ティトの魔法学園の一日 4


 グラート君は、亜麻色の髪と若緑色の瞳が印象的な美少年。

 スラリと伸びた手足と、幼いながらもくっきりと整った顔の造作から、将来かなりの長身イケメンになることが予測される。


 グラート君は、オルシーニ家という有力貴族の息子で、頭脳優秀、魔法も剣術も得意という、非の打ち所のない優等生。クラスの男子からは一目も二目も置かれ、ほとんどの女子からは密かに憧れられている。


 そしてクラス委員長を勤めているグラート君は、18歳にして初等部に入学した平民出の俺のことを何かと気にかけてくれているのか、いつも俺にいろいろと話しかけてくれるのだった。



「ははっ、今日も朝の準備にいろいろと時間がかかっちゃって……」


 俺は言葉を濁す。



 さすがに今朝起きたあれやこれやを、10歳のいたいけな少年に説明できるような度胸は、俺にはない。



「辺鄙な場所に住んでるからだ! 俺の家なんか、王都の3番街にあるから、学園まであっという間だぜ!」


 さりげなく10歳の少年にマウントを取られる俺。


 そう、王都は王宮に近い場所から、1番街、2番街……と街並みが続いている。もちろん、番号が早いほど、貴族としての地位は上だ。



 ――ちなみに、オルランドの実家・グリマルディ家は押しも押されもせぬ1番街に豪邸を構えているのだが、そんなことをグラート君に言って彼のプライドをへし折るようなことは、もちろんしない。



「そうなんだ。すごいね!」


「まーな。それよりティト、これがなんだか分かるか?」


 コトリ、と音を立てて、グラート君が俺の机の上に小さな石を置いた。



「?? キレイな石だね!」


 それは、透き通るような緑色をした石だった。


「これ、魔石だぜ。昨日、俺が作ったんだ! 触ってみろよ」


「魔石? すごい!」


 俺が指で触れると、その石は少しだけ色が濃くなり、光を帯びた。



「……!!!!」


「わぁー、綺麗だね。グラート君、こんなの作れるなんて、すごいね!」


 まさに魔力そのものの塊である魔石。

 もちろん、誰にでも作れるわけではなく、一定以上の魔力を保持していないと難しい。



「……べっつに! こんなの、あっという間に作れるさ。ぜんっぜん、大したこと、ねーし!」



 俺に褒められ、赤くなるグラート君。……かわいい!



「でもこれよりもっと小さい魔石が、王都の店ですごく高い値段で売ってたの、見たよ!」


 魔石の使用用途は様々で、魔力の少ないものの魔法強化や、魔道具強化、大型機械の燃料にも用いられたりする。



「……やる」


「へ?」


「だーかーらっ、こんなん、俺なら簡単に作れるから、お前にやるって言ってんの!」


 グラート君は、俺に無理やりその魔石を握らせた。



「でも……っ」


「あのさっ、それと……、今度うちで茶会やるから、お前も来いよ。

王都の3番街がどんなところか、見せてやる!」


 グラート君の真剣な表情。



「え、あ、あの……」


 ――もしかして、グラート君、年の離れた俺のこと、友達だと思ってくれてる!!??



 感激した俺は、グラート君の手をぎゅっと握り返した。




「ありがとう! 俺、嬉しいっ!」


「!!!!!!」


 なぜか凍りついたかのように固まってしまったグラート君。



 その時……、

 

「ちょっと、グラートさん! ティトさんにちょっかいを出すのはやめてくださる?」


 鈴を転がしたような可愛らしい声がした。




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