第29話

離婚届を見つめていた沙羅は、あることに気が付く。

 それは、「結婚前の氏に戻る者の本籍」という欄だ。

 

「これって……」


 暗闇の中で、わずかな光を見つけたように、沙羅は急いでノートパソコンを立ち上げた。

検索欄に「離婚届 書き方」と入力する。

モニターに表示された検索結果を順に見て行き、上から5番目に記載されている弁護士事務所のページを開く。そのホームページは、一般の人向けに専門用語などを使わない仕様で分かり易い。

これなら理解出来そうだと、沙羅は内容を読み進める。


 ”離婚届書き方の見本”と書かれている様式を見ながら、フムフムとうなずいて、手元のノートに要点のメモを取る。

 特に「結婚前の氏に戻る者の本籍」の項目については、念入りに読み込んだ。その中のある項目に辿り着くと、「この用紙をダウンロードする」と書かれた部分をクリックした。それに反応して、プリンターが一枚の紙を吐き出し始める。

機械音が止まり、沙羅は印刷した紙を離婚届の横に並べた。

 

「これで、どうにかなるかも……」


正直な所、法律の専門家でも無い自分の思い付きなど、浅はかな考えなのかも知れない。でも、気持ちを持って行く場所が見つからない状態から、抜け出すために藁をも縋る思いだ。


「不倫しておいて、土下座で謝れば、何もかも元通りになるなんて、絶対に無理だと思い知ればいいのよ」

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