春の遺言

葉桜

プロローグ

 窓の外の夕日が、朱村あけむらひばりの部屋を赤く染め上げる。ひばりはけだるい身体を起こし、ポカリスエットを掴んだ。一口飲んだだけで、喉元が燃えるように痛む。そのとき、不意にスマホが通知音を鳴らした。確認すると、お母さんからLINEが来ていた。

『お葬式、終わったよ。ひばりの想いも、おじいちゃんにちゃんと伝えたからね』

 ひばりは『ありがとう』と送信して、スマホを戻した。おじいちゃんが倒れたとの知らせがあったのは、数日前のことだった。しかし、タイミング悪く、新型コロナウイルスに感染してしまったひばりは、お見舞いに行くことすらできなかった。そんなおじいちゃんが、三日前に亡くなった。ひばりはやるせない気持ちで喪服姿の家族を見送った。

 焦りともどかしさから逃げるように、ツイキャスを立ち上げる。ひばりはイヤホンを耳に当て、適当な配信者を選んだ。イヤホンから女性の歌声が聴こえてくる。音声のみの配信なので顔は見えないが、脳を使いたくないひばりには、むしろ好都合だった。

「次は初のオリジナル曲で、コロナ禍をテーマに書きました」

 配信者の息を吸う音。すると、芯のある歌声がアコギの音に乗って、ひばりの鼓膜を震わせた。コロナ禍ならではの歌詞は共感できる部分が多く、だんだんと力強さを増していく歌声に、ひばりは圧倒されながら聴いていた……と、不意にドアを叩く音が聞こえた。

「お母さん? うるさい?」

 配信者のアコギを置く音が聞こえる。彼女が「今日は終わりにします」と言い終えると同時に、画面に配信終了と表示された。

 その夜、ひばりはなかなか寝付けなかった。名前も年齢も知らないどこかの配信者の歌声が、延々とひばりの脳裏に響いていた――。

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