第42話 ヨシエちゃん


 僕が話しかけるとフードをかぶった小柄な人が、顔を上げてこちらを見た。


 ……ん?


 あれ……?



 女の子────?


 フードをかぶっているので、はっきりは解らないが、多分、髪は短い。

 

 ちょっとくせっ毛の強い髪を、ショートカットにしている。


 

 顔立ちは小動物系の、可愛い感じだ。


 つぶらで大きな目に、少し涙を浮かべている。



 その子は最初、怯えた感じだった。

 だが、僕の姿をその目で捉えると、雰囲気が変わる。


 ────なんかだかよく分からないが、険しい顔で威圧してきた。



 少女はあきらかに、不審者を見る目で、僕を見つめ喋り出す。



「おっ、お前っ! あっ、あれだろ────ニュースに出てた奴だ。お前ッ!」



 その子は体育座りのまま、僕を警戒しながらそう言った。






 えっと……、ニュース?


 僕はテレビに映った事など無い……、ああっ!



 ニュースというのは、このゲーム世界の『ワールドニュース』のことか。



 僕がダンジョンを攻略したという情報は、ニュースで流れていた。


 ソロプレイヤーがダンジョンを攻略したと、ニュースになったばかりだ。




 ニュース記事に、顔は載っていなかった。


 だが────

 

 凄腕のソロプレイヤーがダンジョンを攻略したという情報を知っていれば、目の前にいる僕を見て、ニュース記事のダンジョン攻略者だと連想するのは自然なことだ。


 攻略組は皆パーティを組んでいて、ソロプレイヤーは多分、僕しかいない。




 彼女がそこまで気付いたのなら話が早い。


 この流れで、話を進めよう。


「あっ、はい……それは、僕の事です」

 


「や、やっぱり、────お前がっ! 怪しいと思ったんだ。────あっ、あっちいけ! 人を呼ぶぞ……。その、警察とか、そういうのを……。呼ばれたくなければ、どっか行け!」



 女の子は冒険者のナイフを取り出して、両手で持って構える。


 そして座ったまま────


「シッ! シッ!」


 と言い、威嚇してきた。



 ……。


 ……意味が解らない。



「あ、あの……」


 どういうことだ────?



「お、お前、────私の事をレイプして、こっ、殺す気なんだろっ!!」


 ……は、えっ?



「こっち来んな! は、犯罪者! わ、私を犯そうとしても、む、無駄だぞ! ────お前のような変質者に襲われた場合を想定して、すでに対抗策を考案してあるんだ!!」



 ……えっと?



「────い、いいか、良く聞け……お前が近付けば、私は────思いっ切り、う○こを漏らしてやる!! これは、脅しじゃないからな!!」


 なんか、とんでもないことを言い出した。


 本気なんだろうか────?



 いや、きっと『はったり』だろう。




「嘘だと思うなら、来いよ。……私の覚悟を、見せてやる!!」



 『私の覚悟を見せてやる』か……。


 ────凄く、カッコいいセリフだ。



 僕もいつか使ってみたい。



 ……。


 ……いや、そんな事を考えている場合ではない。







 この子は、とんでもない勘違いをしている。


 僕はただ、仲間に誘おうとしていただけだ。


 ────だというのに、強姦魔と間違われている。




 彼女は何故、そんな勘違いを……?



 そういえば、少し前のワールドニュースにNPC殺人事件のニュースが載っていた。

 その犯人が僕だと、勘違いしているのか?




 ────いや、でも……。


 あの殺人事件の犯人は、三人とも25歳から30歳くらいの大人の男だ。


 ニュースに載っていた写真を見る限り、僕とは似ても似つかない顔だった。



 ────なんで、間違えるんだ?



 僕が混乱していると、広場にいた別のプレイヤーが介入してきた。



「ちょっと、あんた! ここから出て行きな! この犯罪者が!!!」


 

 僕を睨んでいたおばさんが、立ち上がって怒鳴り出す。



 おばさんはその手に、冒険者の短剣を握っている。


 どうやら、このおばさんも、僕の事を殺人犯だと思っているらしい。




 短剣を構えて、近づいてくる。


 ────ヤバい。


「……あの、ちょっと待って下さい。僕は殺人犯ではありません。────顔が全然、違うじゃないですか。よく見て、……って、うわッ」



 僕の弁明を聞くことなく、おばさんが襲い掛かってきた。

 

 おばさんの攻撃は、刃物を構えての突進だ。



 ────マジ、危ない!!



 だが、このゲームで戦闘経験を積んだ僕は、その攻撃を余裕で躱すことが出来る。


「────止めて下さい」


 


 だが、おばさんは止まらない。


 短剣を振りかぶって、こっちを睨んでいる。




「ヨシエちゃん、頑張れ~~!!」


 いつの間にか、この広場で寝泊まりしていた別のプレイヤーが起き上がって、短剣おばさんを応援し出した。


 ちょうどログインしたところなのか、それとも初めから寝たふりをしていたのかは分からない────


 どうやら短剣おばさん『ヨシエ』の、友達のようだ。

  

 仲間からの声援を受けて、ヨシエはさらに張り切って、僕に突っ掛かってくる。




 僕もちょっとだけ、イラついてきた。


 ────今度は、避けない。


 動かずにいる。


 

 拳の間合いにヨシエが入ってから、『スロウ』発動する。


 短剣で斬りかかって来た『ヨシエ』の腹目がけて、拳を突き出す。


 拳をダーク・アーマーでコーティング────


 僕は敵の攻撃が届く前に、拳をその腹へと進める。



「この辺で、良いかな?」


 スロウを解除した。



 ドゴッォォオオオ!!!!!



 渾身の一撃────


 かなり手加減してやったが、凄い威力だ。


 ヨシエの鎧を凹まして、その体を吹っ飛ばした。



 ……。


 …………。


 広場に静寂が訪れる。



 悪は滅びた。

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