第39話

「懐かしくない? 一年の時も似たようなことあったよね」


「……そうだっけ」



当時俺に声をかけてくる人間なんてそれほどいなかった上に俺が生徒会に入ろうと思った切欠の人物なんだから忘れるはずはないけど、皐月の中ではきっと日常の一部として忘れ去られたものだと思っていただけに妙な嬉しさを感じてしまう。こういう時、あまり表情に出ないのは便利だなと思う。



「…空が泣いてるね?」



俺の素っ気ない態度から少しの間を空けて隣から届いた言葉に思わず首を傾げる。


だって皐月は


――今日は雨が笑ってるねー



「何急に。雨が笑ってる、の間違いだろ」



『空が泣いてる』は俺の台詞だろう、と思いながら笑えば横から視線を感じて思わず目の前の雨から隣へと視線を移す。



「……ふふっ、案外嘘吐けないところあるよね」



その言葉と楽しそうに笑う皐月の表情を見てやっと墓穴を掘ったことに気付いた。


覚えてない振りをした癖して、当時を覚えていないと出来ない返しをしてしまうなんて。



「……何だよ」


「ううん、何でもないよ」



そうは言っても皐月は相変わらず楽しそうに笑って「そうだね、空が泣いてるって台詞は隼人のだもんね」なんて揶揄ってくるから、俺は居た堪れない気持ちを少しでも発散しようと小さく溜息を吐く。



「…んなこと言ってると傘持たせるぞ」


「大丈夫、隼人はそんなことしない」



隣で柔らかく笑う皐月にもう一度わざとらしく溜息を吐いて、そのまま駅までの道のりをどこか懐かしい気分で歩いた。

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