第26話 招待

 影の一族との激しい戦いが幕を下ろし、王国の増援と共に悠斗たちは館を離れた。王国の騎士たちは、影の一族の残党が再度襲撃する可能性もあると警戒しつつ、イザークの声掛けもあり悠斗、リリア、リリーナを首都に迎え入れる準備を整えた。首都へ護送されることになった3人は、疲労を感じながらも、静かに馬車に揺られていく。


 しばらくして王国の宮殿が見えてくると、悠斗はその威厳ある佇まいに圧倒され、リリーナもまた美しい造りの門を見上げて驚嘆の声を上げた。


「すごいね……こんな所に招待されるなんて」


「王国のもてなしを受けるのは、なかなか無い経験だぞ」


 イザークがそう言う。兵士たちは彼らを王の間へ案内する。そこには王国の重役たちが集まり、悠斗たちの到着を歓迎するために一同が並んでいた。王国の大臣が彼らに向かって一礼し、重厚な声で感謝の言葉を述べた。


「皆さま、影の一族に対する勇敢な戦いに感謝します。今後、王国はさらに影の一族の討伐に力を入れることとなるでしょう。イザーク、よくやってくれた」


 イザークは静かに頭を下げ、王国の命令を受けたことを再確認する。そして、宮殿内の一室へと案内され、そこでようやく彼らは束の間の休息を取ることができた。


 リリーナが湯茶をすすりながらリラックスしていると、イザークが悠斗とリリアをそっと呼び寄せ、表情を引き締めたまま静かに口を開いた。


「さて……この場を借りて、君たちに話しておきたいことや質問がある」


「話しておくこと?」


 イザークの言葉に、悠斗とリリアは顔を合わせてから、再びイザークの方へと視線を戻す。といっても、リリアは依然とローブで顔を隠したままである。一方でイザークは仮面を外し、その静かな瞳で二人を見据えながら言葉を続けた。


「僕が影の一族ではないにもかかわらず、影の力を使える理由だ。君たちが影の力を持っていることにも少なからず関わっている」


 イザークの言葉に悠斗とリリアは驚きを隠せなかった。


「僕は異世界からこの地に転生してきたんだ。君たちもじゃないか?」


 その一言が空気を張り詰めさせ、悠斗の頭にはかつてこの世界に来たばかりの時のことがよぎる。


「つまり……イザークさんも俺と同じで、地球から?」


「そうだ。記憶の断片は多少薄れているが、かつて僕は日本で過ごした。どうやら異世界に転生した者には、この『影の力』が宿るらしい。僕が影の力を扱えたのも、異世界から来たからこそのようだ」


 リリアは視線を落とし、やがて小さく呟いた。


「……やっぱり。そうなのね」


 イザークは彼女に目を向け、穏やかな声で尋ねた。


「リリア、君のも心当たりが?」


「ええ、私は、イザークが私と同じ、日本からきたんじゃ無いかって思っていた。あなたは無意識かも知れないけれど、日本の歌を口ずさんでいたことがあるわ。影の力を扱うものが、たまたま日本人かもしれないということ、そして影の力を扱う一族が悪の所業をしていることそれに怖くなって私は一族を逃げ出したのよ」


 リリアは一族を抜けた経緯を簡単に話す。


「そういうことだったのか。だから、リリアさんは俺が影の力を使えることをなんとなくあの時言い当てたってわけだ」


「えぇそういうことよ」


「なるほど。リリアはすでにその法則性に気づき、悠斗と話していたのか。どうやら我々異世界から来た者が影の力を得てしまうのは、この世界の何らかの法則かもしれない」


「なぁ一つ聞いて良いか?」


 悠斗は、イザークの話に納得しつつも疑問に思ったことがあった。


「なんだい?」


「ってことは、影の一族っていうのは俺たちのように異世界からやってきたものたちってことか?」


「良い質問だ。その答えはノーだ。いや、正確には全員の調べがついているわけでは無いのでまだ異世界からやってきた人間はいるかも知れない。しかし、影の一族の身元を洗った結果、しっかりとこの世界で出生しているものが大半だった」


「そうなのか。なんだか難しい話になってきたな」


「私もあなたと同じように、影の一族はみんな異世界からやってきた人間なのかと思ったわ。そしてその上で悪さをしてるってね。それが嫌になって逃げ出したの。自分と同じ世界の人間だったものがこんなに醜い連中だったなんてってね。でも、違ったのならよかった。そして今目の前にいる2人が、同じ日本人であったというのなら本当によかった」


 リリアは、言葉を詰まらせながら言う。


「リリアさん……。俺たちで、影の一族を根絶してやろう。そして真の意味でリリアさんを一族から解放する」


 リリアは静かに微笑み、悠斗の言葉に頷いた。イザークも満足そうに二人を見つめ、力強く言った。


「その意志がある限り、君たちが選んだ道は間違っていないはずだ。私も最後まで共に戦うつもりだ」


 三人の間に共通の決意が生まれ、彼らは再び影の一族の完全な討伐に向け、力を合わせることを誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る