第20話 死に損なう

ただ、この世界から離れたかった。


世界を嫌いになんかなっていないし、自分自身に失望もしていない。

特段、大きな理由も無かった。


生きるのに困る事なんて無いし、私は1人の命じゃない。


でも、どうしてもこの世界から離れたかった。


そう思い出してから3日後。

死神が現れ始めた。


死神は、私が想像していた通りの見た目をしていた。


買い物中、散歩中、果ては入浴中にまで。死神は、いつどんな時であろうと、必ず私の前に現れた。


死神が現れてから1年後。

私は遂に自殺を決意した。


1番手っ取り早い絞首を選んだ。


死神は、そっと微笑んで、私の様子を静かに見つめていた。


私の真下にある椅子を蹴り飛ばす寸前、死神が酷く人間味を孕んだ目付きで私を見た。


結局、私は死ねなかった。


死に損なった。


失敗した後の私は至極冷静で、夫や子供がこの惨状を見る前にと、ものの五分で道具を片付けた。


自殺は失敗した。でも、後悔はしていない。


私には勇気が足りなかった。と、自分に言い聞かせれば、私は満足するのだ。


私は自殺を決行したことを後悔していない。



少なくとも、生きることに執着し、その身を腐り殺しているような死神よりはマシさ。


そうでしょう?

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