第26話

「きゃっ」



それは俺が移動教室ついでに図書館へ本の返却に行こうとしていた時だった。


か細い声と共にノートやらがバサバサッと落ちる音がして後ろを振り返ると、庶務の川内桃先輩が何もないところでこけた挙句に持っていたものを全てぶちまけてしまったらしい。



「大丈夫っすかー?」



流石に無視するわけにもいかず、近寄って落ちたものを拾い集める。



「すすすすみませんっ、ありがとうございますっ……」



俺同様、落ちたものを拾い集める川内先輩。


顔はよく見えないけど、この学校で唯一の三つ編みをしている人だから個人的には分かり易い。


っていうか最近では三つ編み自体をあまり見ないから、街中でもすぐ分かるかもしれない。



「あ、眼鏡も落ちてま――」


「俺の彼女、あんま見んといてくれる?」



俺の知ってる川内先輩は、黒髪で二つ結びの三つ編みで、眼鏡をしていて、決して美人とは呼べないけれどのほほんとした雰囲気を持っている人で。



え、今一瞬見えた眼鏡をかけてない美人さんは一体…?



なんか見知らぬジャージ姿の男子生徒に川内先輩の顔を手で覆われてしまったからよく見えなかったけど、一瞬見えた川内先輩は確かに……



「面倒なことになってもあれやから、今のバラしたらあかんで?」



ええな? と笑っているのに笑っていない表情を向けられて、チキンな俺、無言で頷く。

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