第14話 元に戻れないの
月曜日、俺は一人で登校した。教室に入ると何故か皆が心配そうな顔で俺を見ている。顔にガーゼ付けているからかな?美優も前島さんも居ない。
隣の恭二が
「博之、ちょっといいか?」
「ああ」
恭二に付いて廊下に出ると
「土曜日の件、大分広まっている。教室にいる人達はほとんど知っている様だ。だけど皆お前は被害者だと思っている」
「美優と前島さんは?」
「それは俺にも全然分からない」
「そうか」
教室に戻って静かにしていると浦永先生が、いつもの美しい顔を厳しくして入って来た。そして
「皆さん、残念なお知らせがあります。スポーツ科の久保君とこのクラスの前島さんは退学となりました。石井さんは一週間の停学です」
「「「「「えーっ!」」」」」
「静かに!皆さんは今、大事な時期です。この様な事に気を取られずに一生懸命勉学に励む様にして下さい。長田君は昼休み、職員室の私の所に来る様に。今日は以上です」
浦永先生が教室を出て行くと皆が一斉に俺の方を向いた。こういう時、一番後ろは辛い。恭二が
「博之、大丈夫か?」
「ああ」
一限目の中休みになると女子達が寄って来て
「長田君、気をしっかり持ってね」
「皆、長田君の味方だよ」
「うん、何か有ったら相談してね」
なんて言って来た。そんな事言われてもな。
昼休みになり職員室に行ってドアを開けると永浦先生が
「長田君、付いて来なさい」
連れて来られたのは生徒指導室。中に入ると
「長田君、土曜日の事は警察から連絡があり、その日の内に緊急の職員会議が開かれました。結論から言うと久保君と前島さんは退学処分になったわ。理由は分かっていると思うけど。
石井さんの処分は揉めたけど、脅されていたという事もあり、一週間の停学で済みました。
君の件だけど、職員会議では石井さんと君との関係について話題に挙がったの。でもあくまで幼馴染の関係という事で先生は押し通したわ」
「ありがとうございます」
「でも石井さんとは体の関係は有ったんでしょ?」
「…はい」
「正直で宜しい。羨ましいな、先生まだ知らないのよ。…コホン。それは良いとして。君は成績も優秀だし、これからも大変だけど成績を落とさずに勉強に励んで良い大学に入ってね」
「はい、でもなんでこんな事を俺に言うんです?」
「ふふっ、3Aを持つというのは大変な事なのよ。だから皆にはいい成績で卒業して欲しいの。私の為にも頑張ってね」
そういう事か。
「分かりました。勉強に頑張ります」
「はい、それではご苦労様」
俺はその後、急いで購買に行ったけど売り切れていた。仕方なく学食に行って食べた。でも味がしなかった。
放課後になり、一人で家に帰った。美優がどうなっているか心配だけど何も連絡がない以上、俺からする気もない。でもなんで美優はあんな事をしたんだろう。
火曜日も水曜日もそして木曜日も一人で登下校した。クラスの人達は、俺を心配してくれているのか、一緒に学食でお昼食べようとか言って来ている。
だけど俺は気持ちが全く整理出来ていないので、話をしていても心の中に入ってこなかった。
そして金曜日の朝、俺が家を出て学校に向かおうとした時、美優が彼女の家の前で待っていた。普段着姿だ。
「博之…」
「美優」
「博之、話をさせて。お願い」
美優のお願いを断る理由など何もない。むしろ聞きたくて仕方ない位だ。
「分かった。いつがいい?」
「明日。朝来てくれるかな。…行くの気まずくて」
「分かった。午前十時位には行くよ」
「ありがとう。待っている」
その後、俺は学校に向かった。美優が話したいと言っている。なんでこんな事になったのか俺も知りたい。全てはそれからだ。
土曜日の朝、俺は早く目が覚めた。美優の事が気になって仕方が無かった。いつもなら土曜日は両親が仕事に出かけた後、起きて自分一人で食べるのだけど、今日は両親と一緒に食べた。
「今日は、早起きだわね」
「うん。今日、美優の家に行く」
「えっ、どういう事?」
「昨日の朝、美優と会って。俺に話をしたいって言って来たから。俺も話かったし」
「そう、分かったわ」
午前十時少し前に美優の家のインターフォンを押すと玄関が開いて美優が出て来た。
「博之、上がって」
「うん」
来慣れた美優の部屋に入ると俺はローテーブルの前に座った。美優もテーブルを挟んで向かい側に座る。
美優が何も話さない時間が続いたけど、ようやく
「博之、何も言わずに最後まで聞いてくれる。正直に話すから」
俺は頷くと
「GWの最後の日にラブホに入ったでしょ。あの入った時と出た時を前島にスマホで撮られていたの。
そしてそれ元に脅されて。勿論最初は断ったわ。ネットに流す、学校に教えると言っても博之と一緒だったら大丈夫だと思っていた。でもネットに流れたら親も周りから何を言われるか分からないわよと言われて。
一回だけって言うから、仕方なく久保に抱かれたの。でもその時……。悔しいけど久保の奴上手くて私が気絶してしまって。その時の姿も前島にスマホで撮られて…。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
そして更にそれを元に脅して来て、もう逆らえなかった。だから博之に嘘をついて行くしかなかった。そしてその度に気絶してしまって。でもいつかそのスマホを取り返してやろうと思ったけど上手く行かなくて…」
そういう事か。だから美優を抱いても違和感が有ったのか。そして前島の奴がそれを知って美優と俺の仲を裂こうとしたんだ。許せねぇ。
博之が怖い顔をしている。やっぱり私の事怒っているんだ。
「博之、ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも私は博之の事が好き。本当に博之の事が大好きなの。だから、…出来ればまた元の様に戻りたい」
知りたかった。何でこうなったか知りたかった。でも知らない方が良かった。
「帰るよ。元に戻りたいと言われても、今の事聞いたら、すぐに元に戻れるほど俺の器量は広くない。ごめん」
博之が帰って行った。もう元に戻れないのかな?
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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