悪役令嬢ガールズトーク!二度死に戻った私は誰とダンスを踊るのか
紙屋ねこ(かみやねこ)
悪役令嬢は運命の死から逃げられない
プロローグ 悪役令嬢から悪役幼女になりました
「カトリーヌ・ド・メディシスは聖女ディアナを殺そうとした罪をはじめ、皇太子への反逆罪、ならびに皇室侮辱罪、市民を動乱しようとした罪をもって、断罪に処する!」
皇太子が宣言すると、その内容が本当にわかっていたわけではないだろうに、断頭台の前に集まった人々は、
「この毒婦め!」
「聖女さまを殺そうとするとは、なんて悪女だ!」
そう口々に叫んで石つぶてや唾を投げかけた。
額から、腕から、足からも血を流しながら、カトリーヌは断頭台に首を固定された。
「――許さない。アンリもディアナも……おまえたちを未来永劫の呪ってやる……!」
その言葉を最後に、シャキーンという金属的な音が響いて……
――カトリーヌの人生は終わった。終わったはずだった。
なのに突然、ボロボロだった服は美しいドレスに変わり、石つぶてを投げていた群衆は、身の回りで談笑する貴族たちにとってかわった。
「どういうこと、これは……」
――これが一度目の死に戻りだ。
皇太子アンリがカトリーヌという婚約者がいながら、ディアナという平民に入れあげはじめたばかりのころに戻ったのだ。
(婚約破棄する前に戻っている……)
これは神が与えてくれた機会だと思った。
「ねぇ、カトリーヌ……君にとっても悪い話じゃないだろう?」
城で開かれたパーティの席で話しかけてきたのはユージンだった。
カトリーヌの婚約者・アンリ皇太子――ではなく、その弟皇子。
(アンリとの関係を断つためなら、なんでもしてみせる……)
死に戻ったことで、カトリーヌはもうなにも捨てられないものはなかった。
メディシス公爵令嬢としての体面も、皇太子の婚約者という地位もいらない。それらを守るためになんでもしろと押しつけてくる祖父さえ、死んでしまうくらいなら、もう言うことを聞く気はない。
カトリーヌは金色の瞳を輝かせながらユージンに向かって微笑みかけた。
「そうね……あなたがもし彼女を排除してくれるって言うなら手を組んでもいいかしら?」
扇を広げて口元を隠し、カトリーヌは黒髪を揺らす。
――婚約者のアンリを捨て、実家を捨て、自由の身となって北部へと向かう。
「やった! 逃げ切った! これからはわたしの人生を自由に謳歌できる……」
そう思った途端、馬車が横転し、外に投げだされたカトリーヌは鋭い刃に背中を刺された。
流れだす血に意識がもうろうとする。
「う、嘘……いや……せっかく断罪を逃れたのに……死にたくない……」
カトリーヌが最後に見た光景は、自分のそばで血濡れたナイフを持つ一人の金髪の青年の姿だった。
――なぜ、なぜユージンがわたしを殺したの?
血だまりのなかで自分の体が冷えていく感覚だけは鮮明に覚えている。
――死にたくない。まだ自分の人生を生きていない……誰か……助けて。
そう強く祈っていたカトリーヌに奇跡が起きた。
二度目の転生だった。
カラーンカラーンという鐘の音が響きわたり、ふと我に返った。
「カトリーヌ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、また明日」
そんなふうに声をかけられ、見回せば、子どもたちが見覚えがあるエントランスを出ていく。
「ご、ごきげんよう……」
反射的に挨拶を返してから呆然とした。
(わたし……また死に戻ったの……?)
一度目は四年前に死に戻った。処刑される前の最後の一年はほぼ幽閉されていたから、実質的に動ける期間は三年しかないとわかっていた。
「でも、ここは……まさか……」
――皇立幼年学校?
十才に死に戻ったカトリーヌに、毒婦とまで言われた面影はない。
ふたたび起きた奇跡に、自分がこのあと訪れた異世界に、カトリーヌはただただ呆然とするしかなかった。
――神よ、なぜわたしは二度も死に戻った果てに、こんな場所に来ることになったのでしょうか?
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