第23話 山田さんのバイト事情


 初日のお昼以来、山田さんは学食に来ては、俺達と合流して一緒に昼食を摂っている。ある時榊原さんが


「山田さん、同じ学部で友達いないの?」

「なんでそんな事聞くの?」

「だって、お昼になると長田君探してここに来るし」

「榊原さん、何か勘違いしていない。このキャンパスのお昼はこのフードコートかアエラカフェでしょ。

 私はあそこのカフェには行きたくないからここに来ているの。一人で食べるの詰まらないし知り合いの長田君達が居るから一緒に食べたいだけよ。何か悪いかな?

 それに同じ学部の友達はいるけど、まだ一緒にここに来るほどの仲じゃないだけよ」


「榊原さん、山田さんがお昼一緒に食べたいというだけなんだからいいじゃないか」

「大隅君…」

「二人共せっかく一緒にお昼食べているんだから楽しく食べようよ。俺も山田さんが一緒に食べるのは良いと思うけど」

「分かった」


 §榊原

 はっきりって面白くないけど長田君と大隅君がこう言うんじゃ仕方ないわね。ここで張り合っても意味無いし。でもこの人長田君狙いじゃないのかな?


 食べ終わると山田さんは少しして大学会館から出て行く。三限があるという理由だ。山田さん、榊原さんを意識して早く席を立っているんだろうか。今度聞いてみるか。


 

 でも結局聞けず仕舞いで十一月も半ばを過ぎ、第五タームの履修登録をする時期が近付いて来た。

 どういう組み合わせで基礎科目を受けるか考えている時、榊原さんが


「長田君、次のタームの履修登録の事なんだけど…。ねえ、私、長田君と一緒に授業受けたいの。だから君の履修科目の授業時間教えて貰えないかな?」

「なんで、俺と一緒に受けたいの?」

「それは…」


 これを横で聞いていた大隅が

「もう、分かるだろう。長田って結構ドン?」

「ドン?」

「うん、鈍感って意味」

「俺が鈍感?そんな事無いと思うけど」

「「そんな事有るぞ(有るよ)」」


「まあ、それに俺も長田と一緒の方が楽しいしな」

「そこまで言うならいいけど。でもまだ決まっていないんだ。どっちにしろ登録は二十八日からだし、そこまでには決めるよ」

「ありがとう、長田君」



 榊原さんが、席を外すと

「長田。榊原さん、お前に気があるんだよ。あれだけ言っているんだから分かるだろう」

「えっ、そうなのか?」

「やっぱりドンじゃないか」

「でも俺、今はそういうの興味無いし。一年次からしっかりとやらないと二年次終りの時、情報数理学コース行けないからな」


「固いなぁ。せっかく大学生になったんだ。学業と恋愛を一緒にしても良いんじゃないか?」

「ちょっと今はいいよ。もっと余裕出てからな」

「長田、高身長イケメンだろう。勿体ないな」

「その言葉全部大隅に返すよ」

「あはは、俺はその自覚無いから」



 結局、第五タームはまた三人で一緒に授業を受ける事になった。榊原さんはともかく大隅とは一緒に勉強するのはいい。そして山田さんとのお昼も続いている。


 十二月に入っても特にこれと言ったイベントも起こらずに時が過ぎて行っている時、俺が学校から帰って自分の部屋で勉強しているとスマホが鳴った。画面を見ると山田さんだ。直ぐに出ると


『長田君、山田です』

『はい』

『いきなりだけど明日会わない?』

『何か用事でも』

『うん、ちょっと相談が有って。学校じゃあ、話できないし』

『分かったいいよ』

 明日は土曜日だ。何も予定は入っていない。でも相談ってなんだろう?



 翌朝、母さんに

「今日はちょっと友達と会って来る。学校の近くまで行って来る」

「分かったわ。お昼はどうするの?」

「多分一緒に食べると思う」

「そう、遅くならない様にね」

「分かっている」


 山田さんとは午前十一時にアルバイトをしていたファミレスのある駅で待ち合わせした。大分寒くなったけどこの時間なら大分暖かい。


 俺が改札の外で待っていると五分くらい前になって山田さんが現れた。長い茶系のスカートに黒のロングブーツそれに暖かいセーターとコートというコーデだ。


「長田君、待ったぁ?」

「いや、十五分くらい前に着いたから」

「良かった。前に入った喫茶店に行こうか」

「いいよ」

 あそこは女子率が滅茶苦茶高い喫茶店だけど、俺が他のお店を知らないので仕方ない。駅から歩いて三分もかからない所に在る。


 中に入ると暖房が効いていて暖かい。店員に案内されるとお互いにコートを脱いで座った。

 店員がグラスに入った水とメニューを持って来たので山田さんが

「ここで軽く食べる。それとも食事は外でしっかりと食べる事にして、ここは紅茶だけにしようか?」

「後者が良いな。ここだとお腹に足らなそうだし」

「そうだね」


 店員にオーダーをした後、

「話しって何?」

「うん、実はね。…長田君、ファミレスでバイトしていた時、厨房の中に大石さんって男性が居たの覚えている?」

「ああ、ちょっとふくよかで丸顔の人?」

「そうそう。その人が、最近ちょっとウザくって」

「ウザい?」


「うん、私、今学校があるからシフトは午後九時までなんだ。それは良いんだけど大石さんが、帰りに送って行くとか言って来るのよ。

 最初は断っていたんだけど、しつこいから駅までならと思っていたら、最近になって寒いし、遅いからアパートまで送って行くとか言い始めてさ」

「なんか面倒そう」


「でね、私、結構ですってはっきり言ったら怒ってさ。人が親切にしているのにとか言って。こっちとしては大きなお世話なんだけど」

「店長に言えば良いんじゃないか?」


「うーん、そこが難しくてさ。どう言って良いか分からない。だって送って行くってしつこく言われていると言っても実際に暴力振るわれたとか危害加えられた訳じゃないじゃない。でもそれされてからでは遅いし。

 それに大石さんってあそこのファミレス結構な古株らしくて店長とも仲が良いのよ」


「そういう事か」

「どうすればいいと思う?」

 また難しい事を聞いてくれたな。俺の経験値では答えられないよ。


 俺が少し黙っていると

「そこでね、あそこ辞めようかと思っているの。もうすぐ年末だから区切りいいかなと思うし」

「でも、困るんじゃないか?」

「うん、でもストーカーとかされたら嫌だし。後付けられてアパートの場所知られたらそれこそ問題になるし」

「何処か余所に当てあるの?」

「全然ない。スマホに載っているバイト先って信用できないし」


 答えの出ないままに時間が過ぎてしまった。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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