性犯罪者に制裁を
幸隆の拳が
腰蓑からでもはっきりとした存在感を示すそれはとても固く、とても熱かった。
それをしっかりと腰蓑の上からとは言え、触ってしまった幸隆を我慢していた気持ち悪さがつつかれたような感覚に陥るも、なんとか耐えた。
─────ポキリ。
しかし拳に当たっているアレが折れた瞬間、同じ男である幸隆にもその痛みが伝わり限界を迎えた。
「おrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr」
盛大に胃の内容物をひっくり返した。
酸っぱい臭いが漂うが、今はそれに気を取られている場合ではない。
なぜなら後ろから桃李の視線を感じるのだ。
年上の男がいい歳扱いて盛大に吐いているのだ。
それは可哀そうなものを見る目をしていることだろう。
しかし、なんとか誤魔化したい幸隆は口を拭い、キッと豚鬼を睨んだ。
奴は相手が男だろうがお構いなしの不同意野郎だ。
ここからは決して油断ならない戦いが始まる。
男としての尊厳を賭けて覚悟を決めた幸隆は、拳を震えんばかりに握り、表情を今までにないほどに真剣なものへと変え、そしてケツの穴をキュッと引き締めた。
それは
こちらを恨めしそうな顔でものすごく睨んできた。
豚面の巨人がその形相で睨んできたらさすがの幸隆であってもビビり上がる。
あの形相で突き上げられたらそれはそれは激しいプレイになってしまうだろうから。
そんなものに幸隆の繊細なあそこは耐えられない。
壊れてしまうと想像した幸隆は顔を青くした。
その恐怖を振り払うように、己を鼓舞する言葉を口にする。
「大丈夫、守るから……絶対にっ」
それは確かに効果があったようで、心が少し軽くなる気持ちだった。
それは横にいる桃李にも効果があったのか、キュンっといったような音が聞こえた気がした。
桃李も自分の
それはきっと幸隆と同様にあそこを引き締めた音に違いなかった。
頼もしい限りではあるが、彼にはしばらく休息を願おう。
しかし、戦列に加わらずとも、貞操の危機に陥り、つい先ほどまで恐怖の中にあった彼が幸隆に熱い視線を送っているのだ。
それは同じ覚悟を決めた男の視線。
託された気持ちに応えるように幸隆は彼に顔を向け、不敵に笑った。
───任せろ
「あっ……」
俺の
幸隆に怒り心頭の豚鬼が雄たけびを上げて襲い来る。
奴の目には幸隆しか映っていない。
そのあまりに恐ろしい事実と戦いながら、
互いの拳が激突した。
サイズがあまりに違う拳の衝突はしかし、見た目とは裏腹に拮抗を相していた。
その現実に不同意野郎は目を剥いた。
「お前にはわからねぇだろうな!
ケツに力を籠めることで全身に力が入ることを幸隆はこの時知ったのだ。
それは不同意野郎相手にも負けない力を生み出していた。
「本堂……さん……」
濡れた瞳が幸隆を必死に追う。
女性らしくぺたん座りする桃李の両手は股の間に隠れて見えない。
しかし不思議と手がごそごそと動いているようにも見えた。
「……………………あっ///」
自分の言動のせいでいろいろと取返しのつかないことになっていることを歯をむき出しにしているこのバカは知らない。
幸隆の拳は目の前に不同意野郎相手に負けていない。
体格差も体重差も覆すように幸隆の拳が不同意野郎を後退させていく。
間違いなく幸隆が押している。
攻撃の手数は幸隆が圧倒しており、不同意野郎の腹にいくつもの拳が突き刺さっていく。
しかし、どれも決定打にはならない。
同じだけの攻撃力を有していても、体格差からくる防御力だけは覆しようがなかったのだ。
その分厚い脂肪と見かけ以上の筋肉は確かに鎧のように内臓へのダメージをカットしていた。
対して不同意野郎の拳は一撃でも貰えば、ジ・エンドのクソゲー。
一見優位に見える戦いもそれは薄氷の上の戦いだった。
不同意野郎の拳が頬を掠めた。
それだけで脳が揺らされて態勢が崩れる。
その隙を不同意野郎は見逃さない。
にやりと笑い拳を振り上げた。
「本堂さん!!」
揺れる視界の中、その声のおかげで体に芯が通った。
同志の言葉にケツに力を入れることを思い出した幸隆はキュッとケツに力を込めて脳震盪を治した。
顔を上げると不同意野郎の拳が目の前まで迫っている。
回避するだけの猶予はない。
幸隆は腰を落として両腕で体を守るように構え、下半身に力を込めた。
不同意野郎の拳が幸隆を襲う。
真上から叩き潰すように振り下ろされた拳は、まるで重力が敵に回ったかのように重たい。
「ぐぅ……!」
全身が軋む。
床に罅が入り、その威力を物語っている。
しかし、耐えられない程ではなかった。
不同意野郎の攻撃に耐えられると知った幸隆はその顔をより凶悪なものに変えていく。
そしてその表情のまま顔を上げて、奴を見る。
その鋭い眼光に、大きく歯を覗かせる歪んだ口に、不同意野郎は思わずたじろいだ。
生まれて初めて感じた感情を上手く処理することが出来ずに攻撃の手が緩んでしまう。
その隙をこの男は見逃さない。
重たい拳を腕に乗せたまま腰を落とし、スクワットのように全力で床を足裏で押してやる。
勢いをつけた幸隆は不同意野郎の拳を腕の払いも加えてはじき返した。
態勢を崩したのは今度は不同意野郎の番だった。
大きく体を仰け反らせた奴へと追い打ちを掛けようと脚を踏み出そうとするが、想像以上にダメージが蓄積していたらしく、上手く足を動かすことが出来なかった。
「ちっ」
絶好の機会を逃したことに苛立つも次の不同意野郎の動きに幸隆は罵詈雑言を投げ掛けたくなる。
なにか、怯えたような不同意野郎は幸隆が今満足に動けない事を察すると、ぺたんと座り込んで動けない桃李にその汚い顔を再び向けていた。
不同意野郎はどこまで行っても不同意野郎だった。
「おい!待て!お前の相手は俺だろうが!」
幸隆の声を無視して不同意野郎は桃李へと近づいていく。
「いや……」
不同意野郎のその意図が何を意味するのか。
この状況では間違いなく、人質だった。
幸隆との正面からの戦いを避けた不同意野郎は卑怯にも楯を取ることに決めたのだ。
桃李を目の前に、再度興奮を高め始める不同意野郎。
顔を近づけ臭いを嗅ぐ。
桃李の歪む顔がまた不同意野郎の興奮を掻き立てる。
不同意野郎はいまだ戦いの最中であることを、自分の目的を思い出して興奮をどうにか抑え込みながら怯える桃李へと手を伸ばす。
「……っ」
しかし、時既に遅し。
高い回復能力を有する幸隆は、脚の疲労程度などすぐに消え去り、悠長に状況を忘れて楽しんでいた不同意野郎まで駆けていた。
「ナイスポジショニング」
それは今まで届かなかった頭の位置。
脂肪と筋肉という二重鎧を有しない唯一の弱点。
桃李の臭いを嗅ぐという変態行為のために弱点を晒した不同意野郎は遅れて己の失策に気付く。
全速力で駆ける勢いそのままに、幸隆の人外染みた威力の拳が不同意野郎に頬へと深く突き刺さる。
顔面は大きく歪み、牙は折れ、口から血を吹き出しながらのその巨体が吹き飛んでいった。
「まったく、何度も同じ奴に狙われるとかたまったもんじゃねーよな」
この景色を呆然と眺める桃李に向けて、幸隆は優しく言葉をかけた。
「これじゃ、まるでお姫様だな」
「……え。お姫……さま……?」
場を和ませるための冗談めかした言葉。
しかしこの男は
顔を真っ赤に染める桃李を見て、不同意野郎の盛った媚薬が飛んでもない代物だとしかこの男は思っていない始末だ。
幸隆の顔面パンチが止めとなって、
「立てるか?」
「は、はいっ」
差し伸べられた手を取って立ち上がった桃李は幸隆の顔を真面に見ることが出来ずに俯いていた。
赤い顔を見られないように必死に隠しているのがいじらしい。
幸隆はそんな桃李を見て、当然だと思うだけの感性はあった。
しかしそれを、本番は未遂とはいえ、辱められた姿を同性に見られた気まずさだと勘違いしている。
それも間違いではないが、幸隆は自分が大きな勘違いをしている事には気づいていない。
選択肢を間違えて迂闊なことをポロポロと言っている事にも当然気づいていない。
立ち上がった桃李の足元が僅かに染みを作っている事に幸隆は気づいた。
(そりゃ、怖いわな。自分のケツが狙われたら誰だってちびる。これは言わぬが仏だな)
その染みを勘違いした幸隆は目を細めて優しい表情を浮かべていた。
(見られた見られた見られた……!)
桃李は目茶苦茶恥ずかしくなって、服の裾を掴んで悶絶していた。
「ま、(お互い)大切なもの(お尻の貞操)を守れてよかったよ。
「本堂さん……っそんなに僕のこと……」
こうしてバカは取返しのつかない過ちを繰り返す。
これはもう無理だ。
その言葉に勘違いした桃李は堪えられなくなって上気した顔を上げる。
その表情はもう誰がどう見ても美青年なんて呼べるものではなく、はっきりと女のそれだった。
こうして本人の知らぬ内にフラグを立てる事に成功(?)し、不同意野郎は成敗されこの誤解層での騒乱は幕を引いた。
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