第44話 クリスマスが近づいた
クリスマスイブとクリスマスは火曜、水曜と授業の有る日だ。研究グループの課題纏めも近付いているので普段開催するのは難しいという事でその前の日曜日にやる事になった。
俺は、その前の土曜日に三人分のプレゼントを買いに母原町に行こうと思っていたが、何と金曜日の夜に真行寺さんから連絡が有った。
『長田君、日曜日のクリパの件だけど、プレゼント渡すよね』
『はい、そのつもりです』
『ねえ、一緒に買いに行かない?』
『えっ、でも一人で買った方が良いんじゃないですか』
『そんな事無い。一緒に買おう。長田君の隣町って母原町だよね。私がそっちに行くから一緒に買おうよ』
そこまで言われると断れない。仕方なく
『分かりました。何時に来られます?』
『うん、午前九時で』
『えっ?ちょっと早くないですか。デパートとか開くの午前十時からだし』
『午前九時に会って朝食一緒に食べよ』
そういう事か。
『分かりました。良いですよ』
『じゃあ、改札に午前九時までに行くから』
『分かりました』
§真行寺
ふふっ、デート出来る。駄目元で掛けて見たらOK貰えた。やっぱり彼は優しい人。楽しみだな。
俺は午前九時十五分前に母原町の駅の改札に居た。隣駅だから家を出るのは早い時間では無かったが、結構この時間まだ寒い。
五分前になって真行寺さんが改札から出て来た。真っ白なダウンに紺の長いスカートそれに黒のロングブーツだ。
「長田君、待ったぁ?」
「さっき来た所です。何処に入ります?」
「あそこに入ろ」
指差したのは普通の喫茶店。確かモーニングもやっている。
「この町来た事有るんですか?」
「うん、何回も来ているよ。別に遠くないし」
彼女からすれば地元になるのか。
一緒に店内に入るとそれなりの人が居た。空いていた二人席に行って座ると店員さんが水の入ったグラスとおしぼりを持って来てメニューを置いたけど二人共モーニングサービスを頼んだ。
何かニコニコしている。
「嬉しそうですね。何かいい事でも有ったんですか?」
「うん、有ったよ。現在進行形で」
「現在進行形?」
「うん、長田君とこうして朝から会えている」
この人恥ずかしい事を奥目も無く言う人だな。ちょっと意外。
「いけなかった?」
「そんな事無いです。でも素直に言われるとちょっと…」
「ふふっ、恥ずかしがりや屋さんだね。でもね、私こうして男の人こういう事するのも初めてなの。だから距離感分からなくて。もし嫌な気持ちや迷惑だったら素直に言って。直すから」
「そうなんですか?とても綺麗だから過去に何人も付き合った人が居るのかと思ったんですけど」
「き、綺麗…」
好きなん人から言われると結構心臓が跳ね上がる。
「どうしたんですか。下向いて」
「何でもないよ」
顔が赤いんだけど。
そこに注文した品がテーブルに置かれた。ベーコンエッグと半分に切られたトースト二枚、横にバターが乗せられている。それにコールスローとコーヒーだ。それなりにボリュームがある。
食べながら
「プレゼントどうしようか?」
「そうですね。大隅と榊原さんは決まっているけどまだ真行寺さんのが、知り合ったばかりで好みも分かっていないし」
「ふふっ、じゃあ一杯知って貰わないとね。私はもう三人共決まっている」
本当は後一人分買わないといけない。早瀬先輩の分だ。あの人は待つと言っているけど元に戻る気はない。でもあの人何故か嫌いに慣れない。何でだろう?俺ってお人好しだよな。
喫茶店でモーニングもゆっくりと食べてコーヒーをお代わりして、一時間位居た後、街に出た。
去年この街を歩いた時は一人で寂しかったが、今年は友人とクリパをする為にプレゼントを買いに来ている。それも飛び切りの美女と。だから気分は悪くない。
駅前から百メートル位歩いた所にあるこの辺では一番大きいデパートに入った。最初に行くのは雑貨屋。
大隅にはオーソドックスだが手帳を贈ろうと思っている。榊原さんはシュシュだ。いつも髪の毛をポニテしている。でもそれはここには売っていない。
それと真行寺さん分は全く頭にない。早瀬さんはどうするかな。この人と一緒に居る時に買う事が出来ない。どうしたものか。
真行寺さんも何か見つけたらしくそれを手に持った。手帳だ。近付いて来たので
「それ誰に?」
「大隅君」
「えっ!」
「不味い?」
「そんな事無いです」
俺が手に持っている手帳を見ると
「あれ、長田君も?」
「実言うと」
「あははっ、気が合うな。嬉しい。でも二つは要らないよね。私は素敵なボールペンにする。そうすればペアで使って貰えるじゃない」
「それは良い考えかも」
という訳で大隅の分は決まった。会計を終えた後、今度は女性の小物を置いている売り場に行った。俺は白と紫の二つのシュシュを手に持つと何故か彼女も同じ物を取った。彼女が
「また同じ物?」
「その様です」
今度は俺が綺麗なレースのハンカチに変えた。こっちのが高いけど。
「ふふっ、やっぱり私達相性ピッタリだよ」
確かに言えるかも。いい加減に作ったプログラムだったけどなんか当たっていたのかな?でもこれで榊原さんの贈り物も決まった。
さて問題はお互いのプレゼントだ。本人は傍に居るし、困ったな。
「真行寺さん、今からあなたのプレゼントを選ぶので通路で待って居て貰えます?」
「うん、良いよ」
長田君が私へのプレゼントを探しに行った。本当に欲しいのは彼の心だけどそれは来年までに貰えばいい。でもキス位して見たいな。あっ、彼がお店から出て来た。何買ったんだろう。
真行寺さんを通路で待たせたお陰で早瀬先輩の分も変えた。良かった。
「次は長田君の物だね。男性用品売り場に行こうか?」
「はい」
今度は俺が通路で待った。少ししてから彼女が出て来た。嬉しそうな顔をしている。
スマホの時計を見るともう午前十一時半を過ぎていた。
「長田君、もし君さえ良ければこの後お昼食べてそれから映画見に行かない。年末年始用の映画が公開されているはずだから」
家に帰ってもやる事無いし。良いか。
「いいですよ」
「ほんと!」
本当に嬉しそうな顔をしている。先に近くに有る映画館に行って見る映画のチケットを買ってからお昼を食べる事にした。上映開始が午後一時からだ十分に時間がある。
お昼は中華屋さんでラーメンを食べた後、また喫茶店に入って時間を潰した後、映画を見た。
前にテレビでアニメ放映されていたものを映画化したやつだ。血管の中の悪玉を善玉が協力してやっつけるという内容だ。結構面白かった。
終わったのは午後三時。外に出ると陽が傾いて夕焼けが綺麗だった。俺はそのまま駅に行って帰るつもりだったけど真行寺さんが
「ねえ、まだ明るいからこんな事お願いするのはおかしいかも知れないけど…。家まで送って行って」
「えっ!」
「もっと長田君と二人で一緒に居たいの」
「……………」
困ったな。そんなつもり全くなかったし
「駄目か。ごめんね無理言って」
「いいですよ。家まで送ります」
「ほんと!嬉しい」
ここで抱き着くのはまだ早い。ぐっとそれを我慢して一緒に電車に乗った。車内は全然空いている。
ボックス席だから彼の隣にピッタリと座ってちょっとだけ彼の腕に自分の腕を回した。嫌がられたら止めればいい。でも彼は始め驚いたけど、そのままにさせてくれた。
驚いたな。いきなり腕を絡みつけて来た。まだ知り合ってそんなに経ってないのに。でも彼女のいい匂いととっても柔らかい物が腕に当たっている。ちょっと止めろとは言えなかった。
母原の駅から二十分弱。田舎だから駅は四つ目。うちからでも三つ目だ。確かに近い。
彼女の家の最寄り駅に着いて一緒に改札を出た。真直ぐ駅から続く道を五分位歩くいていると彼女が止まった。目の前に結構大きな家がある。
「ここが私の家。上がる?」
「流石にそこまでは」
「ふふっ、じゃあ今度ね。今日はとても楽しかった。送ってくれてありがとう。明日楽しみにしている」
そう言うと彼女は門の中に入って行った。
§真行寺
好きな人と居るとこんなに楽しいものだなんて。時間が一瞬で過ぎて行ったよう。また明日会える。嬉しいな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。
「僕の花が散る前に」
https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867
交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。初めちょっと固いですけど読んで頂ければ幸いです。
応援(☆☆☆)宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます