転生したら才能があったらしい ー異世界で少しずつ本気を出していこうと誓ったー

ピコ丸太郎

第1話 死んだらしい

 俺は35歳コンビニフリーター。

 今までの人生を大いに後悔してる小太りブサメンのメガネ男子だ。

 一応、家はあるから住所不定ではない。

 ただの仕事以外では全く外に出ない絶賛引きこもりだ。


 何周もしたアニメにも飽きると、コミュ力不要なネットの世界にダイブして、匿名状態で実行出来てしまう都合の良いネトゲにハマり込んで抜け出せないどん底まっしぐらの『ゲームオタク』。

 

 彼女いない歴イコール年齢の俺。

 こんなブサメンで、引きこもりの俺に彼女なんか出来るわけが無いのは自覚してる。

 だから、散々エロゲーやらエロ漫画やらエロ動画を違法ダウンロードして、得意技の敷布団でコシコシオ◯ニーで現実逃避。の繰り返しだ。 


 何故こうなった――。


 それからイッては体液でパンツを汚して賢者タイムを経て洗濯機に、「行ってらっしゃい我が息子よ」と唱える始末だ。


 現実逃避の為にオ◯ニーだってのに、一瞬にして現実に連れ去られる。

 オ◯ニーでの妄想が、現実になってくれるはずも無く。

 ひとりだとワンルームアパートのこんな狭い部屋でもひたすら孤独感ってのはひしひしと再確認させられる。


 一応、大学にも行った。

 人生が狂ったのは多分ここからだ。

「無駄な学費かけてすいません」

 と謝ってももはや今更だ――。

 勉強が好きって訳でも無いし、嫌いかと聞かれるとそこまで嫌いでもない。

 だからと言って、好き好んで勉強やるかと言われたら否だ。

 そんな奴が目的も目標も持たずに、大学なんかに行ってしまうと、無駄な金喰い虫になってしまう。


 周りの連中は彼女だの彼氏だの、そんな恋バナで盛り上がってる。

 だが、俺は違う。

 こんな見てくれの俺なんかに、そんなリア充会話は似合わない。

 それは俺自信、自覚している。

 そこからだ。

 だらだらと怠惰な生活にハマり込んだのは。


 なんでか?

 そりゃあひたすら楽だったからだ。

 めんどくさい事なんて無い。

 リア充と非リア充との壁を感じて、鬱になるのだって無いんだから。

 ネットの世界ではな。

 顔が見えない匿名で書き込んだり出来るんだから。

 外見なんて関係なかった。だから、俺にはめっちゃ合ってたし、どっぷりとハマった。

 ネットの海を漁ってたどり着いたのは、どこかのweb小説の投稿サイト。

 こんな俺と似たような境遇の奴が、作家目指して投稿してる。それを見て見下す。

 たまに良作に出会えて、ずっとそれに夢中になる。

 書籍化されてる作品だってたまに無料で読める訳だ。

 タダほど怖いのは無い――。


 なるほどなと思うわけだ。

 だって、こうなってしまう。と他人が言った言葉を使って自分都合に解釈して他責する。

 そうやって、ラノベを読み漁って、妄想を繰り返す。

 それでも現実を叩き付けられると、評論家気取りで「この作品つまんねえんだよ! カスっ」とけなす。

 自分は何もやってないくせに。

 勇気を出して、投稿しようなんて思った事は無い。

 そんな勇気最初から無い。

 あるわけない。あればきっとやってる。

 いや、やらないだけなんだ。

 だから嫉妬してるのか、俺に似た境遇の奴が投稿した小説がランキングに上がってると「クソだな」となる。

 自分は何もやってないのに。

 やってる奴を見て、鬱憤うっぷんばらしをするだけ。

 俺はカスだよ!


「…………出来れば戻りたい」


 てか、やり直したい――。

 あの時の俺に戻って、こうなっちまうぞ! と尻にケリでも入れてやりたい。


 もし可能なら、最高の時を過ごした中学生活に戻って、未だ魔法使いまっしぐらの絶賛童貞の我が息子を、これでもかってくらいに大いに活躍させてやるべきだった。


 何故なら、こう見えて中学の時はサッカー部に入ってモテ男だったと自覚もしているし、そう認識している。

 告って来た女には「今はさっ、サッカーに集中したいんだよね」なんてカッコ付けやがった言い方で返して、振って泣かせて。


 そんな俺ってカッコよくね?と思ってた時期もありました。

 

「……あぁ、その時に戻りてえ」


 なんで見栄張らずに、すんなり付き合わなかったんだろうと思う。

 付き合ってたら漏れなく付いてくる、タダま◯だったろうに。

 今頃、俺の童貞卒業は14歳でした――

 と言えた。


「あぁ……ほんと戻りたい」


 コンビニバイトと言っても、俺が働く時間帯は深夜のナイトバイトって奴だ。

 これまた楽ではある。

 ぶっちゃけ言うと、客が来るまで裏の事務所でタイムオーバーになって廃棄処分する予定の弁当やらスイーツ食べ放題だからだ。


 それに返品予定のエロ本タダ読みも出来てしまうから、こんな引きこもりのコミュ力皆無の俺からすると、まるで天国なんだ。


 そんな時だった。

 黒のパーカーにフードを深く被って、マスクにサングラスでコンビニにやって来た。


 これが良くあるコンビニ強盗なんだと思った瞬間、もう遅かった。


 安い駄菓子一個だけを持って、レジに来た客。

 出された現金をレジにしまう為、会計ボタンを押した瞬間だ。


「金出しやがれ!」


 と言われたが、変な正義感が働いてしまって、無駄な抵抗をしてしまった。

 うん。やはりこう言う時は変に抵抗なんてしない方が良いらしい。


「……もっと息子を活躍させたかったなあ……」


 何かが俺の腹に刺さってるようだ。

 包丁だ――。

 ヤバいヤバいヤバい。

 俺死ぬのか?

 このまま童貞のまま死んでしまうのか?


 あぁ、なんだこの生温かくてどろりとしてるのは。


 血だ――。


 これ全部俺の血か?


 本当にヤバくなって来た。

 気が遠くなる。

 感覚も鈍くなる。耳鳴りがして来る。


 その瞬間、何かが俺の後ろで光った気がした。


 これが噂の走馬灯って奴なのか。


 膝から崩れ落ちる。

 呼吸が出来ない。

 何かが邪魔してるようで息が出来ない感じだ。


 もう少し太っていれば、脂肪が邪魔して無事だったろうか。


「…………あっ……これ、もうダメなやつだ――」


 深夜のコンビニバイト中に、コンビニ強盗しに来た奴に腹を包丁で刺されて、俺は出血大量で死んだらしい。

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