第47話 元旦の初詣


 早瀬先輩とクリパしてから二日後の金曜日、フードコートで俺と真行寺さんそれに榊原と大隅でお昼を食べていた。榊原さんが

「長田君、お正月はどうするの?」

「家でごろごろ」

「だったら私と一緒に初詣行かない?」

「いやあ、そういう事するなら寝てる」

 嘘だけど。


「えーっ、行こうよ」

「行きません。榊原さんは忙しんじゃないの?」

「そんなことないよ。だからさー」

「榊原さん、諦めたら?」

「真行寺さんに言われる筋合いはないわ」

「あら、どうして?どう見ても無理っぽいから言ってあげただけよ」

 長田君と初詣行くのは私よ。


「まあ、長田がここ迄固辞しているんだ。諦めた方がいいよ」

「大隅君、一緒に行く?」

「いや、俺は家の都合で」

「皆冷たいなー。仕方ないか」


 そんな事を話して午後の授業を受けて今年も終りとなった。明日から来年五日まで冬季休業期間という年末年始の休みだ。


 俺は授業が終わった後、駅まで大隅と榊原さんと一緒に行って別れた。ちょっと待って居ると

「長田君、お待たせ」

「帰りますか」

「うん」


 そう、真行寺さんとは何故か一緒に帰る約束をしてしまった。彼女から話が有ると言われたからだ。


 二人でホームに立って電車を待っている間、

「長田君、今日のお昼の話だけど、家でゴロゴロしていないよね?」

「いえ、ほとんどゴロゴロです」

 多分、美優は帰って来ているはず。でも塾は正月特訓とか有るし。


「そうなの。だったら私と一緒に初詣行こう。近いんだからさ」

「うーん、お布団の中が恋しい」

「そんな事言わずに。ねっ!」

 手を顔の前で合わせて頼み込んでいる。弱いんだよな、こういうの。


「いつ行きます?」

「えっ、一緒に行ってくれるの?」

「だって、一緒に行きたいって言ったじゃないですか。冗談だったら止めますけど」

「そんな事無い。そんな事無い。やっぱり元旦が良いよね」

「そうですね」

 美優帰って来てるかな?どっちにしろ一日だけじゃないだろう。



 結局、約束をして別れた。彼女の家の最寄り駅は俺の帰宅通過点だ。近いと言えば近い。


 次の日からは家の大掃除。自分の部屋をやった後、お風呂とかリビングとか手伝わされた。子供一人だとこうなるよな。


 体も結構疲れて夕食を両親と一緒に食べた後、部屋で休んでいるとスマホが震えた。美優からだ。直ぐに出ると


『博之、私』

『美優か』

『年末と元旦は塾のバイトだけど、二日から四日まで帰れる。会えるかな?』

『勿論だ。楽しみにしている』

『嬉しい。ねえ、お願いがある』

『なに?』

『一緒に初詣行ってくれない?』

『…いいぞ。一緒に母原神社に行くか?』

『うん、じゃあ二日に』

『分かった』


 美優と高校時代、あんな別れ方をしてからいつの間にかこんな関係まで戻ってしまった。俺と美優は別れたんだろうか?


 確かに美優は俺を裏切った。でもその後も俺は彼女を支え続けた。俺は美優を許しているんだろうか。自分の心の中が見えない。


 そして翌日、家の掃除も俺の役目は終わった。部屋でのんびりしているとスマホが震えた。画面を見ると真行寺さんだ。直ぐに出ると


『長田君、元旦の初詣の事なんだけど』

『はい』

『迎えに来てくれないかな』

『えっ、初詣に行くのは母原神社ですから来て貰った方が良いのですけど』

『お願い。ちょっと事情が有って』

『分かりました。午前十時位で良いですか』

『うん、全然いい』


 スマホが切れた。一人でいけなくはないけど私の着物姿を家の前で見て欲しい。それと電車に一人で乗るのは厳しいし。


去年までは家族で行ったけど、今年は彼と行く。だから迎えをお願いしたら良いと言ってくれた。少しずつだけど私の方を向いてくれているのかな。



 大晦日は、父さんのお酒に少しだけ付き合った。博之が飲めるようになったと言って喜んでいたけど、俺はビール二杯と日本酒をおちょこで一杯飲んだだけだ。日本酒はまだきつい。



 翌朝、午前七時半に起きて両親と一緒に母さんが作ってくれたおせちを食べた。お雑煮を食べると新年を迎えたんだという気持ちになる。食べ終わると


「俺、午前九時半に出かけるから」

「なんで?」

「友達と初詣行くんだ」

「そう、所で友達は女性?」

「うん、でも友達」


 真行寺さんからは告白されているけど、俺の心は彼女に向いていない。綺麗で申し分ないけど好きになる事とは別だ。


 午前十時五分前に彼女の家に着くとインターフォンを鳴らした。ドアが開き、綺麗な女性が現れた。


「長田と言います。午前十時に真行寺さんと会う約束しています」

「友恵と?ちょっと待っていてね」

 多分に疑られた感じだ。一度ドアが閉まったと少ししてまたドアが開いた。


「長田君」

 ドアが開いて出て来たのは、白を基調とした着物を着た女性だった。長い髪の毛をアップして金の簪で止めている。はっきり言って美しい。ちょっと驚いていると


「どうしたの。驚いた顔をしているけど」

「…あまりに綺麗なので驚いている」

 彼があまりに綺麗だと言ってくれている。嬉しい。


「ふふっ、長田君にそう言われるととっても嬉しいわ」

「友恵、誰?」

 先程の女性が声を掛けて来た。


「お母さん、同じ大学の長田君。話して有ったでしょ」

「えっ、この子が長田君。先程はごめんなさいね。今から初詣行くのよね」

「うん」

「初詣終わって帰ってきたら一緒に上がって貰って」

「うん、長田君良いよね」

 この流れでは断れない。


「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、行こうか。お母さん行って来るね」

「気を付けて。長田君娘を宜しくね」

 どういう意味で言われたんだ?


 着物を着ている事もあり、駅までゆっくりと歩いた。すれ違う人が彼女を見ている。

 電車に乗るとほぼ周りの人全員から彼女は注目された。確かに誰か一緒に居ないと駄目だよな。


 母原神社はこの辺ではとても有名で多くの参拝客が居た。参道に入れない位並んでいる。

「これは待つなぁ」

「私はいいわ。君と一緒に居れるから」

 なんて返せばいいんだ?


 参拝が終わった人達が明らかに彼女を見ている。流石ミスコン一位という所か。やっと境内迄着いて手を清めた後、少しして本堂の前に来た。


 お賽銭を入れて二拍二礼してお願い事をした後一礼して横にずれた。お願い事は勿論学業の事。真行寺さんが

「おみくじしよ」

「うん、いいよ」


 お金を箱に入れた後、八角の箱を振って番号の書いてある棒を取出してその番号の棚からおみくじを取る。


 早速開いて見ると中吉だ。願望は都合の良い神頼みでは叶えられないと書いてある。確かに言えているな。


「あっ、大吉だ。願望何事も叶うって書いてある。やったぁ。長田君は?」

「俺は中吉。自分の都合よく行かないって所」

「でも中吉ならいいじゃない」

 何となく大吉を引いた人の上目目線に聞こえる。この後は参道に並ぶお店を見たりして彼女の家に戻った。


 玄関を上がらせてもらうと彼女のお父さんらしき人が出て来て

「リビングに来なさい」

「お父さん、そんな怖い言い方ないでしょ」

「そうか、私は丁寧に言ったつもりだったが」

「ごめんね、長田君。私、着物着替えて来るから。これだと何も食べられない」


 彼女はそう言うとお母さんと一緒に奥の方に歩いて行った。俺は彼女のお父さんに連れられてリビングに入ると結構な調度品が並んでいる。天井はシャンデリアだ。うちとは違うな。俺はお父さんの反対側に座ると


「明けましておめでとう。長田君」

「明けましておめでとうございます」

「しかし、友恵が男性を連れて来るとはな。驚いたよ」

「……………」


「あの子は見ての通り綺麗な子に育ってくれた。それが災いしたのか男の友達が全然出来なくてな。

 だから友恵が好きになった人が居るなんて言われた時は本当に驚いたよ。君は友恵の事どう思っているんだね?」

 彼女、親に俺の事が好きだなんて言っているの?


「はい、俺に取って真行寺さんは友達です。告白もされましたが、まだ俺の気持ちはそこまで行っていません」

「凄い子だな。娘の父親の前でそんな事言うとは。あれだけ綺麗なんだぞ。性格だっていい。何処が行けないんだ?」


「いけない訳では有りません。確かにとても綺麗です。性格も素敵です。でもそれが恋愛対象になるかは別の事です」

「ふむっ、君は見た目では心は動かないと言う事か?」

「上手く言えないけどそういう事です」


 そんな話をしていると彼女が入って来た。

「二人で何話していたの?」

「友恵、いい男を見つけたな。だが、簡単には落ちない様だ。努力しなさい。では私はこれで失礼する。ゆっくりして行ってくれ」


 そう言うと彼女のお父さんはリビングを出て行った。俺試されていたの?

 それから彼女のお母さんが入って来て、おせちをご馳走になった。母さんとはまた違う味だ。一時間程彼女のお母さんとも話した後、


「長田君、私の部屋に行こう」

「えっ、いいの?」

「うん」


 リビングを出て、奥の方に歩いて行くと階段が有ってそれを昇ると部屋のドアが三つ有った。最初のドアを開けると女の子の匂いが漂って来た。

「さっ、入って」


 広い。全体に白を基調としている。俺の部屋の倍あるんじゃないか。机にベッド、洋服ダンスが三つ、それに本棚が二つ、それでも床にテーブルを置いている。


「ごめんね。お父さんは変な事言っていたでしょ」

「変な事は言っていなかったけど、色々聞かれた。真行寺さん、両親に俺の事好きだって話しているの?」

「うん、いけなかった?」

「いけなくはないけど、ちょっと驚いた」

「長田君の心はまだ私に向いていないんでしょ」

「ごめん。まだそこまでは」

「いいよまだ。でも必ず私に向かせるから」

 そう言って、右手をピストルの格好にして俺の胸に向けて撃つ振りをした。


「ふふっ、長田君さえ良ければいつでもいいよ。君なら安心出来る」

「そういう話は今度にしよう」

「えっ、今度してくれるの?」

「そういう話じゃないでしょ」


 誘っている様で構えているのが良く分かる。俺を揶揄っているのか?


 それから一時間程話して彼女の家を出た。駅まで送ってくれると言ったけど、寒いし道が分かるから良いと断った。


 彼が帰って行った。玄関で駅の方に歩いて行くのを見た後、家に入ると

「友恵、いい男じゃないか」

「うん、学校でもモテる。ライバルが多いって感じ」

「なるほどな。分かる気がするよ。頑張りなさい」

「うん、絶対に彼の彼女になる」

 だって大吉で願望何事も叶うって有ったから。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。初めちょっと固いですけど読んで頂ければ幸いです。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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