第22話 ゲドク・メディシン
過ぎた愛は人を壊す。
この言葉が正しいと分かったのは、俺が奴を愛してからだった。
奴は、俺に一方的の愛を受け入れるよう強要していた。これも愛の形ってやつなんだな、と思い、俺はそれを受け入れてしまった。
過ぎた愛は、自分自身を壊す。
奴は、この言葉を具現化したような人間だった。
一方的な愛を注ぎ続けていく内に、奴は壊れていったのだろうか。まるで、カビに侵され腐っていくパンのように。
いいや。きっと奴は、元から壊れていたのだろう。
人間誰しもが持っている何かを、論理的思考に無理やり当てはめて正当化していた。そんな奴は、果たして人間なのだろうか。
ドクドクと、流れる愛を、俺は受け止めきれずにいた。
ドロドロな愛を、いつしか俺は避けていた。
それが失敗だったのだろう。
奴は、抑え込んでいた何かを暴発させてしまった。
最早俺では止めることが出来ず、ただ真っ黒の瞳に映る自分を見つめることしかできなかった。
何て情けない顔をしているのだろうか。
絶望とは真反対の表情で、よくもまあ奴のことを悪く言えたものだ。
身体からドクドクと流れていく水分を、俺は止めることが出来なかった。
唐紅に染まった鋼に映る俺は、自分でも見たことの無いような顔をしていた。死への畏怖と、死への興味を同時に感じているような顔だ。
過ぎた愛は、周りをも壊す。
俺はいつから壊れていたのだろうか。元から?いいや、奴に出会ってからだろう。
お前が俺に毒を呑ませたから、俺は壊れたんだぞ。
俺は、最期に精一杯の毒を奴に吐いてやった。
これでもう、悔いは無いはずだ。
何と言おうと、これで最期だ。
あぁ、でも、奴にはちゃんと伝わったかな。
奴の毒を、少しは減らせたかな。
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