第1118話 *マーダ*

 後方にはゴブリンが詰めていたようで固まっていた。


「当たりを引いたか?」


「かもな。だが、将軍ってのはいなさそうだな?」


「まあ、雑魚でも構わないだろう、こんだけいたら」


「そうそう。奪い合いが起きなくていいだろう。首長とか最後に殺したヤツにしか入らないみたいだからな」


「おれたちの役目はゴブリンを撤退させないことだ。忘れるなよ」


 セフティーブレットで英雄になる必要はない。自分たちの仕事をしたらちゃんと評価してくれる。それがニャーダ族の評価になるのだ。


「三十メート間隔でやるぞ」


 ゴブリンは数が多すぎておれたちだけでは壁になることはできないが、他のヤツらにも回してやらねばならないのだから三十メートル間隔で駆除していけばいいだろうよ。


「おう! やるか!」


 それぞれ間隔を作ってゴブリンを駆除し始めた。


「ゴブリンども、逃げんな?」


 狂乱化している感じはないのに、ゴブリンが恐怖に駆られて逃げることはない。破れかぶれでこちらに向かってくる。


 ……恐怖で抑えつけられているのか……?


 なにか、逃げたいのに逃げられないような感じだ。


「死より怖いものがあるのか?」


 なんだ? そんなものがあるのか?


「──マーダ! ボンローが狂った!」


 はぁ? 狂った? なにが起きている?!


「ミリエル! 緊急事態だ! 仲間がなにかわからんものに攻撃されて狂っているみたいだ!」


「──おそらく魔法攻撃を受けたのでしょう。全員、その場から退避してください。眠らせます」


 魔法か! 人間だけではなくゴブリンまで魔法を使うのかよ!


「ボンローを黙らせて運べ!」


 死んでないのなら全回復できるのだから瀕死にさせて運べ。ミリエルの眠りは敵味方関係なく永遠に眠らせてしまうんだからな。


「全員、逃げろ!」


 通信フリーのままプランデットを首にかけている。死にたくなければ尻尾巻いて逃げろ、だ。


 ニャーダ族は勇敢であるが、逃げるのは恥とは思ってはいない。おれたちは魔法に対抗する術がないからだ。


 一キロほど逃げ出し、皆を集める。


「ボンロー、死ぬなよ」


 両足を失くしたボンローに回復薬大を飲ませた。


「皆も回復薬小を飲め。魔法にかかっているかもしれんからな」


 女神の回復薬は魔法も吹き飛ばす力がある。念のため飲んでおくとしよう。

 

「マーダさん。攻撃しただろうドワーフの魔法使いは倒しました。ドワーフに注意して駆除を続けてきださい」


「手間をかけさせた」


「構いませんよ。わたしも稼げましたからね。では」


 元の場所に戻ると、ごっそりゴブリンが死んでいた。


「エゲつねーな」


「人の技じゃねーよ」


 軽く千匹は痛みも感じず永遠の眠りについている。ラダリオンといい、ミリエルといい、バケモノばかりだな、駆除員ってヤツらは。国の一つどころか魔王軍でも滅ぼせそうだ。


「味方でよかったってことだ。さあ、ニャーダ族の地位を高めるぞ」


 気持ちを切り替え、遠くにいるゴブリンに向かって駆け出した。

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