第12話
──彼女のことを調べて数時間。
「駄目だ、わからない」
そう思わず言葉を漏らせば、「……は?」と屋上にいる全員が一斉にこちらを向いた。
みんな俺の言ったことが理解できないとでも言いたげな表情をしている。
俺だって意味がわからない。
俺はハッキングの技術に自信があって、ここの生徒の基本的な個人情報ならすぐに調べられるくらいの力はある。
だけど、ただの女子生徒一人の情報を調べられなかったことは初めてだった。
「彼女のデータは二重のロックで守られていて、なんとか一つは解除できたけど……それ以上は何時間かけても無理だと思う」
それに一つは解除できたといっても、出てきた情報はすでに知っているフルネームと年齢だけだ。
生年月日や家族構成、転校前の経歴などについては何も分かっていない。
結局、その後も新しい情報は見つけ出せなかったけれど、逆に俺はそんな謎だらけの彼女──“雨貝 八永”に興味を持った。
ふと、輝に視線を移す。
珍しく輝は寝ていなくて、なにやら真剣な面持ちで考え込んでいた。
「(そういえば、雨貝さんと会ったことがあるんだっけ?)」
本人は“誰だこいつ”って顔をしてたけど……
だとしても、輝が“女の子”に自ら話しかけるところなんて久しぶりに見た。
それに真琴は別として、茜や藍も彼女のことが気になっているように見える。
……もちろん藍は警戒心の方が強いけど。
みんなのことを一通り観察し終え、俺は再びパソコンに向き直った。
なにか他に彼女の情報はないかと学校の裏掲示板にも目を通していれば────数分前に投稿された一枚の写真に目が留まる。
……へぇ。
画面に表示された彼女の写真と、その下に書き込まれた短いコメント。
それを見てある案を思いついた俺は、画面をみんなの方に向けて一つ提案してみた。
「彼女、俺たちの“姫”にしない?」
────彼女が現状を変えてくれる、なぜかそんな予感が微かにしたから。
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