第5話 ある訓練の休みの一日

養成所での日々が続く中、ようやく訪れた待ちに待った休日。レオはこの貴重な休みを、アルティと過ごすことに決めた。普段の厳しい訓練から解放され、二人は少し気を抜いてリラックスする時間を取りたいと思ったのだ。


「アルティ、今日は久しぶりに街に出てみないか?どこかいいカフェでお茶でもしよう。」


レオが笑顔でアルティに声をかけると、アルティは少し考えた後、頷いて微笑んだ。「いいわね。外で少しリフレッシュするのも大事だし。」


エアロ(風属性の鷹)が影の中から声をかけた。「やっと休みか。少しは楽しんでこいよ、レオ。」


「ありがとう、エアロ。今日は楽しむつもりだよ。」レオは軽く影に向かって返事をした。


アルティはわずかに顔を赤らめながらも、すぐにツンとした表情に変えた。「別に、私のためじゃないんだからね。リフレッシュするのは君のためよ。」


「そうか、でも君も楽しんでくれるならそれでいいよ。」レオは微笑みながら答えた。


二人は朝早くから街に出かけ、ゆっくりとしたペースで養成所の門を出て街へと向かった。街の中は賑やかで、行き交う人々の活気があふれていた。アルティとレオは、まず市場に立ち寄り、色とりどりの商品を眺めながら歩いた。


「見てよ、アルティ。この果物、すごく変わった形をしてるな。」


レオが興味津々で指を差すと、アルティも近づいてその果物を見た。「本当ね。なんだか不思議な色をしているわ。でも美味しそう。」


フレア(火属性のフェニックス)が呆れたように言った。「そんなもので驚いてるなんて、人間ってほんと単純ね。」


アルティは影に向かって苦笑しながら答えた。「まあね。でも、こういう小さな驚きも大事なのよ。」


「せっかくだから買ってみるか?」


そう言って、レオは果物を手に取り店主に代金を渡した。二人で半分に切って一口ずつ食べてみると、甘酸っぱくて美味しい味が広がり、二人は顔を見合わせて微笑んだ。


その後、街を歩き回りながら、レオはふと見つけた木の枝を拾い上げた。「ちょっと見てて、アルティ。」


レオはその枝を剣に見立てて、素振りを始めた。「この動き、最近訓練で習ったんだ。こうやって重心を低くして…」


「レオ、少しは休んだらどうだ?」エアロがぼやいた。


「そうだな。でも、ちょっとだけ見せたかったんだよ。」レオは笑いながら影に向かって言った。


彼が一生懸命説明する姿に、アルティは目を細めて笑った。「レオ、真面目にやってるところが可愛いわ。でも、その素振り、かなり良い感じね。訓練の成果が出てるわ。」


「そうか?ありがとう、アルティ。」レオは少し照れたように微笑んだ。


市場から少し離れたところに、魔法具の店があった。アルティの目が輝いた。「あ、ちょっと寄ってみない?」


二人は店の中に入り、様々な杖や魔法の道具が並ぶ中を歩いた。アルティは多くの杖を手に取り、その形やデザインを見比べていたが、なかなか決めることができなかった。


「うーん…どれも良い感じなんだけど、どれが一番自分に合うか…」


フレアが囁いた。「どれも同じに見えるけど、ちゃんと感じ取れてるの?」


アルティは軽くため息をつきながら答えた。「感じ取るって簡単じゃないのよ、フレア。少し黙ってて。」


その様子を見ていたレオは、ふと一本の杖に目が止まった。細身で軽く、炎の文様が刻まれている杖だ。「アルティ、これなんてどうだ?君の炎の属性にぴったりだと思うんだけど。」


アルティはレオからその杖を受け取り、手に持って軽く振ってみた。「…これ、なんだかしっくりくるわ。本当に良い選択ね、レオ。ありがとう。」


レオは照れたように笑い、「じゃあ、これは俺からのプレゼントだ。」と言った。


「な、何言ってるのよ!そんなことしなくていいの!」アルティは慌てたように手を振り、顔をさらに赤らめた。「そもそも、私は自分で買えるんだから…別に君に頼る必要なんてないわ。」


レオは笑顔を浮かべて、「分かったよ。でも、アルティが喜ぶなら俺は何でもしたいと思うんだ。」と真っ直ぐに答えた。


「本当に君って…」アルティはため息をつきながら、でもどこか嬉しそうな笑みを浮かべて杖をカウンターに持って行った。「ありがとう。でも今日一日は楽しむって決めたんだから、あんまりそういうこと言わないでよね。」

アルティは照れた表情を見せたが、すぐに笑顔で「ありがとう、レオ。大事にするわ。」と応えた。


「了解。じゃあ、もっと楽しいことをしよう。」レオは軽く頷いて、アルティの手を引っ張りながら店を出た。


その後、二人は街の中心部にある小さな広場に向かった。そこには噴水があり、子どもたちが水遊びをして楽しそうに笑っていた。レオとアルティはその光景を眺めながら、ベンチに腰を下ろした。


「ここ、いい場所だね。なんだか落ち着くよ。」レオが広場の噴水を眺めながら言った。


「そうね…こうして静かに過ごす時間も悪くないわ。」アルティは柔らかく微笑み、目を閉じて風を感じていた。


「アルティ、今日はありがとう。君と一緒に過ごせて、本当に楽しかったよ。」レオは彼女に感謝の気持ちを伝えた。


「べ、別に私は…君のために付き合ってあげただけなんだから…勘違いしないでよね。」アルティは頬を赤らめ、視線を逸らしながら言ったが、その声にはどこか優しさが含まれていた。


レオはそんなアルティの様子を見て、思わず笑みをこぼした。「分かってるよ。でも、それでも俺は嬉しいよ。ありがとう、アルティ。」


アルティは少し黙ってから、「…もう、君って本当に素直すぎるんだから。」と呟きながら、微笑んでいた。


その後、二人は近くにあったカフェに入り、窓際の席に座った。アルティは新しい杖を大事に膝に置きながら、レオに話しかけた。


「最近、火の魔法を新しく覚えたの。ちょっと難しかったけど、やっと成功したときは本当に嬉しかったわ。」


レオは目を輝かせて、身を乗り出した。「どんな魔法なんだ?ぜひ教えてくれよ。」


アルティは笑いながら説明を始めた。「これはね、炎を自分の周りに纏わせて防御する魔法なの。最初は集中が難しくて、炎が暴走しちゃったこともあったんだけど…なんとかコツを掴んで、制御できるようになったの。」


「フレアが少し手伝ってくれたんじゃないのか?」エアロがからかうように言った。


アルティは影に向かって微笑んで答えた。「そうね、フレアには何度も助けてもらったわ。でも最終的には自分でできるようになったのよ。」


レオは真剣な表情で聞き入り、「すごいな、アルティ。君は本当に努力家だな。」と言った。しかし、その一生懸命な表情が少しおかしかったのか、アルティは思わず笑い出した。


「な、何だよ?」レオは困惑したように眉をひそめたが、アルティは肩をすくめて、「ごめん、あなたの真剣な顔がちょっと面白くて。でも、本当にありがとう。」と笑いながら答えた。


「そうか…まあ、笑ってもらえたなら良かったよ。」レオもつられて笑いながら答えた。


夕方になり、二人はカフェを出て街をぶらぶらと歩きながら養成所へ戻る道を歩いた。陽が傾き、街はオレンジ色に染まっていた。


「今日は本当に楽しかったわ、レオ。こういう時間、大事にしたいわね。」


「俺も楽しかったよ、アルティ。またこうして休みの日に一緒に出かけような。」


アルティは微笑みながら「ええ、ぜひ」と頷き、二人は肩を並べて夕日に向かって歩いていった。


「次はどんな冒険が待っているかな。」エアロが小さく呟いた。


「どんな冒険でも、私たちは一緒だよ。」フレアが応える。


訓練の日々が続く中でも、こうしてリフレッシュできる時間が二人にとっては大きな力となっていた

日も暮れ始め、二人は再び街を歩き始めた。夕焼けが空をオレンジ色に染め、街の雰囲気はどこか温かさを感じさせた。養成所に戻る道すがら、アルティがふと立ち止まった。


「レオ。」


「ん?どうした?」


「今日は…本当に楽しかったわ。杖もありがとう。」アルティは視線をレオに向けずにそう言ったが、その表情はどこか安心したようだった。


レオは優しく微笑み、「俺も楽しかったよ。これからも、こういう日をもっと増やそうな。」と言って、アルティに手を差し出した。


アルティは少し迷った後、その手を取った。「…そうね。また一緒に出かけましょう。」


二人は手を繋いだまま、夕日に向かって歩いていった。その瞬間、二人の間に流れる静かな時間が、これまで以上に特別なものに感じられた。


その日の夕食後、養成所の自由時間に、剣士養成所の仲間たちが集まって談笑していた。レオも食事を終えた後、寮の共用スペースでみんなと過ごしていた。


「おい、レオ!」


その声をかけてきたのはレイだった。彼はにやにやしながらレオに近づき、からかうように声をかけた。「聞いたぞ、アルティとデートしてきたんだって?」


レオは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに少し顔を赤らめた。「え、まあ…デートっていうか、ただ一緒に街に行っただけだよ。」


「へぇ〜、一緒に街に行っただけねぇ。」レイはからかうように言いながら、他の仲間たちに向かって声を上げた。「みんな聞いたか?レオがアルティとデートしてきたんだとさ!」


仲間たちは一斉に「おお〜!」とからかうような歓声を上げた。レオはさらに顔を赤くしながら、「もう、みんなやめてくれよ…本当にただの休みの日の散歩みたいなもんだったんだから。」とぼやいた。


「でもさ、レオ。アルティに新しい杖をプレゼントしたって聞いたぜ?」レイはニヤニヤしながら続けた。「それって結構特別なことじゃないのか?」


レオはしどろもどろになりながら、「いや、その…杖が古くなってたから、ちょうど良いのを見つけたから買っただけだよ。」と答えた。


レイは満面の笑みを浮かべて大げさに頷き、「ふーん、それでアルティのために特別に選んだんだな?まったく、お前ってやつは優しいなあ。」


周囲の仲間たちは笑いながら、「さすがレオだな!」とか「優しいねぇ〜!」と口々にからかってきた。レオは困ったように頭をかき、「もう、いい加減にしてくれよ…」と苦笑いを浮かべた。


そんな中、レイは肩を叩いて真剣な表情に変わった。「でもよ、レオ。お前がアルティを大事に思ってるのは分かるよ。あいつもきっと嬉しかったと思うぜ。」


レオは驚いた顔をして、少しの間黙っていたが、やがて小さく微笑んで頷いた。「…ありがとう、レイ。俺もアルティには感謝してるし、大事な仲間だって思ってるよ。」


「それでいいんだよ。それでこそ、俺たちのリーダーだ。」レイは満足そうに頷き、再びみんなで笑い合った。


その夜、レオは仲間たちとの会話を楽しみながら、自分にとっての大切な仲間たちの存在を改めて感じていた。厳しい訓練の日々の中で、こうして共に笑い合える時間が、彼らの絆を一層強くしていたのだった。感じていた。

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