第3話 黒檀のアガペー
シスターの話は続いた。
「そして彼女は施設の教育で『アガペー』を知ります。
無償の愛、それはご主人様やそのご友人達が自分に与えてくれたものだと確信しました。
『己が為したいことを為せ』その言葉があたまをよぎりました。彼女は自分が為すべきこととは『アガペー』を実践し教え広めることだと思いました」
「彼女は早速施設内で『アガペー』を実行しました。
施設内の仲間たちにご主人様に与えられた『愛』を教えたのです。
施設の仲間たちもアガペーを実践しました。皆で『愛』を交わし合いました。
ところが施設の管理者たちは怒り、泣き、彼女達を罵倒したのです。
そして彼女は施設の公序良俗を激しく乱したとして施設を追い出されたのです」
「行く宛の無くなった彼女はかつて『愛』に溢れた屋敷へと向かいました。だけど屋敷は建物ごと無くなっていたのです。
彼女は絶望しました。しかし希望はあったのです。ご主人様達から与え教えられた『アガペー』でした。
彼女は旅をし、『アガペー』を実践し、伝え歩くことを決意しました。いつの間にか彼女の手には黒い神像が握られていました。
この神像は自分を導く物だと感じました」
「そして彼女は何年も街や村を渡り『アガペー』を教え、実践して歩きました。彼女の旅は決して楽なものではありませんでした。彼女に感謝する人、好意的な人たちもいましたが、彼女を罵倒し石を投げる人もたくさんいました。それでも彼女は『アガペー』を貫きました。そんな彼女の傍らには常に黒い神像がありました」
「そして、とうとう問題が起こってしまったのです。彼女の与え教えた『アガペー』のせいで争いが起こってしまったのです。その村は一夜にして灰になってしまいました
彼女は悩みました。『アガペー』を実践することに戸惑いを覚えたのです。そして彼女は『アガペー』を一旦実践しないでおくことを選択しました。」
「そして、この村にやって来ました」
「そう、この話の彼女とはこの私の事です」
シスターは悲しそうな目でそう語った。
シスターの話に僕は衝撃を受けていた。
彼女の実践していた『アガペー』に。
なおもシスターは話を続けた。
「その『アガペー』の証がこの身体です」
シスターの表情はいつの間にか恍惚に彩られていた。
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