第2話 新しい仲間

 底辺冒険者の俺は、今日も今日とてスライム狩りの日々を送っている。


 スライムはダンジョン内で最弱のモンスターだ。

 攻撃力もなければ防御力もない。

 ただぴょんぴょん跳ねてるだけのゼリー状のモンスター。


 剣を振る。何度も何度も。


 俺は力もないからスライムであろうと1体を倒すのにも時間がかかる。

 その上レベルも低いからあまりモンスターが出ない一階層の草原で狩りをする様にしていた。


 ダンジョンは奥に進めば進むほどモンスターが強くなっていく。

 強いモンスターを倒した方が当然レベルの上がりは早いし、奥に行けば行くほど手に入る物の価値も高くなる。

 故に誰もがダンジョンの最深部を目指しているのだが、世界中のダンジョンの一つとして攻略されたという情報はない。


(ま、俺は最深部どころか浅い階でしか戦えないんですけどね。)


 なんて事を考えながらスライムを叩いている内に、パリンと体が砕け散った。


 これで10体目。

 今日のクエストもクリアだ。


(クエストも終わったしギルドに戻ろう。今日は時間もあるし、久しぶりに二階層にでも行ってレベルアップ目指すかな。)


 腕時計を見ると時刻は午前11時。

 7時から潜っていたお陰で時間も有り余ってる。


 俺は人よりも3倍は努力しないといけない。

 そういうスキルを背負っているから。

 こんなスキルが無かったら今頃ランクアップしてそれなりの生活を送れただろうに…


 冒険者はレベルが10に達した時、ランクアップという現象が起きて、新しいスキルを得る事が出来る。

 冒険者の強さとは殆どがスキルで決まるといっても過言ではない。

 たった一つ増えるだけでその人物の戦闘力は何十倍にも膨れ上がると言われている程だ。


 俺はランク1の冒険者。

 後少しでレベル10になるがスキルでレベル8に落とされるので、結果的には後7レベル上げないと本当のレベル10には到達しない。

 ランクアップを目前にしてこのお預けは正直少し堪える。


 (はぁ、ランクアップへの道は遠いなぁ。)


 スキルの事を考えれば考えるほど憂鬱な気分になってしまう。

 

(駄目だ駄目だ。こんな事で諦めたら。せっかく続けてるんだしもう少し頑張らないと。)


 自分を励ましながら歩いているといつに間にかギルドに辿り着いていた。

 いつも通り扉を開けてクエストの報告をしようとしたが、扉の向こうには衝撃の光景が広がっていて、俺は持っていたスライムの粘膜を床に落としてしまった。


 (な……なん……だと……)


 目の前いるあの男は誰だ?

 いつも怠けてる斗真が仕事をしてる。

 一丁前に髭も剃ってるし身嗜みがなんだか小綺麗だ。

 しかしそんな事よりも更に驚くべき事があった。


 それは人がいる事だ。

 俺と斗真以外の人間がこのギルドに。


 背は小さく、150cmくらいだろうか。

 腰辺りで揃えられた綺麗な黒髪だ。

 華奢な体でとても冒険者には見えないが、一体こんなボロギルドに何をしに来たのだろう?


 気になった俺が声をかけようとしたが、先に俺に気付いた斗真は嬉しそうに手を振りながら衝撃の一言を放った。


「おい、進。この子、今日からうちに入った新人な。仲良くしろよ。」


 斗真の声で女の子が俺の方へ振り返る。

 その瞬間、俺は初めて彼女の顔を見たのだがやはり信じられなかった。


 大きく、吸い込まれそうなつぶらな瞳。

 薄いピンク色の唇は今時の子にしては珍しく純朴で可憐に見えた。


(こんな清楚系女の子が冒険者だと?)


 ぱっと見だが彼女の年齢は18〜20。

 身長が小さいせいか、見つめられると犬とか猫みたいな小動物を護ってあげたくなる感情が込み上げて来る。


(このまま彼女を見続けてはマズい!)


 本能的にそう察した俺は、斗真に掴み掛かると小声で問い詰めた。


『おい!あの子どうしたんだよ!あんな子が冒険者な訳ないだろ。お前まさか…騙して連れて来たりしてねえだろうな…』


『人聞きの悪りいこと言うなよな。別のギルドから追い出されたところに偶然出くわしたんだよ。うちは人もいねえし丁度いいと思ってな。』


 冒険者というのは血生臭い職業だ。

 モンスターなんて化け物と戦う以上、普通に危険だし死人も出る。

 見た目で決めつけるのはよくないが、彼女はどう見ても向いていない。


『なにやら母親が入院してて金がいるんだと。追っ払うのも可哀想だろ?ま、お前も2年やってんだし上手くサポートしてやれよ。』


『そんなこと言われたって……』


 俺には無理だと言おうとしたが、女の子の声が聞こえた事でその一言が言えなかった。


「あの!ちょっといい?私、金川美玖かながわみくって言うんだけど、あんたは?」


 その容姿から想像した感じとはまるで違う、強く棘のある雰囲気。

 あれ?こいつさっきの小動物みたいな女の子か?

 なんて思ってると、彼女は更に一歩踏み込み、俺の目を睨みつけて来た。


「ねえ、名前を聞いてるんですけど?いい歳して自分の名前も言えない訳?」


 この一言を聞いた途端、俺の中で何かが崩れた。


(あー、こいつ可愛げねえ〜)

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