ティトの魔法学園の一日 12



 オベロンとポチがいなくなって少しも経たないうちに、ファビオとオルランドが帰宅した。



「ったく、あのクソ魔王のせいで、こんなに帰るのが遅くなったぜ!!」


 忌々し気に舌打ちすると、ファビオは着ていたきらびやかな上着をソファに投げかけた。



「結局あの騒ぎはなんだったんだろうね? 私たちを足止めするためとしか思えなかったが……」


 オルランドも着ていた黒いローブを脱ぐ。


 

 確かに、いつもに比べて、少しばかり二人の帰宅時間が遅い。


 ――でもそのおかげで、ゆっくりポチを遊べたんだけど……。





「王宮でなにかあったの?」


 俺が聞くと、二人は大きなため息をついた。



「結局なにもなかったんだよ、ティト」


 オルランドは俺に近づくと、さらりと俺の頬を撫でた。


「なにも……?」


「魔界で不穏な動きがあるとかいう密告だか、密書だかがあったみたいで、俺たちみんな集められて……、

でも結局なんにも起こりもしないし、っつーか、魔王自体がどっかに行ってただけだったんだろ?」


 ファビオは俺を後ろから抱きしめると、げんなりしたように言った。



「まったく、人騒がせな魔王だよ。どうやら人間界に秘密の恋人がいるらしくて、ちょくちょく魔界から離れているらしいね」


 オルランドは俺をファビオから引き離すと、俺をひょいと横抱きにした。



「ったく、人間にうつつを抜かす前に、ちゃんと魔界を治めてろっつーの。……って、おいっ、オルランド!!」


「だめだよ、ファビオ! ティトを可愛がるのは後! 先に夕食にしよう」



 オルランドは俺をそのままダイニングに連れて行くと、いつもの席に俺を座らせてくれた。


「ありがとう。でもごめん! 今日こそは二人に夕食を作って待ってようって思ってたのに、

いろいろあって、遅くなってできなかったんだ……」


 俺の言葉に、二人は破顔した。


「夕食の心配なんて、ティトはしなくていいんだからな!」


「そうだよ、ティト。その気持ちだけで私たちは十分だよ」


「……!!」



 ――こんな優しい二人と結婚できて、きっと俺は世界一の幸せものなんだろうなあ……!!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 結局、オルランドがきのこたっぷりのホワイトシチューを作ってくれて、三人で夕食になった。



「で、家に帰ってからなにをしてて遅くなったのかな、ティト?」


 オルランドが小首をかしげる。



「いろいろあったって、俺たちがいない間に、何があったんだ?」


 吸い込まれそうなファビオの青い瞳がじっと俺を見る。



「……っぐ!」


 さっそくの二人からの追求に、俺は喉をつまらせそうになった。



「あの、それは……、つまり、お客さんが……」


「「客っ!!??」」


 二人してガタンッと椅子を鳴らして立ち上がるものだから、俺は大いにあせった。



「いや、客、というか、つまり、オベロンが、家に来て……」


「ああ、オベロンか……。驚かすなよ。にしてもあいつ、相変わらず暇だな!」


「ティト、オベロンに何か言われたりされたりしなかっただろうね!?」



「うん、大丈夫。オベロンはいつも通りだったよ。紅茶を一緒に飲んで、おしゃべりしてただけ。

それより、あのね……、あのね……、俺っ!」



 今度は俺が、勢いよく椅子から立ち上がった。


 ファビオとオルランドが、驚いた様子で俺を見た。




 ――そうだ! やっぱり、こんなこと、ずっと続けてちゃいけない!


 ポチのこと、二人にずっと黙っておくことなんて、できない!



 ポチはあんなに可愛くていい子なんだし、それに二人は剣聖と大魔導士という規格外の人物だし、だから……!!


 もしかして……、もしかしたら魔獣をペットにすることくらい、ファビオとオルランドにしたら大したことではないのかもしれない!!


 ――だから……、




「あのねっ、俺っ、二人に大事な話があるんだ!!!!」




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