第7話 追放されかけてた令嬢を助ける話②

 そうして、俺はユミィ様の部屋で彼女が魔法を使える為、彼女に勉強を教えているわけだ。


「では、お嬢様。深呼吸を終えたら、今度は頭の中でロウソクの火をイメージしてみて下さい」

「ロウソクの火……ですか? そのような小さいものをイメージしたところで、本当に魔法が使えるんですか? 他の方からは『燃えたぎる火山』や『太陽のように大きい炎の塊』をイメージしなさい、と教わりましたが……」


「それは普通の魔力を持っている人間に対して有効な手段だと思います。ですが、私やユミィ様のように魔力の量が多い人間には当てはまらないやり方なんですよ」


「あなたも……? では、あなたも『忌み子』なのですか?」

「いえ、残念ながら『忌み子』ではないと思います。実際、私はこの通り髪も目も父上や『本家』の方々と同じものですから」

「そう……ですか……」


 どうやら、俺も同じような境遇に置かれていると期待していたのか、残念そうに俯くユミィ。

 しかし、俺はそんな彼女を励ますように声を投げ掛ける。


「確かに私はお嬢様のような『忌み子』と呼ばれる存在ではありませんが、魔法の才能が無く、『本家』から無能呼ばわりされていました。結果として、独学で魔法を使えるようになったものの、恐れながら立場で言えばあなたと同じですよ」


「そ、そうでしたね……。すいません、変なことを聞いて……では、今は魔法の為に意識を集中します」

「はい、お願いします」


 そうして、目をつむり意識を集中させるユミィ。

 俺は『魔導書』を取り出すと、そんな彼女に『魔導書』に書かれている『忌み子』についての注意事項と共に『火の魔法』の勉強を教えていく。


「お嬢様や私の場合、生まれながらにして魔法を使う際にリミッターが設けられているようです。言ってしまえば、子供の頃から強い魔力を持ってしまっているゆえに、それを抑えようと無意識に体がそれを危険だと認識し、無理矢理押し込めてしまっているわけですね」


「えっと……それなのに、ロウソクの火をイメージした程度で魔法が使えるようになのですか?」

「ええ。だからこそ、少しずつ魔力を放出していく必要があるのです。今回、小さなロウソクの火をイメージしてもらったのは、体内にある魔力を外に出す為に慣れていく為のものですから」


「慣れ……ですか」

「はい。普通の人であれば、大なり小なり魔法を使うのに大した苦労は要らないそうです。だから、私達のように魔法が使えない人間がなぜ魔法が使えないのか……それすら分からず、馬鹿にしてくるわけです」


「別に私はそんな魔力なんて要らなかったのに……どうせなら、お兄様やお父様達のように普通に生まれたかった……」


 そうしてユミィが声を沈ませてしまったことに気付き、俺は彼女を安心させるように声を掛ける。


「ご安心下さい。あなただけではありません。不肖ながら、この私も同じように魔法を扱うことに苦労した身です。それに、自分で言うのもなんですが、他の方々には無い魔力を持っているということは、誰よりも優秀な魔法使いになることが出来る可能性もあるのですから、むしろ誇って良いと思います。『分家』の者として、私は『本家』の長女であるお嬢様のお力になれるよう尽力させて頂きますよ」


「そ、そうですよね……ありがとうございます」


 俺の言葉に安心したのか、目を閉じながらも安堵の息を吐くユミィ。

 魔法には精神の安定が不可欠だ。

 特に俺達のように魔力が多過ぎる人間は、場合によっては暴走してとんでもないことを引き起こしかねない。


 それこそ、『魔導書』によれば、街なんて軽く一つ吹っ飛ばすくらいらしい。とはいえ、それを先に話したところで余計にユミィを緊張させてしまうだけだし、今は黙っておくけど。


「お嬢様、ロウソクの火をイメージ出来ましたか?」

「はい……」

「では、次に片手をゆっくりと上げて、そのイメージを頭から手に流すようにイメージしてもらえますか?」

「こう……ですか?」

「ええ、それが出来たらゆっくりと目を開き、自分の手の上でイメージし直してみて下さい」

「手の上でイメージ―」


 俺の言葉一つ一つに真剣な表情で取り組むユミィ。

 そんな彼女を微笑ましげに見ていると、彼女に変化が起こった。


「こ、これは……わ、私にも……魔法が使えた?」


 自分の手に灯された小さな火を見ながら、ユミィは驚いた様子で固まってしまう。

 俺はユミィの近くまで歩いていくと、そんな彼女を賞賛するように笑みを向けてみせる。


「おめでとうございます、お嬢様。これでお嬢様も立派な魔法使いですよ」

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