第28話 熱波



〜ホザートへ出立の日〜

「今日は雪の日になっちゃったわねぇ。寒くないようにしなさいね。」

アンナさんは窓を眺めながら支度をしている。

「初雪にしては遅かったな。」

ものすごくやる気のある口調。振り返るとロッツさんはなぜか半袖、半パンだった。寒くないのだろうか。

「今年もそんな季節かぁ。ソラ、外はもっと寒いから、暖かくしないと凍えちゃうよ。」

マーサもどことなく嬉しそうだ。

「ロッツさんは寒くないんですか?それになんで、こんな日なのに暖炉をつけないんですか?」

アンナさんとマーサが目と目を合わせて、クスッと笑う。

「初雪といえば、このスタイルなんでぇ!先祖代々決まってるってことよ!寒さに負けてちゃ、男がすたるぜ、ソラ!」

そう言いながらもロッツさんもガタガタと歯を震わせている。二人は僕たちのやりとりを見て、笑いながら首を横に振っている。

「ロッツの言う通りぃ。ソラもまだまだだねぇ。」

とか言いながら、ピートも水ではなく氷になっている。寒さ対策、完璧じゃないか。

「さぁ、行きましょうか。みんな忘れ物ないようにね。」



 ◇ ◇ ◇



雪風が吹き荒ぶ中、まだ陽も昇らない村に別れを告げて、ホザートへ出発した。少し遠回りにはなるが、砂漠よりも安全な南のポップルツリー沿いを歩いていくルートで行くらしい。

途中、スナトカゲや地アリなど砂漠の魔物に何度か襲われたが、マーサの家族は慣れっこらしく、難なく退けていく。

今までとは違い、海岸沿いまで行かずに、手前にある標高が高めの丘陵地帯を東へと進む。丘陵地帯を降りた道には魔物もいないし、楽に歩けそうなのに一向に降りる気配はない。

とにかくここの道は魔物が多く、どっと疲れた。地中からの奇襲はもちろん、擬態タイプ、透明の魔物など、罠にかけたり、突然襲ってきたりするような魔物ばかりで全く気が抜けなかった。

索敵とヘイトは僕とピートが担当して、ロッツさんとマーサさんがアタッカー、マーサはサポートにまわっていた。

ロッツさんはかなりの量の砂や石を効果的に使って、攻撃していたし、アンナさんは湿度を上手に操ることで、砂漠の生き物たちを圧倒していた。マーサは身のこなしと元素のコントロールが抜群だった。


心地よい疲労感に包まれた頃、魔物が少ない場所にさしかかったらしく、小休憩をとった。

「ソラくん、ここから島の海岸が見えるでしょ?」

海岸を見下ろして、アンナさんが言った。

南のポップルツリーはあまり背は高くないが、横に広がるように葉が密集しており、天然の生垣そのものだった。

「はい。霧もないし、魔物もいないですね。」

「ふふふ、一見そう思うでしょう?そうやって観光客がよく亡くなるのよ。」

ロッツさんも隣から海岸沿いを指差して話す。

「今通ってるここはな、デザートロードっていって商人たちの通り道なんだ。地元の民があそこの道らしきところを通ることは、まずない。」

「なんでなんですか?」

「熱波が激しくてな、まぁ、あと1時間もすれば見られるだろうよ。」


しばらく進むと、雲間から陽がさらさらと射してきて、気温もじりじりと上がりだした。

「おっ、あれは境雲だな。ソラ、この時間帯からは熱波が激しくなってきやがるぞ。」

空を見上げた後、水平線を眺めながらロッツさんが教えてくれた。

ロッツさんの言う通り、夕焼けを思わせる煙が遠い海から島へと迫ってきている。蒼い海に紅橙の三日月型が浮かぶ景色はとても幻想的だった。



 ◇ ◇ ◇



東へ向かいながらも、時折、熱波を観察していると、とうとう熱波が島の近くまでやってきていた。

「ねぇ、マーサ。熱波って結構ゆっくりなんだね。」

「そうだね。毒風ほど速くないよね。あっ、ソラ。あそこ。もう少しで熱波が登ってくるよ。」

登る?

少し眺めて、その言葉の意味をよく理解した。

熱波は島の形に沿って、ねっとりと低空を侵食してくる。それも何回にも分けて、後ろから後ろから流れてきている。

「あと、何往復か、だな。」

ロッツさんは珍しく神妙な面持ちで海を見た。

熱波はポップルツリーにぶつかると、海の方へ戻っていく。

「熱波はね、ある一定の高さを保とうとする性質があるの。でもね…。ちょっと見ていて。」

熱波はゆったりと沖合へと流れていき、やがて、後ろから流れてきた熱波とぶつかった。すると、三日月はひと回り大きくなり、速度を上げて、こちらへ向かってくる。

「えっ…。合体した?」

「そう、後ろから来る熱波は前の熱波を吸収して、より大きく、より速く、なるの。」

「じゃあ、いつか島が飲み込まれたりしないんですか?」

「今のところは心配いらないわ。熱波は一度に来る数がある程度決まっているから。それに一定の高さになると、それ以上、縦には高くならずに、横に広がっていくのよ。」

「えっ?じゃあ…。」

「最後は連なった巨大熱波がやってくるんだろうねぇ。」

ピートは海に向かって、三日月型の火をいくつも吹いている。高さによるけど、もしかして…。

「熱波って、ここまで来ないんですか?」

3人の声がきれいにそろう。

「来るよ。」

「えっ!来るの!?」

僕の驚いた様子を見て、3人はからからと笑っている。

「安心しな。ポップルツリーを越えてきても、海側の砂をねずみ返しみたいにしてやるからよ。」

海の方から、むわぁとした香りとピリつく痛みが漂ってくる。僕は教わった通りに、少しだけ火の元素をまとった。




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