Paradis des Fleurs - 2

「今日からここが貴女の部屋になります。お食事などは全て、こちらの侍女へお申し付けを」

 ──女中頭に案内されて通された部屋は、フローラの予想に違わない、小さくはあるが華やかな後宮の一室だった。

 置かれている家具で目立つものといえば、整えられた四柱式のベッド、化粧机に鏡台、木製のクローゼットだけだろうか。

 ジャフの高級品は装飾が目立つので、それだけでも存在感は大きいが──

 向かいの出窓から溢れる日差しに目を細めながら、フローラは女中頭を振り返って、尋ねた。


「あの、私は陛下から、妹君について頼まれたのですけど……」

「聞き及んでいます。何でも遊び相手にとか」

「多分……」

「後ほどご案内いたします」


 女中頭は全てを義務的に、しゃくしゃくとそう答えると、まだ幼さの残る小柄な侍女を一人フローラの元に残して、廊下の先へ消えていった。

 その恰幅の良い後ろ姿をなかば呆然と見送った後、小さな溜息を吐いたフローラは、とりあえず部屋の奥へ進んだ。出窓から下を見下ろすと、砂地が広がっていて、ぽつりぽつりと警備の兵が剣を携帯して立っている。


「あの……何かお申し付けがありますでしょうか」

 侍女のおずおずとした声が聞こえて、フローラは慌てて窓から顔を上げた。うら若き侍女は、これが初めての仕事なのか、緊張した面持ちで部屋の入り口に棒立ちになったままフローラの様子をうかがっている。


 ──王宮の事情は、分からないけれど。

 フローラも一応は貴族の娘だ。侍女の使い方を知らない訳ではない。


「今はまだ大丈夫よ。必要になれば呼びますから、下がっていて頂戴」

「あっ、ありがとうございます……!」

 侍女はなぜか盛大に頭を下げて礼を言った。そしてフローラを残して扉を閉めると、逃げるように部屋から離れていった。


「…………ふぅ」

 ずいぶんと久しぶりに一人きりになったような気分だ。


 慣れない登城から一日経って、フローラは今朝やっと、専用の部屋を後宮の一角に与えられたのだった。

 後宮となると当然、今の今まで付き添ってくれていた兄も、足を踏み入れることさえ出来なくなる。


 ここからは一人なのだ。自分の足で立ち、自分の頭で考え、行動しなければならない。

 フローラは化粧机についていた椅子を出窓の下まで引きずってくると、そこに座って窓の外の空を見つめた。


(モルディハイ王……赤い獅子王……か)


 あれは本当に炎のような人だった──フローラは、今になってそう思う。

 熱くて、自由で、決まった形を持たずにあちこちへ気紛れに飛び火する、炎。迎える風があればきっと、業火となって目に映る全てを焼き尽くす。そんな烈炎。恐ろしいもの。

 そのかわり……。


(暖か……かった……)


 彼の残像は、まるでフローラの網膜に焼きついたかのように、影となって、いつまでも視界の奥で揺れている。

 彼に触れられた顎の辺りは、あたかも火傷をしたかのように、ひりひりとした感覚で肌に残り続けている。──そして、それらを思い出す瞬間、フローラの胸の奥は、かっと火が付いたように熱くなるのだ。


 こんな思いは知らなかった。こんな熱さは……初めてだった。





 フローラが呼び出されたのは、その日の昼前だった。

 例の恰幅の良い女中頭が部屋まで迎えに来て、後宮の外れの、一面が庭に接した部屋へフローラを案内した。

 中へ通されるとそこには、特に広いわけでも、豪華なわけでもない、ただ見分相応に清潔に保たれた程度の、少女の部屋があった。


 ただ目立つのは、窓辺にある机の上に散らばった紙だ。

「?」

 唯一、王妹の部屋には不相応に見えるそれに、フローラは小さく首を傾げた。


「こちらがタリー様のお部屋です。今は陛下と共に庭園へ出ていらっしゃいますようですので、先に事情をお話しておきましょうか……タリー様は口が利けません。そのせいかひどく内気でいらして、王陛下以外にはほとんど懐きませんの」


 フローラは驚いて女中頭を振り返った。

 ──振り返って目に入った、貫禄のあるしたたかな女中頭の顔に、横柄な、どこか軽蔑の色が浮かんでいる気がしたのは、フローラの気のせいだろうか?


「私は地方の出身ですけれど……陛下に妹君がいらしたという話は、知りませんでした」

 控えめに切り出したフローラに対し、女中頭は胸を反らんばかりの居丈高な態度で答える。曰く──


「そうでしょうとも、私どもでさえ寝耳に水だったのですよ。二年ほど前でしたか、王が突然連れ帰っていらしたのです。同じ髪の色をしていらしたものですから、当時は皆、王の隠し種かと思ったほどですわ」


 純粋な驚きに、フローラはしばし言葉を失った。

 話の内容そのものよりも、それを言った女中頭の態度にショックを受けたのだ。そこには、あって然るべき王妹への敬意はほとんど見られず、外の通りで交わされる下世話な噂話ほどの重みさえ持ってはいなかった。


「同じようにタリー様に就かれた女中が何人かいますけれど、どれも王陛下に追い出されていますね」


 続けて、どこか勝ち誇ったような物言いをした女中頭に、フローラは口を噤んだまま答えなかった。

 そもそも答えようも無いし、フローラは生来から噂話や陰口が嫌いだ。そんな物は信じるに値しないと思っている。

 ──それに今の言葉は暗に、フローラの立場など女中と同程度だと言われたようなものだった。


 女中頭がこれであれば当然、他の後宮仕えの連中も同じか、更に酷いのだろう。

 王宮とは魑魅魍魎の跋扈する恐ろしい場所だと、兄がしていた再三の心配は、杞憂ではなかったのだなと……フローラは妙な所で感心さえした。


「ではお二人がお戻りになるまで、こちらで待たせて頂きますね。それとも早急にご挨拶に伺った方がよろしいでしょうか?」


 フローラは出来るだけ冷静にそう答えた。

 すると女中頭は、これは面白くないと判断したのだろうか、「こちらです」とだけ短く言うと、足早にフローラを庭先に案内した。



 フローラの部屋は高く三階に位置したが、ここは庭続きの地上階だ。

 それだけは羨ましいなと、フローラは外庭を歩きながら、ぼんやりと思った。

 どうも王妹はどういう訳か、不憫な立場にあるようだ。フローラは王子様に憧れはしていたが、王宮の華やかな生活には大した憧れを持っていない。まだ見ぬタリーに感じるのは同情ばかりだった。


 こんなにも広い王宮で、口も利けず、寂しい思いをしているのだろうか。

 今もモルディハイ王が訪ねているというから、孤立無援ではないのだろうが、それにしたって王も多忙を極める身のはずだ。四六時中は傍に居られまい。


 女中頭はずっとフローラを先導していたが、途中でピタリと足を止めた。

 ここまでは慣らされた砂利道が続いていたが、この先は芝生になるようだ。ジャフ──特に乾いた気候の王都では珍しい。フローラも合わせて足を止めると、女中頭が振り返った。


「あちらに陛下と共にいらっしゃるのがタリー様です。ご挨拶下さい。……帰りの道は覚えていらっしゃいますね」

「ええ、ここまでありがとう。後は大丈夫です」


 すぐに帰り道が必要になるとでも言いたげだ──。

 しかしフローラはこれも聞き流すことにした。礼をする女中頭を見送って、再び目前に広がる芝生の先を見つめる。


 確かに先方に人影が見えた。

 鈍い赤、もしくは赤銅色の炎が遠くでふわふわと揺れているようにも見えて、フローラは、惹きつけられるように、ゆっくりと芝生の上を一人歩み出した。


 芝生の先では、モルディハイが、タリーと思われる赤毛の少女を抱き上げながら笑っていた。


 よく似た二人の赤毛の兄妹が、幸せそうにじゃれ合っている姿……それがフローラの見たものだった。傍には子馬がいて、時々、王の笑い声さえ聞こえる。

 頬を寄せ合い、腕を絡ませ、跳ねたり抱き上げたりと、忙しそうなくらいだ。


 タリーらしき長い赤毛の少女は、その一つ一つに笑顔で応えている。


(わぁ……っ)

 モルディハイの太陽のような笑顔が、再び、フローラの瞳に飛び込んできた。


 とりあえず声の届きそうな場所まで進むと、フローラは歩みを止めた。

 ──その時、タリーを抱きかかえていたモルディハイがフローラの存在に気付き、振り返った。振り返ったモルディハイと、佇んでいたフローラの視線がぴたりと合う。瑪瑙色の瞳に捕らえられたフローラは、慌てて背筋を伸ばし、頭と腰を下げた。


「再び失礼致します、フローラと申します。今日はタリー様へご挨拶に伺いました。以後お見知りおきを──」


 フローラは出来るだけ丁寧に言ったつもりだが、モルディハイからの返事はなかった。

 こういう時、特に相手の身分が高ければ高いほど、上方の返事があるまで頭は上げられないものだ。

 頭を下げたまま結構な時が過ぎても、フローラはモルディハイの言葉を得られないでいた。


 仕方なく、恐る恐る顔を上げたフローラが見たものは、二つの正反対の反応だった。

 宝を発見したかのように瞳を輝かせるタリーと、親の敵かたきでも目に入れたかのように眉を寄せる、モルディハイと──だ。


 さすがのフローラもビクリとして、一瞬、逃げ腰になった。

 しかし、モルディハイの腕をすり抜けるようにして、タリーがフローラの下へ駆け寄って来た。


 フローラの前まで来たタリーは、風に揺れるフローラの金の髪と、薄紫の瞳をしげしげと見つめた後、少女独特の憧れに輝く笑顔を見せてフローラの手を取ったのだ。

 そして背後にいる兄──ジャフ王モルディハイを振り返って、何か次第に首を縦に振っている。


「あ、あの……タリー様……?」

 と、フローラが聞くと、タリーは再びフローラを振り返り、薄くそばかすののった可愛らしい顔ではにかんで見せた。


 ──初めての経験ではない。ジャフでは金髪や青眼は珍しいから、特に年頃の町娘達などからフローラはよく羨望されたものだ。

 しかしここは王宮、タリーが始めて金髪を目にしたとは思い難い。


「お前を呼んだのはこのタリーの為だ。いつまで経っても『あの女』を恋しがるのでな、同じ金髪青眼を探した」

 よく通る声が響いた。

「え──」

 気が付くとモルディハイが、ゆっくりとフローラとタリーの方へ近づいてきていた。


「このタリーが、もう一度あの金髪と会いたいとしつこかったからだ。私は金髪青眼など微塵の興味もない     ──憎憎しいくらいだ、こんな軽薄な色など。反吐が出る」


 その言葉通り、憎憎しげに歪めた顔を隠そうともせず、モルディハイはフローラに向けて吐き捨てるように言った。

 『あの女』、『あの金髪』──話が読めずに、フローラは瞳を瞬いた。


「お前は貧しい地方貴族の出身だそうだな。私を利用して、故郷を助けようとでも思っているか。ん? 期待は外れたな。私はお前を妻に迎える気はない。お前だけは、絶対にだ」


 モルディハイはそう続けた。

 急な緊張と衝撃に、胃の中が回って、フローラは軽い眩暈と吐き気を感じた。


 先日の謁見の席でさえこれほど緊張しなかった。モルディハイの生々しい嫌悪の言葉を真っ向から受け、フローラの足は徐々にすくんでいく。

 もしタリーがいなければ、じりじりと後ろに逃げてしまったかも知れないが、タリーの手はフローラの手を取ったままだった。


「陛下、私は……そんなつもりでは……」

「ではお前の目的は何だ。王宮の豪華な暮らしに目が眩んだか、それとも王都に男でもいるのか」


 まだやっと十五、六歳に届いたばかりらしい妹の前にも関わらず、モルディハイはそんな事をさらりと口にした。

 おまけにたった一度顔を合わせただけだというのに、モルディハイは宿敵でも前にしたような禍々しさで、フローラの前に立ち塞がっている。今日のモルディハイは、色こそ派手ではあるが、王という身分にしてはずいぶんと軽装をしていて、それが逆に、布の下の隆々とした男の肉体を誇示してもいた。


 手でも上げられればとてもフローラでは敵わない。

 フローラはごくりと息を呑んだ。


「そんな……滅相もありません。昔、陛下のお姿を垣間見たことがあります。それからずっと、密かに憧れておりました。今回のことも……故郷を離れるのは辛くありましたが、陛下の元ならばと、決心したのです」


 フローラの震える手に気が付いたのか、不安げな表情になったタリーが、モルディハイとフローラの顔を交互に見回した。


 モルディハイがタリーに向け、「来い」と言うと、少女は少し躊躇しつつも、結局フローラから離れてモルディハイの元へ戻った。そしてぴたりと寄り添う兄妹は、ともすれば父娘にさえ見えるほどの年齢差があった。


「ふん、ずいぶんと良く出来た演技だ。余程訓練されたと見える」

 モルディハイの口調は、完全にフローラを侮辱していた。


「いいえ、これが……真実ですから」

「豪華な暮らしでもない、故郷を助ける為でもない、ただ私の元だから素直に来たと──そう言うか」

「はい」

「では証明してみせろ」


 モルディハイはさも当然のように言い放った。しかし、フローラには答えようがない。

 出来るものならフローラだって証明してやりたいが、一体どうすればいいというのだろう。フローラが半分蒼白になって立ち竦んでいると、モルディハイは瑪瑙の瞳に冷淡な炎を宿しながら、すっと傍にいた家畜を指差した。


 最初、子馬だと思っていたそれは、傍で見るといくらか年のいった茶色の……ロバだった。


「タリーの驢馬だ、これの世話でもして暮らすがいい」


 フローラは口をぱくぱくさせた。

 ──ロバは家畜の中でも低価で、比較的手に入りやすいため庶民に親しまれている動物だが、貴族や、まして王族の間では蔑まれている。

 それの世話をしろとは、顔に泥をぬられたのも同然の仕打ちだ。フローラ個人の感覚は別にしろ、少なくとも、対外的には。


「私が執務で居ない間くらいは、タリーの相手をしてもよかろう。しかし私がここに居るとき、お前は目障りだ。さあ、その鈍足を連れて馬小屋の掃除でもしていろ!」


 王の怒声が響いた。──タリーが抗議に首を振っていたが、兄の決定は覆せない。

 フローラはロバの手綱を取って、慌ててその場を去ろうとした。モルディハイの怒鳴り方が尋常ではなかったからだ。このままフローラがここに居ては殺されてしまいそうな怒号だった。


「あの、その小屋は何処に……」

「この東だ、さっさと行け! 売女が!」


 売女──そこまで辱められなければならないいわれが、一体どこにあるのだろう? 謁見の間で『飼育係』と言われたのは確かだ──。しかし言葉のあやか、何かの間違いだと思っていた。それがここまで文字通り……選りによって貢物まで送って呼び寄せたフローラを、どうしてこんな風に侮辱する必要が?


 不条理なことだらけだが、それでも相手が王であるのは変わらない。

 フローラは深く頭を下げると、ロバの手綱を引いて、逃げるようにモルディハイ達から遠ざかった。


 急ぐフローラの背後に、「帰りたくばさっさと郷へ帰るがいい!」──と、そんなモルディハイの叫びが、突き立てられた。



 フローラの新しいドレスはすぐに土で汚れた。

 ロバを連れたフローラが馬小屋に辿り着くと、そこで働いていた馬番たちが驚いてフローラの所へ駆け寄って来た。フローラが彼らに事情を説明すると、馬番たちはそろって彼女に同情した。

「俺らはこんなこと言える立場じゃねぇがな、お姫さん、王はとんでもなく気性の荒いお方さ。悪いことは言わねぇ、さっさと故郷に帰んな」

 ──それは正論だったのだろう。

 涙は止まらず、モルディハイの怒声が胸に刺さって痛いばかりなのに、帰りたいとは、フローラには思えなかった。


(どうして……こんな……)


 そうだ──笑顔なんて見なければよかった。そうすればきっと、すぐに逃げ出すことが出来たのに。





『ひどいです、お兄様!』

 派手な大文字で書かれた一文が、モルディハイの前に突きつけられた。

 ──普段は滅多に怒ることのないタリーも、この時ばかりは眉間にくっきり皺を刻み、眉を上げて憤怒していた。


 モルディハイがフローラを追い払った後。タリーにもさすがに言いたいことがあったのだろう、なかば強引に兄の手を引いて、部屋へ戻ってきた。

 タリーは机の上に散らばった紙を取ると、素早く殴り書きをした。


『あんなに優しそうな方だったのに、可哀想です』

「私の知ったことではない」

『その通りです。お兄様は、私のために彼女を連れてきて下さったのでしょう? 私は彼女と仲良くしたいのです。年の近い友人が欲しいのです。そっとしておいて下さい』


 そう書かれた紙を、モルディハイは仏頂面で読み返した。

 ──確かに、モルディハイがフローラを呼び寄せたのは、タリーの為だった。数年前、ほんの短い間だけ交流のあった『あの金髪』に、幼いタリーはそれは深く懐いていて、 去られた後は恋しさにひどく泣いていたものだった。

 今でも、諸事情から友人のいないタリーは、彼女を恋しがる。


 苦肉の策に始めたのが、この『金髪青眼の娘』探しだった──という訳だ。

 それをモルディハイの嫁探しという名目にしたのは、一日でも早く正妃を娶れと散々うるさい家臣達の口を黙らせるためと、後は単純に、その方が娘が集まりやすかったからだ。


 まさか本当に居るとは思わなかった──というのが、最初に家臣からフローラの存在を聞かされたときの、モルディハイの感想だった。


 流れる金糸の髪、ぬけるような白い肌に桃色の頬、吸い込まれそうな空色の瞳……。

 実際にモルディハイの目の前に現れたフローラは、『似すぎて』いた。

 よく見れば造形は違うのだろうが、その鮮烈な色彩ばかりが目立って、そこまで意識が及ばない。


 あの女……モルディハイの心を奪い、そして消えていった女。

 死んだのだと思っていた。それが、助かっていたのだと知ったときには、彼女はすでにモルディハイの宿敵だった男の妻の座に納まっていたのだ。

 知らせてきたのは間者、カイだった。

 しかもそれは丁寧なことに、モルディハイに邪魔をさせない為か、結婚という既成事実が出来たその夜に、だった。


 それが誇り高いモルディハイの心を、どれほど荒らしたか、常人には想像さえ及ばないところだ。



 フローラは、モルディハイという一人の男に憧れたからこそ、王宮へ来たのだと言った。しかしモルディハイがそれを証明しろと言うと、今度は答えなかった。

 鮮明に残る記憶と、傷が、たやすく黒い炎に薪をくべる。

 フローラは知らずして、モルディハイの心の闇に押し入っていたのだ。心の奥で静かに燃えていた炎が、新しい風を得て、爆発する。


 フローラは、その爆風を受け止めなければならなかったのだ──





 それは、言うのもはばかれるほどの、小さな進歩。


 臆病に震えた足で踏み出す、最初の一歩。

 準備もない二人の、不器用な始まり……。

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