎた感があったからね。あれ以上の御遊びは良くないと言うことで、我慢することにしましょう。まぁ僕は話に置いてけぼりなのでね、イリェーニャさんが連れてきた女の子と遊ぶことにしたのだけれども。エルのとはまた違う、白銀って感じの髪色の女の子は自分の事をミーチェと呼んでいた。なんだか本名じゃないようにも思えるけど、本人的にはミーチェって言う名前だと思い込んでるみたいだから夢は壊さないでおいてやろう。はっはっは。

それにしても、こうやって話しているのは割と悪い気分はしない。結構楽しいまである。見た目の年齢よりも多くの事を知っているからイオとかエルとかみたいな不老な存在なのかもしれないけど、少なくとも精神的には見た目通り10歳かそこらの幼女だ。ステラはいつもと違ってなんか高貴なオーラを出しているし、ミーチェも僕も今はあぶれ者だもんね。...そこ、精神レベルが似たようなとこでしか会話は成立しないなんて言わないでよ。僕だって気にしてるんだからさ。


結局あの後20分くらいして話は終わったみたいで、3月22日までは自由行動をしていいと言うことになった。まぁ実際の日付で言うと明日、要は3月22日しかまともに動けそうではないんだけどね。それでどこに行くかと言うことになったので迷いなくベルリンと言ったら、「今では世界首都ゲルマニアと呼ばないと怒られますよ?」と冗談めいた感じで言われてしまった。ただ、ステラの忠告が同じ内容でも笑ってはいなかったので気を付けなきゃなー、なんて思ったり。そりゃ、秘密警察みたいな組織があってもおかしくはない。思想って極端になれば反対の方とやることは似通ってくるしね。

と言うことで、ケーニヒスベルクからポツダム行きの夜間旅客列車に乗って数時間。10時に出て5時くらいに着いたみたいで、眠い目をこすっているステラをイオが抱っこして世界首都ゲルマニア正門行きのバスに搭乗。一時間ないくらいで到着した世界首都ゲルマニアは、ちょうど日の出を迎える位の時間だった。


前世では別の意味ベルリンの壁で有名になっていたブランデンブルク門は、今世では第三帝国の威厳を最大限に発揮しているものになっている。ブランデンブルク門の柱の間から覗く、グロッセ・ハレなんて呼ばれたりする巨大建造物の頂上に作られた鷲の上に輝く太陽。...正直に言って、此処に来た甲斐があったと思えるほどの物だ。

「『陽は再び上りDie Sonne geht wiederund鷲翼は空を覆うAdlerflügel bedecken den Himmel』。総統閣下が設計に於いて設定したコンセプトだよ」

声に首を向けると、そこには懐かしそうな顔をしたエルがいた。

「世界首都ゲルマニアは、社会主義ドイツ国民労働者党として、一つの覇権国家として、そして大ドイツとして完全なる復活を遂げた事を内外に知らしめると言う事も設計事案に組み込まれていてだな。世界首都ゲルマニアの完成と言うのも、実は1953年3月23日のこの時に行われたんだ。再び上がった太陽に照らされて、大ドイツ並びに全てのゲルマン民族を代表せしライヒスアドラーは輝く。もう二度と、この地にライヒスアドラー無き旗が翻らぬように、とね」

エルの独白のもと見た空は、けれど別に鷲なんて一匹も飛んではいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る