第10話 仲良くするのは難しい
これにて一件落着したので、全校集会の方へと行かなければと思ったのだが、踵を返そうとしていた所で藤原さんに手を掴まれてしまった。
すぐさまスズがまた怖い顔でギロリと睨み付けていたのだが、それに怯まずに藤原さんはちょっと焦った顔で僕の腕を引っ張った。
「まだ! 何も説明できてないでしょ!」
「あ、そっか」
もう全部終わった気でいたんだけど、そう言われればそうだった。
藤原さんが何者なのか、なんで僕のことをちょっと調べただけで知ることができたのか……色々と聞きたいこともあるし、藤原さんだって僕に関して色々と聞きたいことがあるだろう。
ちらりとスズの方へと視線を向けたら、なんとなく頬が膨れていたが……それ以上に何も言ってこなかったので許可が出たと認識でいいのだろう。
改めてお互いに向き合って、僕と藤原さんは口を開こうと思ったが、藤原さんは大きな溜息を吐いた。まぁ、僕とスズの関係を考えれば溜息も吐きたくなるか。
「……まず、私はその、スズさん? が言っていた通り、神を祀って鎮めていた巫女の末裔で……実際に幾つかの神社も管理してる」
「神主さんってこと?」
「いいえ。現代の神主なんて殆ど霊能力も持っていない人間ばかりだから、私みたいな力を持った人が沢山の神社を巡って点検してるの」
ほう……つまり、工場の機械とかの様子を見に来る修理業者、みたいな感じかな?
「私の家……藤原家は安倍晴明の遠い分家だから、私みたいに霊能力を持って生まれくる人間が多いの。そんな私から見ても……ここ最近の貴方は異常だったから話しかけたのよ」
「前までは?」
「クラスメイトなのに、私の視界に入ってこない程度だったわ。つまり常人の範囲内……もしかしてもっと前から見えてた?」
「うん」
物心がついた時には既に見えていた。多分、生まれつきだと思う……だから、昔は生きている人間と死んでいる人間の区別なんて付きもしなかった。明らかに怪物みたいなのからは、逃げてたけども。
「おかしい……そこまで昔からはっきりと見えていたなら、こっちでも気が付く筈なのに」
藤原さんは凄い不思議そうな顔で首を傾げているが、僕にはそこら辺がよくわからないので取り敢えず一緒になんでだろうねって感じの雰囲気を出しておこう。
形だけでもちょっと不思議な感じを醸し出していたら、袖をくいっと引かれた。そちらに視線を向けると、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めているスズがいた。ゆっくりと僕の耳に口を近づけてきたスズに、ちょっとドキっとする。
「その……霊力が他の人に見られていなかったのは、貴方の霊力を私がちょっとずつ吸ってたから、です」
「え?」
吸ってた……吸ってた?
「私、封印されてたじゃないですか。貴方が子供の頃に会った時……惚れちゃって運命の人だと思ってから、封印を解くために霊力をちょっとずつ……体調に変化が出ない程度に」
「そんなことできるの?」
「はい。だって、沢山約束したじゃないですか……また一緒に遊ぼうとか、将来結婚しようとか、喧嘩したらお互いに謝ろうとか」
そ、それは子供だから確かに色々と約束はしたと思うけど……神様と迂闊に約束した方が悪いってことですね、うん。
「聞こえてるわよ」
あ、どうやら藤原さんにも聞こえてたらしい。
「はぁ……こんなのどんな報告すればいいのよ。悪神が男に惚れたから一緒についてます? 挙句の果てに将来は夫婦になるから世界の認識をちょっと弄って学校に潜入しますなんて……私が原因じゃなくても怒られるじゃない」
怒られるんだ。
そして、やっぱり藤原さんはなにかしらの組織に所属しているみたい。口ぶり的に、霊能力関係の組織なんだろうな。僕のことをちょっと調べただけで名前まで理解できたのは、常人の中でそこそこ霊力が高い人間だったから、僕の知らないところで監視されてたってことなんだろう。
うーむ……社会を裏から監視する組織、なんてファンタジーチックというか、中二病的な組織が本当に存在しているなんて思ってもいなかった。僕は人間じゃない者が昔から見えるせいで、中二病にはならなかったけど……憧れている人からすると歓喜の情報なんじゃないかな。
「悪神なんて失礼ですね」
「いや、前に自分で言ってたじゃん」
「そ、それはそうですけど……いざ面と向かって言われると腹が立つんです!」
そ、そうなのか。人間には一生理解できない感覚だから、無駄に突っ込むのはやめておこう。
「ね、ねぇ……スズさんに聞いてほしいんだけど」
「白沢鈴奈です。スズと呼んでいいのは家族だけです」
「……白沢鈴奈さんに聞いてほしいんだけど」
「直接聞けばいいじゃないですか」
「あ……はい……そ、その……えーっと……」
ちょ、ちょっと流石に可哀そうになってきたな。流石にここは助け船を出してやったの方がいいかな……だってスズは俺のこ、こ……婚約者、だし?
「スズ」
「む……どうして蓮太郎さんがこの女を庇うんですか?」
「誰だって威圧的に話しかけられている人を見かけたら庇いたくなると思うよ? 僕だってちょっと怖いと思う時があるんだから、スズはもうちょっと人間の常識を学んだ方がいいよ」
「うぐ……」
自覚はあるみたい。
「それで、藤原さんが聞きたいことって?」
「その……悪神で封印されていたってことは、行動する範囲にも制限がかかっているはずよね? 今はどれくらいの範囲で動けるのかと思って」
「なるほど、それは確かに僕も気になるな」
彼女は白蛇神社から飛び出してきたってことは、それなりの範囲で動けるのかな。
「私は……今は境内と蓮太郎さんの周囲ぐらいですね」
「え? 僕の周囲だけ?」
「はい」
えーっと……神様は瞬間移動ができることを前提に考えても、境内と僕の周囲だけってかなり狭くないかな?
「なので、蓮太郎さんの家に泊めてくださいね?」
「えぇっ!? 聞いてないよ!?」
「ふ、不健全よ! 高校生の男女がひとつ屋根の下なんて、ど、どんな間違いが起こるかわからないのよ!?」
「そうだよ! 来客用の布団なんて持ってないよ!」
「そっち!?」
スズを床で寝させるわけにはいかないし、僕のベッドはそこまで広くないから2人で寝たらとんでもなく寝苦しいに決まってる!
「大丈夫ですよ。いざとなったら白蛇の姿にでもなって貴方の隣で寝ますから」
「それなら、大丈夫かな?」
「あ、でも部屋に神棚作ってくださいね。簡易的なものでも構いませんので」
「わかった……でも神棚の作り方なんて知らないから教えてね?」
「はい!」
「ちょっとっ!? なんで同棲前提に話が進んでるのよ!? 不健全よ!」
「むっつりなのね」
「は、はぁっ!?」
うーん……2人が仲良くするのは、難しいかな?
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