21広間と様相

戸を開き部屋に入ってみれば、何事もなくただそこには細々とした品々が重なる倉庫があっただけだった。


他々人たちはVヴィーを先頭としてしばらく部屋の入り口で待機して警戒体制を取っていたが、10分も経てばじっとしていても何にもならないと前に足を進めることにした。


「あからさますぎるぜ…」

「何で部屋の中央にどん!と白無垢が飾り付けてあんだよ!!ガキでも引っかからねーぞこんな罠!!!」


アナスタシアが吐き捨てたとおり、大部屋の中心にはマネキンに飾り立てられた白無垢が脇に立てられた行灯に照らされてぼんやりと佇んでいた。


「出来るだけ距離を離して出口に急ぐぞ!」


指示通り脇に退かされた荷物ギリギリを通りなるべく白無垢に近寄らないようにして出口に駆ける。

しかし結局、白無垢に最接近した中ほどの壁寄りを通り過ぎても何の反応もなく結局出口の引き戸までたどり着くことが出来た。


「しかし…」

「開かないな」


ガタガタと戸を揺らす音だけが響き全く開く気配はない、アナスタシアに遠隔から開いてもらおうとしたが開放に特殊条件を設定することで操作解錠不可にする[異界]や[ダンジョン]でも偶に見る形のギミックらしくさすがに開かなかった。

試しにとゴブリンたちや他々人も開こうとしたが無駄だった。


「ゔぃー…」

「がゔ」

「…」


一同、出口の前で部屋の中心を睨んで悩む、やらなければいけないことは察しがつくがふんぎりがつかず腕を組んで立ち往生していた。


「…ぁあもう!」


「やるぞ!タダヒト!!警戒体制を取りつつ白無垢を調べるぞ!!!」


焦れたようにアナスタシアが叫ぶ、頭の隅で万が一を想定しつつ[奥の手]を準備して他々人の安全だけは確保すると決意しながら。


「あぁ、そうだなアナ」

「ここでこうして突っ立っていても時間の無駄だ」

「中央の白無垢を調べる、GBガブ、先行してくれ」


「がゔ」


GBガブが頷いて恐る恐る中央に足を進める、一歩一歩時間をかけて歩み、その度に周りを精査するが、何も無い、ただ灯籠の中で揺れる灯りだけが返事をしてるかのようだ。


『がゔ』


中央についた。

念話で接触を試みると伝えてきたのでこちらも了承の意を返す、まして慎重にそっとGBガブがその手を近づけた、そして


「…がゔ」


そして触れる


しかし何も無い


恐れていたような突然の強敵の出現や、罠の発動、部屋の異変も引き戸が開くことも何も無かった。


「…ふぅ~」


留めていた息を鳴らすように吹きながらアナスタシアが緊張を解いた。


「中ボス型でも罠型でもなさそうだな…」

「そのどっちもさすがに部屋の小物に反応してとかみみっちぃ話は聞いたことねーしこのふぁっきんいやらしいジャミングからして恐らくはギミック解錠方式…」

「たぶんその白無垢を中心になんか解かなきゃいけないクソめんどくさいパズルか見つけなきゃいけない資料でもあんなこれは」

「たぶん喫緊の危険性は去った、調査開始するぞタダヒト!」


過度の緊張が抜けて、取り敢えずの一息だけはついた。

気持ちを切り替え警戒は絶やさずに、他々人たちはその場の探索に移ることになった。



「やっぱりこの白無垢にはなにもない、か」


アナスタシアが調べGBガブが調べVヴィーが調べ最後に他々人もその白無垢に触れて探ってみたが、掛下にも小物にも白無垢本体にもらしきものはなにもなかった。


ただそこに白無垢があるだけ、しかしそれが際立って目立ち何の意味もないとはとても他々人には思えなかった。


「これだけ調べてなにもねーならこれ自体には何にも仕掛けはないんだろうよ、たまにあるんだよなこういうの、目立つ銅像ドカンと置いてあるのに結局ギミック自体には関係なくてそこの持ち主の趣味だったとか、自分の銅像作りまくってそこらに置きまくるとかダッセーよな!」


「持ち主?いる…のかそんなの」


「あったりまえだろタダヒト!クソ[公社]がほぼ完全に統制してる[電網世界]と違って[廃世界]は[異界]に侵食されまくりの侵攻されまくりなんだ!!そこに住民がいるとかいないとか関係なく発生しちゃって[企業]も[国]もてんてこ舞いだからな、ここもそんなこんなでこの有り様だろうよ」

「そんなザマだからクソ[公社]に[廃世界]とか定義されちまうんだ、この世界は!」


正直アナスタシアには思比良という家名に聞き覚えがあった、しかしそれをおくびにも出さず話を続ける、オールドキングと聞いてなにも反応しなかった他々人を見て、たっての人間関係に対する臆病さが顔を出し始めていた。


「持ち主が居るのか、この白無垢にも…」

「その箪笥にも、本棚にも、重箱にも、鏡台にも…」

「それじゃあまるでこれは…」


カチリとなにか噛み合ったような感じがして他々人の脳裏にそれ・・が閃いた。


「嫁入り道具」


「!」

「ナイスだタダヒト!良くやった!!」


よーしよしよしとまるで大型犬を褒め撫でるようにドローンを他々人の頭に擦り付けながらアナスタシアが大声を出した。


「わざとらしく回廊に様相・・を出してくるあたり異界主いかいしゅもそうとうこっちを警戒して追い出したいみたいだな!」

「考えてみればいきなり最深層に転移してきたカンスト到達者マスターと素人初心者ビギナー、怪しくてたまらないぜ!」

「しかも到達者マスターのほうは[廃世界]のエセ討伐隊みたいなオートマ[契約者コントラクター]じゃなくてマニュアル[構築者コンセプター]!ビビって小便チビりそうになっててもおかしくないんだ!!!」


ガハハと笑い出しそうなほどアナスタシアが勢いづく、単語の意味は良くわからないが

どうやら良い方向に向かってるようだな、と他々人は跳ねるドローンを見ながら思った。


「…ぉん?」


「あぁ、あんまり良くわからなかったか」

「これについては探索者ビギナーの他々人じゃしょうがないんだ!」


それを疑問に思ったのだろうと推量してアナスタシアは説明をしだした。


「まず[様相]からだ!」


「[様相]っていうのは生物ごと取り込んで変容してる[異界]にしかない要素なんだ」

「[緑の草原]を思い返してみればわかるけど、あの草原にバックストーリーらしいストーリーなんてゴブリンが平和に暮らしていました!しかないだろー、その他にやることは単純にダンジョンを攻略することしかなかったろ?」

「ところが!」

「ところがだ、[廃世界]で人間なり動物なりを巻き込んだ[異界]になってくるとだ」

「そこは借金に苦しむクズどもの地下労働施設でした!とか日々動物を虐待してたサーカスだった!とかアマゾンの奥には古代から伝わる迷宮が!とか陰鬱だったり愉快だったりな背景が見えてくる」

「そしてそのバックボーンありの[異界]になると、[ダンジョン]みたいに自分で発生させたモンスターをボスにするんじゃなくて、取り込んだモノの中からとびきり元気だったり強かったり悲惨だったりするモノを選んでヌシにするんだ」

「そしてそのヌシが「異界主」、異界主はそのまま[異界]に囚われて変貌して[異界]の管理とか調整を任されることになる」

「その異界主が好き放題に[異界]を飾りつけた有り様を、一般に[様相]と呼んでいるんだ!」

「多くは異界主自身の過去とかその場の記憶、恨みだったり思い出だったりをストーリー仕立てにして配置されてある」

「[異界主]になるほどの誰かさんはきっと、死んでも死にきれない想いを遺してるから思わず溢れ出てくるのかもな…」



「そしてここの[異界主]はいまさらにして強引にこの部屋におれ様たちを放り込んで[様相]を見せつけてきた」

「普通の[異界]なら逆に浅層から乗り込んできた無礼者をその[異界]に呑み込んじまおうと演出しながら[様相]を出して場の空気を支配するのが定番なんだ!」

[けどここの[異界主]は最深層にいきなり転移してきた超!ちょう!ちょーーう!実力者のおれ様にビビった]

「力で排除にかかっても敵わないことを悟ったヌシは、さっさと説明してご帰宅願うことにしたんだ」


「おれ様はこの大回廊の隠蔽ぶりからして罠だと勘違いしていたが、本来ここはヌシにとって大事すぎて触れてほしくないところだったのかもしれないぞ」

「本来なら執拗なまでの偽装でここにはなにもないと思わせてそのまま通らせるのが通常だったんだろう」

「それが敵わず頭が良すぎて隠蔽に気づき、ややもすれば形振りかまわず直接的な[異界]破壊に舵を切ることもできる天才が現れた」

「うんうん、大事なモノが壊されるならいっそ、これこれこういうことだからさっさと帰れ」

「そんなふうな意思を感じるぞ、この雑な[様相]の配置には」


「ということで」


「たぶん十中八九ここで[異界主]に関する適当な資料でも見つければそこの出口は開く」


「めんどいが、家探しタイムだお前ら!」

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