第30話
四限目──これが終われば、次は昼休みだ。
今日も
しかも、今日は女子の体育教師が休みの為、男子の体育教師が兼任となった。結果的に、男子はほったらかしにしておいても勝手に遊んでいるだろうとサッカーにしやがったのだ。最悪である。
この学校に於けるサッカー。もとい、俺がいる時のサッカーとはつまり……サッカーではない。
「くたばれぇッ、
クラスの男子生徒がただ突っ立っているだけの俺に対して、スライディングをしてくる。
いきなり視界に男が近付いてきたので、慌てて飛び上がってその攻撃を
「うわ! てめぇ、俺ボール持ってねえだろ!」
そうなのだ。俺がボールを持っていようが持っていまいが、攻撃がこっちに来るのである。
学校一の美少女こと
「おい
敵チームの男子生徒が、何故かこっちのチームメイトである
「何で敵チームにお前が指示出してんだよ!」
「おーい、
「何でオメーも敵チームの言う事聞いてパス出すんだよ!」
俺の
敵チームもパスをカットできるのに、誰もカットしない。ボールは俺の元へとコロコロと転がってくるのだった。
そして、ぽす、っと俺の足にボールが当たる。
「いよっしゃあ! これで大義名分ができた! 殺せ!」
それと同時に敵チームの男子が全員猪突猛進してきた。
いやいや、さすがにこの数はやばい。絶対に怪我する。味方チームもわざとパスが届かない様なところに移動しているし、このフィールド内に俺の味方が誰一人としていない。
「ま、待て待てお前ら! 本当にそのまま俺に突っ込んできていいと思ってるのか!?」
俺は猪男共に制止を掛ける。
一応は聞く耳を持っているようだ。立ち止まってくれた。
「ほう? 命乞いだけなら聞いてやろう」
男子生徒達がじりじりと俺に詰め寄ってくる。
それに対して、俺はビッとグラウンドの反対側を指差した。
「いいか、今日の体育はあっち側に女子がいるんだ。そんでもって、今あっちは休憩中だ。それがどういう事かわかるな?」
休憩がてら、女子が男子のサッカーを見学しているのだ。
「もしお前らが一斉に俺に襲い掛かってみろ。お前らは間違いなく……美羽にとっての敵となる!」
「うッ……」
その言葉に、男子生徒達が立ち止まる。
そう、今こちらを見学している女子の中に、もちろん美羽もいる。ここで俺を集中攻撃などしようものなら、彼女も何事かと思うだろう。
ただでさえ、俺達がバカップルと呼ばれ始める切っ掛けを作ったのは、男子のこういった行動なのだ。俺が男子の標的にされていると知った美羽が、彼らに見せつけるかのごとく、人前でいちゃつく様になったのである。謂わばそれが俺達のバカップルの始まり。こいつらは自分の首を絞めているだけなのだ。
「お、おのれぇ……!」
男子生徒達は俺に突っ込んできたくても、女子の視線が気になって突っ込んで来れない。
この隙にボールを適当なところに蹴っ飛ばして逃げ──
「おい皆、騙されたらあかんで! 今の言葉をよく思い出すんや。完全に『俺は天谷美羽の彼氏だぜドヤァ』って遠回しに自慢されただけやし、何ならお前らがここで何してもどうせ美羽ちゃんは颯馬の事好きなままやと思うで~」
「あ、てめッ」
雄太が離れたところから
すると、男子達がプルプルと震え出した。
「ち、ちくしょー! もうどうにでもなれええええ!」
「俺の初恋返せえええええ!」
「どうせ俺は秒殺で振られたんだああああ!」
「うわあああ好きだ天谷さあああん!」
口々に美羽への想いやら色んなものを叫びながら、バカ共が突っ込んでくる。
ちくしょう、バカ雄太のせいで完全に裏目に出た。
とりあえずサッカーボールが邪魔なので、適当にボールを中の方に蹴り上げてから、サッカーコートの外へ出へ回って逃げる。
すると、どいつもこいつもボールを無視して俺の方を追っかけてきやがった。
「何でこっち来るんだよ! ボール追いかけろよ、ボール!」
「うるせええええええ!」
「死ねええええええ!」
その異様な光景を見ながら、雄太や味方チームの連中がゲラゲラ笑っている。女子の方からも笑い声が聞こえてきた(主にスモモの声)。
さすがに先生も見兼ねて笛を鳴らすが、どいつもこいつも止まりやがらない。
その時、俺の前方の方から回り込んできた男子が、俺に掴みかからんと襲い掛かってきた。
その掴み掛かってきた手を見て──俺の体が反射的に動いてしまった。
──あ、まず。
自分でもやばいと思ったが、体が先に反応してしまって止められなかった。
その掴み掛かってきた腕を取って、そのまま弧を描く様にして腕を引き、足首をスパンと足で払ってしまったのだ。その男子はそれこそ腕の軌道と同じく、弧を描く様に投げ飛ばされた。
──やっべ! 反射的にやっちまった!
これは柔道で言うところの
慌ててその男子の腕を引っ張って、何とか地面に叩きつける直前のところで止めた。
「大丈夫か──って、ちょっと待て、お前ら
れ、という言葉を言い終える前に、俺は男達のタックルの波に巻き込まれた。
投げ飛ばしてしまった奴の無事を確認しようと思ったのだが、今度は後ろから走ってきた奴らが急に止まれず、そのまま俺の方に雪崩れ込んでくる。
──これは無理だろ。
迫り来る男達に、ままならない体勢。回避はどう考えても不可能だった。
「颯馬さん!」
美羽の悲鳴にも近い声が、遠くから聞こえた。
バカ共が俺に突っ込んできたのは、それから間もない頃であった──
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