ダンジョンに呑まれる

@YodomiADI

第1話

8313221193755552328323632302


もう何が何だか分かってはいなかった。


地面がひび割れ、足を滑らせ、宙ぶらりん。リュックが引っかかり助かったと思えば、じわじわとその広がりは止むことなく、闇の中に滑落する。時間が絶望を与えてきた。


ただ声だけが、自分の不幸さに悲しむ暇もなく、起きる理不尽さに怒る隙間もなく、ただ声だけが耳に聞こえてくる。自分が出している声だとも思えずに。


もう全てがダメだった、光が、空の青さが遠のいて、声を絞り出す。あぁ俺は、呑まれた。


それが意識を失う前の話。


そしてこれからが意識を取り戻した後の話 。


手が地面を撫でていた。気がつくと壁に背をつけて倒れていたようだ。周りは洞窟、だけど暗がりはなくくっきりと見える。


目の前には不似合いな大きな宝箱。


他に目につくものは何も無く、落ちてきたと思う天井は固く閉ざされている。


宝箱を開けるのは怖かった。


そのまま膝を抱えてしゃがみこんで数時間経ったと思う。ただ、気持ちが落ち着いてきたことは確かで、なにかしなくちゃって思ったのは本当のことで。


宝箱を開けた。


剣が入っていた。


自害用だろうか。


渇いた唾を飲み込む。


ずっしりと、手に持つとその重さが手に馴染んだようだった。これが自分のいのちと同価値の重さなのだろうか。


すると、ガラガラと壁が崩れて、向こう側に道ができる。


進むべきか進まないべきか。


減らないお腹に疑問を抱かないまま、洞窟の中を歩き始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョンに呑まれる @YodomiADI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る