シャナの拒否と姉妹の衝突
足元の草が、風に揺れていた。細くて、柔らかくて、それでも時おり、ぱちんと弾けるような音を立てる。まるで、わたしの胸の内みたいだった。
アビーの運転は、静かで落ち着いていて、土の上をなぞるように滑らかだった。音も、動きも、まるで深呼吸みたいだった。でも、カーラの運転はちがった。弾けるように、跳ねるように、トラクターが息をするたび、地面がびくびくと揺れて、わたしの背中までぞわぞわしていた。
息を詰めたまま、それを見ていた。楽しい、とは思えなかった。楽しそうなカーラの顔を見るほど、心がきゅっとなった。
「次は、シャナの番ね!」
軽やかな声。明るくて、まっすぐで、でも、わたしの耳には少し高すぎた。わたしは反射的に一歩引いた。視線を合わせないように、つま先を見つめる。うまく言葉にならないのを、自分の喉のせいにした。
「……今日は、いい」
かろうじて出た声は、風にまぎれてどこかへ行ってしまったようだった。
カーラが近づいてくる。顔は笑っていて、ぜんぜん怒ってないし、悪気もないのがわかる。でも、近い。歩み寄ってくるその距離が、こわい。
「なに言ってんの。やってみなよ? 別に飛ばせって言ってるわけじゃないって。アビーみたいにゆっくりでいいし、シャナのやり方でさ。順番なんだし、次はシャナの番だよ」
たしかに、順番だった。それはちゃんとわかってた。誰も悪くない。でも、「順番」って、そんなに重たいものだったっけ? わたしの番、って言われるたび、肩の上に何か乗っかる気がして、足が動かなくなる。
「……でも、さっきの、こわかった……」
カーラは笑ったまま、首をかしげた。
「そっか。でも、それってわたしの運転のことじゃん? シャナは自分の運転をすればいいって。ちゃんとできるよ。シャナって、そういうの得意そうだし」
言ってくれてることは、やさしい。でも、どうしても、そのやさしさが遠い。わたしの中の「こわい」とは、うまくつながらない。
そして――声が割って入った。
「もう、やめてよ!」
アビーの声。怒っていた。でも、怒りというより、なにかが込み上げて止まらなくなったような声だった。
「シャナ、嫌がってるでしょ! 顔見てよ! それにさっきの運転は何!? 危ないって、わかってるの!?」
わたしはびくっと肩をすくめた。風がぱちんと耳を打った。
カーラが、目を丸くして、ぽかんとした顔になる。
「え……別に。そんなつもりなかったよ。ただ、番だからさ……」
「“番”なら、無理やりやらせていいの!? 楽しければいいの!? いつもそう、あなたは!」
アビーの声は、まっすぐで、熱くて、ちょっと震えていた。
その声に、わたしはどうしていいか分からなくなった。どちらもわたしのことを思ってくれているのに、その言葉がぶつかっている。
三人とも、きっと誰も悪くなかった。でも、伝え方と感じ方が、うまく重ならなかっただけ。
帽子のつばをぎゅっと握る手に、汗がにじんだ。
「……ごめん、できない……」
そう言うと、少しだけ肩の力が抜けた。でも、その代わりに、胸の奥にじんと広がってくる後悔のようなものがあった。
どうすればよかったんだろう。乗ればよかった? でも、乗ったら、もっとこわくなってたかもしれない。
わからない。だから、立ち尽くすしかなかった。
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