第六話 治癒魔法
≪前田 満 視点≫
翌朝、まだ窓の外が暗い時間に目が覚めた。
時間は朝5時2分。
あんな出来事があって眠りは浅かったが、睡眠時間は十分に取れた事だろう。
僕は頬を二回叩いて目をしっかり覚まし、ルナさんが用意してくれていた服に着替えた。
着心地は悪くないし、動きやすい。
僕は気配を殺して寝室を抜け出し、リビングの隣の部屋で寝ているだろうルナさんを起こさないように、静かに部屋を出て行った。
廊下も静まり返っていて、誰一人いない。
僕はそんな静まり返った廊下を音もなく進み、階段を下りて外へと出た。
外の空気はひんやりしていて少し肌寒いが、運動するのに適しているだろう。
僕は軽く体をほぐし、ジョギングから始めた。
「はっ、はっ、はっ…」
僕の呼吸音だけが聞こえてきて、この世界に僕だけしかいないような錯覚をしてしまう。
気持ちいい。
そう思いつつ、夜が明けるまで走り続けた…。
「これは勇者様、朝早くから何事ですか?」
「あっ、いえ、体を鍛えていただけです」
「そうでしたか、失礼しました、お続けください」
空が明るくなってきた頃、僕が一人で走っているのに気が付いた人が、鎧をガチャガチャ鳴らしながら並走して来た。
流石に、僕も走っている間は気配を消したりは出来ないので、気が付かれても当然だ。
それに、こんな朝早くから外に出ていれば、逃げ出したのかと怪しんだのだろう。
朝早い人は起き始めて来る頃だろうし、走るのをやめて人目につかない所に行き、筋肉を鍛える事にした。
…。
もう無理…。
腕立て伏せ五十回、腹筋五十回やった所で力尽きて、その場に寝転んだ…。
手足はプルプル震えているし、しばらく動けないかも知れない。
ステータスを確認してみたけれど、筋力と体力は増えてないしレベルも上がって無い…。
そう簡単に強くなれるはずも無いし、毎日努力し続けるしかない。
そう言えば、両親はちゃんと朝起きられただろうか?
僕は毎朝、今の時間くらいに起きて洗濯機のスイッチを入れ、朝食と弁当を三人分作っていた。
僕が居なくなってしまった事で、両親は困っているだろうな…。
いいや、昨日は僕が居なくなった事を心配して、ろくに眠れなかったかもしれない…。
一刻も早く日本に帰り、両親を安心させてやらなくては!
寝転がっている暇なんかない!
僕は体に鞭を打って立ち上がり、限界まで体を鍛える事にした。
「ミチル様、大丈夫ですか?」
「………な、何とか」
無理をし過ぎて動けなくなっていると、ルナさんが僕の所へとやって来た。
ここは建物の裏手の物陰で、誰も気づかれない場所だと思ったのだが…。
ルナさんが、どうして僕の居る場所が分かったのか不思議だが、助かったのは確かだ。
ルナさんは僕を背負い、部屋まで連れ帰ってくれた。
僕を背負えるほどにルナさんの力が強い事に驚いたけれど、それを聞く元気も無かった…。
「ご迷惑をかけて…すみません」
「いいえ、それよりなぜあのような場所で倒れていたのですか?」
「それは…」
仕方なく、ルナさんに体を鍛えていて動けなくなったことを素直に伝えた。
「流石勇者様、もう体を鍛えていたのですね!とても素晴らしい事です!」
ルナさんは、目を輝かせて僕を褒めてくれたが…違うんだ…。
僕は帰るために体を鍛えているのであって、決して魔王を倒すためではないのだから、褒められた事では無いんだ。
そう言葉には出来ず、ルナさんに悪いと思いながら、僕は口をつぐむ事しかできなかった。
「怪我をしたのか?」
「いいえ、怪我ではなく、ミチル様は激しい訓練をして筋肉痛で動けなくなったのです」
「なるほど、すぐ治療してやるからな」
ルナさんは俺をソファーに寝かせた後部屋を出て行き、医者を連れて来てくれた。
医者は俺の体を触って状態を確認した後、魔法を使って治療を行ってくれた。
僕の体が緑色の光に包まれたかと思うと、痛みで動けなかったほどの筋肉痛の痛みが和らいでいき、最後には痛みがまったくなくなってしまっていた。
「どうだ、もう痛くないだろう?」
「はい、ありがとうございます」
「治癒師としては無理するなと言いたい所だが、魔王を倒すには無理が必要だ。
いくらでも治療してやるから、頑張ってくれ」
医者はそう言い残し、部屋から出て行ってしまった。
僕はソファーから立ち上がり、ルナさんにもお礼を言いながら体を動かして確認してみた。
本当にどこも痛くなくなっていて、これならまたさっきと同じ訓練を行えそうだ。
治癒師か…。
僕も治癒師になれば自分の治療も行えて、いくらでも体を鍛える事が出来そうだ。
昨日職業を調べた中で、一応僕の候補になっていた職業でもある。
もう少し詳しく調べなければいけないが、治癒師になるのは悪い選択では無いと思う。
レベルを上げるためには、魔物と呼ばれる生物を倒すしか方法が無い。
ボッチの僕は一人で魔物と戦い、倒す必要がある。
遠距離から魔法や弓で倒せれば楽だろうけれど、魔物に近づかれてしまう事もあるだろう。
剣士や騎士だと、魔物に近づかれても十分戦う事が出来るだろうけれど、離れた位置にいる魔物とは戦えない。
遠近両方戦えるのが理想だけれど、欲張れば両方とも上手くいかないだろう。
どちらかに絞った職業を選んだ方が良いと思う。
ルナさんが用意してくれた朝食を頂き、昨日に引き続き書庫に行って調べ物を続ける事にした。
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