第28話 好奇心は猫をも殺す
僕の左方向から、接近してくる五匹のコボルト────
全てパワータイプで、攻撃力が高い。
僕は『スロウ』で時間を停止し、散弾タイプの弾を作る。
撃った後で弾が分裂し、飛び散るショットガンを放つ。
攻撃がなるべく広範囲に行き渡るように、弾は崩れやすくした。
範囲攻撃は弾を慎重に調節しないと、味方を巻き込むリスクがある。
これまで余裕があるときに、実験を繰り返してきた。
どの弾が、どう飛び散るかは把握済みだ。
今回は広範囲をカバーできる弾を選ぶ。
こういう攻撃をするときは、仲間がいない方が良い────
ボッチな僕の、数少ないメリットだ。
────スロウ解除。
ドウッ!!
僕の放ったダークショットが飛び散り、不規則にコボルトたちを襲った。
「ぐごがぁっぁぁぁぁあ!!!!!」
何匹かは、まだ生きていた。
そいつらは痛みで叫びを上げる。
僕は生き残りの数に合わせて、弾を三発作る。
順番にダークショットを放ち、一匹ずつ仕留める。
────ドウッ! !ドウッ!!
「ぐるごぁぁぁっぁっぁぁああっぁ!!!!!!!!」
一番軽傷だったコボルトを、最後まで残してしまったようだ。
そいつは飛びかかって、襲ってきた。
大きく開いた口が、僕の目の前に迫る。
……この口で噛まれたら、死ぬだろうな。
僕は、そんなことを思いながら──
落ち着いてダークショットを、コボルトの腹にお見舞いした。
────ドウッ!!
腹を撃たれたコボルトは、後ろに吹き飛んで地面にぶつかった。
……死んでいる。
「ふぅ……」
僕は敵を倒した。
だが、これで終わりではない。
────敵の迫ってくる気配がする。
こちらに接近してくるコボルトは、まだまだいるようだ……。
休んではいられない。
僕はダークショットの弾を作った。
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」
僕は肩で息をしている。
ステータスの『体力』を上昇させたことにより、僕の持久力はかなり上がっている。それでも、『魅惑の匂い』の効果が切れるまでの連戦はしんどかった。
僕は周囲のドロップアイテムを回収し、特技の『ワープ』を使用する。
連戦でMPもかなり消耗しているが、ワープの消費MPは1なので、問題なく使えた。
視界が、一瞬で切り替わる。
────僕はゲッテ村に帰還した。
それにしても、このゲームはいたる所に、落とし穴があると改めて感じる。
今回使用したアイテム、『魅惑の匂い』だが……。
このアイテム────
使用したパーティは、高確率で全滅するだろう。
ダークショットとスロウがある僕だから、あの連戦を切り抜けられた。
特に高火力のダークショットがあったから、敵に囲まれずに済んだんだ。
火力の低いパーティだと、矢継ぎ早に現れるモンスターを処理しきれずに、対処できなくなってしまうことになる……。
使えば全滅必死の、地雷アイテムだ……。
そんなものが、普通に道具屋で売っている。
────『魅惑の匂い』は、金貨1枚で買える。
値段の低いアイテムだから、プレイヤーはあまり警戒せずに使うだろう。
僕のように……。
ちょっと強くなって、戦闘に余裕が出てきたプレイヤーが、レベルを一気に上げようとして使用し、地獄を見る。
そんな光景が容易に想像できる。
道具屋がこんな危険物を、何食わぬ顔で売っているとは、誰も思わない。
……。
…………これを村の中で使えば、どうなるんだろうか?
ちょっと好奇心が湧いたが、そんな危ない橋を渡る気はない。
普通に考えれば────
安全地帯の村の中では、アイテムは効力を発揮しない。
だから『何も起こらなかった』となるだろう。
だが、万が一にも魔物を村に誘き寄せてしまえば、この村は全滅に近い損害を受ける。……そうなれば、明日のワールドニュースで、僕の名前が大量虐殺者として流れることになる。
そんな可能性が僅かでもある以上、試してみるべきではない。
好奇心はあるが、実験は控えておこう。
そんなことを考えながら、僕はドロップアイテムを持って、道具屋に向かった。
コボルトのドロップアイテムは、全て『コボルトの毛皮』だが、敵の種類によって、毛皮の大きさが変わる。
大きいほど、買取金額が高くなる。
僕の持ち込んだ毛皮は、合計で金貨34枚になった。
────まずまずの収入だ。
アイテムを売ってから、鍛冶屋にも顔を出す。
今日は激戦だった。
装備の耐久度も下がっているだろう。
僕は鍛冶屋で、装備品のメンテナンスをして貰う。
その後で、宿屋の部屋に戻り、ステータスを確認した。
冒険者のレベルが21から27に上がっている。
魔法使いは17から23へ上昇だ。
それぞれ6ずつ上がったので、ボーナスポイントは12増えて14になっている。
……14か。
微妙な数字だ。
もっと上がっていると思ったが、予想より低かった。
『スライムの森』攻略では、スズヨウさんという囮がいた。
────その分、戦闘が楽だったのだ。
一人だと、敵の攻撃が真っ先に僕に向かってくる。
そうなると、戦闘がよりシビアになる。
…………。
……僕は少し考えてから、ステ振りの方針を決めた。
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名前 タナカ ジロウ
職業 冒険者Lv27 魔法使いLv23
戦闘タイプ 特質系 時空間能力者
魔力属性 闇
最大HP 20/140
最大MP 39/670
膂力 28
体力 130
魔力 830
俊敏 62
命中 55
精神力 125
運 70
魅力 115
装備
旅人の服 旅人の靴 旅人のマント 冒険者の鎧 冒険者の兜 冒険者の盾 魔導士の指輪 勇者のネックレス 冒険者のナイフ
スキル
魔力操作 魔力属性変化 魔力具現化 魔力放出
魔法
なし
特技
ダークショット スロウ ワープ
所持金
金貨79枚
ボーナスポイント
14
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