第32話




「あのね、あの部下、見逃してあげて欲しんだ


あの部下はね、確かに君に忠誠を誓っていたよ

それは自分の命を捧げてもいいってくらいにね

でもね、脅されていたんだ


あの部下にはね、妹がいたんだ

小さい頃に、離ればなれになった妹がね

でもね、自分が関わると妹に危険が及ぶかもしれない

そう思ったあの部下は、妹の居場所をわかっていながら、会いに行く事はしなかった

誰よりも大切で、幸せになって欲しかったんだよ、妹には自分のような世界に、足を踏み入れて欲しくなかったんだ



でもそこに目を付けた、クソみたいなやつがいてね、脅されていたんだ

あの部下はね、これが終わったら、自ら命を断つつもりだったんだよ


だからね、後はこちらに任せて欲しんだ、これがお願いだよ」




その言葉を最後に、意識が途切れた





次に意識が戻った時、臣は烏と会った路地裏に居た

ハッと思い、烏の居た場所を見るが、そこには何もなかった

だが肩を触って気付く。その肩は包帯が、綺麗に傷口に巻かれていた


夢じゃなかった

烏の言っていた事は本当だったのか?そんな事を思っていると、ふと足元に落ちている紙切れが目に入り、手に取る




「ッッ!!」



そこに書いてある文字に、目を見張る



「暫くの間、お預かり致します」



そんな文字だった



お預かり...

それは、僕の肩を打った部下、奏多の事だろう

まだ若かったが、信頼を寄せていた部下の一人だった


だが、気付いてやれなかった。どれだけあいつは悩んで、自分を責めたのだろう


肩を触り思う。上手く急所を外されている



『結局僕は、奏多と烏に命を救われたって訳だ』


『必ず....必ず連れ戻す』



そう思いながら立ち上がり、路地裏を進んでいく

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