恋するアンドロイド
#zen
第1話 略奪依頼
「アルモ、ちょっと聞いてよ」
子供部屋のようにカラフルな研究室で、ご主人様は起動したばかりの少年型アンドロイドの僕——アルモに泣きついてきました。
「どうしたんですか?」
訊ねても、齢二十六にしてトップの女性技術者であるご主人様は、小さな子供のように泣いてばかりで、一向に話が進みません。
仕方なく僕は、紅茶を淹れて差し出しました。
泣いている理由を、本当はわかっていました。
僕のご主人様はいつも好きな人に振られてはこうやって僕に泣きついてくるのです。
ご主人様の役に立ちたい僕は、頼りにされることこそがアンドロイドの存在意義だと考えます。
だから僕は今日もご主人様の相談役という仕事をまっとうします。
「また浮気されてたのよ! もう男なんて信用しない。私にはアルモしかいないわ」
紅茶で幾分か気持ちを落ち着かせたご主人様はそう言って、僕を抱きしめました。
それでもまだ啜り泣くご主人様に、僕はストレートに告げます。
「そんなこと言って、またすぐ誰かを好きになっちゃうんでしょう?」
ご主人様は仕事だと完璧な方ですが、こと恋愛に関してはダメダメで、惚れては振られるを繰り返していました。
そして今日も吐き出すだけ吐き出したご主人様は、椅子に座った状態で眠ってしまいました。
よほどお疲れなのでしょう。
人間の限界を超えるほど仕事をしているご主人様にはしばしの休息が必要だと考えますが、頑固なご主人様はなかなか僕の言うことを聞いてくれません。
だからいつもこうやって糸が切れたように活動を停止してしまうのです。
「ご主人様、風邪ひきますよ」
「……うーん……」
「完全に眠ってしまいましたね」
僕はご主人様の無防備な寝顔を見つめたあと、こっそりご主人様のポケットからスマートフォンをお借りしました。
そして、
僕は少しだけ声色を変えて告げます。
「今回もありがとうございました。報酬は後日振り込みますので、ご確認ください」
それから僕はとくに挨拶もせずに通話を切った後、通話履歴を完全に消去して、ご主人様のポケットにスマートフォンをそっと返しました。
「これでまた、僕だけのご主人様です」
ご主人様には、僕だけいればいいんです。
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