第23話

目を見開らいた政志は、取り繕うように慌ててしゃべり出す。


「片桐なんて知らないし、不倫や妊娠なんて、誰か人違いしているんじゃないのか?」


 大げさに手を広げ白を切る政志。明らかにウソだとわかる仕草だ。

 それを見た沙羅はクッと口角を上げ、憎しみの瞳を向ける。


「そうね。私も間違いだったら良かったなと、思っているの」


そう言って、沙羅はプリンターから印刷したばかりの写真を取り出し、政志へ投げつけた。解き放たれた写真はヒラヒラと花ビラのように舞い、政志の足元へ落ちていく。その写真は、政志と片桐が笑顔で並ぶ姿や行為中のふたりが収められた写真だった。


「なっ、なんでこんな写真が……」


顔色を失くした政志は、膝を着きアワアワと写真を掻き集め出した。

 慌てふためく政志を見下ろす沙羅の心は、急激に冷え、朝まで大切だったはずの夫への想いが、枯渇して行くのを感じていた。


「本当に間違いだったら、どんなに良かったか……。片桐さんがわざわざ見せてくれたのよ」


そう、つぶやいた沙羅の声は、悲しげに沈む。

膝を着いたままの政志は、観念したのか頭を下げた。そう、土下座の体制だ。


「すまない。 つい、魔が差して出来心だったんだ。許してくれ」


それを見た瞬間、沙羅の中で、これまで政志と過ごした月日が音を立てて崩れて行く。

突然、口に手を当て壊れたように笑い出した。


「あはっ、あははは。

と言う割に半年も関係を続けて、高価なディナーとプレゼントまで差し上げて、ずいぶんお楽しみだったみたいね」


「すまない……」


「私より彼女の方が、大切なんでしょう?」


「違う……アイツとは、遊びだったんだ。もう、会わないから許してくれ」


浮気のテンプレート通りに言葉を吐く政志に、沙羅は屈み視線を合わせた。


「遊びだったから、許せ? バカ言わないで、じゃあ、本気だったら……私は政志さんの幸せを願って身を引けとでも言われるのかしら。結婚して妻になったからって、私は召使いや奴隷になったつもりは無いのよ」

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