第3話

サイドボードの上にある固定電話の着信音が鳴り出した。

普段、忘れ去られた存在が、自己主張をするようにジリリン、ジリリンとうるさく響く。

紗羅は憂鬱な気持ちで、アイロンのスイッチを切り、固定電話の受話器を持ち上げた。


「もしもし?」


家族それぞれが携帯電話を所有している。

最近、固定電話に掛かってくるのは、セールスか親類からの冠婚葬祭の連絡。


それと、無言電話だ。


安全のため、紗羅は自分からは名乗らずにいた。

電話の向こうの相手は、今日もだんまりを決め込み、ムダな時間だけが、じりじりと過ぎて行く。

得体の知れない相手にいらだちを募らせ、ガシャンと乱暴に受話器を置いた。


「いやだな。文句があるなら、はっきり言ってくれればいいのに」


固定電話なんてあまり使わないからと、導入時にナンバーディスプレイのオプション料金を ケチったのを今さら後悔してしまう。


無言電話が始まったのは、 一週間ぐらい前だ。

最初は、間違い電話で「すみません」の一言もなく切ってしまったのかと思っていた。

けれど、一日のうちに二度三度と繰り返されれば、否が応でも嫌がらせ行為だと認識出来る。


ただ、何故、無言電話をしてくるのか、紗羅には皆目見当もつかない。

知らない間にママ友に恨みでも買ってしまったのだろうか。それとも、何か他に原因があるのだろうか。

思いを巡らせても答えなど見つからず、不安だけが心に積もっていく。

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