第13話

洗面台の鏡に映った顔は、泣きはらした名残りで、目のまわりが腫れぼったくなっていた。

沙羅は、少しでも綺麗に見えるように、ファンデーションを厚めに塗り、化粧を施す。

最後に、淡いピンクの口紅を差した。


この口紅が、政志からのホワイトデーのプレゼントだったのを思い出し、貰った時の記憶がよみがえる。

今となっては、嬉しくてはしゃいだ自分の姿が酷く滑稽に思えて、惨めな気持ちにさせられた。


「あのバッグひとつで、この口紅が20本は買えるのよね」


そう言って、沙羅はゴミ箱へ口紅を放り捨てた。

コンッと鈍い音を立て、白いゴミ箱の底に落ちた口紅を冷えた瞳で見つめる。


「こんな物で喜んで、バカみたい」


スマートフォンの充電をチェックして、バッグに入れる。

充電していた古い携帯電話もバッグの外ポケットに差し込んだ。


玄関の鍵を閉め、我が家を見あげる。

小さいけれど、芝生が敷かれ、手入れの行き届いた庭。ベランダには家族の洗濯物が仲良く並んでいる。幸せそうな家族が住む一軒家だ。


古い携帯電話をバッグから取り出し、パシャリと我が家を写真に収めた。


数年後、この写真を眺めた時、何を思うんだろう。

そんなこと考えながら沙羅は日傘を広げ歩き出した。

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